変革の停滞を打ち破る!社内を円滑に動かす「組織摩擦」の公式

摩擦を式にする――「空気」を経営会議の議題に変える、組織摩擦係数の読み方(1/2 ページ)

 前回は、重い荷物を床の上で押す例えからお話ししましたね。押しても動かないとき、組織は予算や人という「押す力」を足そうとします。荷物が動くかどうかは押す力だけでは決まらず、荷物と床のあいだの摩擦との兼ね合いで決まります。

 では、その摩擦はどうやって測ればよいのでしょうか。「うちは縦割りがきつくて」「空気が重くて」という言葉には会議室の誰もがうなずくのに、それが議事録に残らないのは、数値化・言語化がされていないからです。

2つの重石と、2人の押す力――重さと推進力は掛け算で効き合う

4つの材料と、1本の式

 組織摩擦係数(F_org)は、次の式で表します。

 F_org =(サイロ度 S × レガシー依存 L)÷(危機感 C × 変革リーダーシップ L')

図1:組織摩擦係数の式――分子は重石、分母は推進力

 分子は組織を重くするもので、S(サイロ度)は部門の壁の厚さ、L(レガシー依存)は古い仕組みへの依存の深さを表します。分母は組織を前に押すもので、C(危機感)は組織全体が「このままではまずい」と感じている度合い、L'(変革リーダーシップ)は変革を引き受けて前に進める意志の強さです。以下、本文ではCを危機感、L'を変革意志と呼びます。

 4つの値はそれぞれ1から5の範囲で測り、分子が重く分母が弱いほどF_orgは大きく、つまり動かしにくくなります。組織摩擦係数は物理の摩擦係数を借りた比喩で、物理量ではありません。

 自分で作成しておいてあれですが、この公式は組織の摩擦を非常に具体的に、そして鋭く数値化と言語化をしてくれます。日本の組織に根強い「和を尊ぶ」=「空気を読み場を乱さない力」が会議室で働くことで停滞が生まれる様を200社以上見てきたからこそ、また、それを打破してくれる第三者の客観的な分析結果が必要と感じたからこそ、生まれた係数になります。

設問に、技術の話はほとんど出てこない

 4つの値は設問への回答から算出していて、当方が作った診断では、1つの変数につき5~6問、合計23問を用意しました。Sでは「ゼロトラスト化の予算は、インフラとセキュリティで整合性が取れていますか?」「インフラ担当とセキュリティ担当が、Slack/Teamsで雑談する共通チャンネルはありますか?」と尋ねます。Lでは「IT予算のうち、既存システムの運用・保守(守りのIT)に消えている割合はどのくらいですか?」が最初の問いです。

 危機感では「役員会議でサイバーセキュリティは『コスト』ですか?『投資』ですか?」と尋ね、変革意志では「このプロジェクトが失敗したとき、社内で一番『痛い目』を見るのは誰ですか?」といった問いが並びます。技術の状態そのものを尋ねるのは、業務アプリの置き場所やVPN・閉域網への依存といった、レガシーの設問くらいです。SaaSや生成AI、Slack/Teamsが出てくる設問もありますが、尋ねているのは導入に何カ月かかるか、誰が把握しているか、組織として取り組んでいるかといったことで、技術の知識は要りません。ゼロトラストを止めているのが技術ではないのなら、測るものも技術ではない、という考えです。

 レガシーの最初の問いには裏付けがあります。経済産業省の「DXレポート」(2018年9月)が引いたのは、日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「企業IT動向調査報告書2017」(2016年度実績)でした。日本企業のIT関連予算の80%が現行ビジネスの維持・運営に割り当てられ、維持・運営の予算が90%以上を占める企業も40%を超えている、という指摘です。JUASの「企業IT動向調査2025」(2024年度、この設問の回答941社)でも、維持・運営とバリューアップの比は76.2対23.8でした。2018年度の77.5対22.5から、ほとんど動いていません。押す力の8割近くが、荷物を今の場所に留めておくために使われている計算です。

なぜ足し算ではなく、掛け算なのか

 この式を見て最初に浮かぶのは、4つの要因なら足し算で点数を出せばよいのではないか、という疑問でしょう。足し算にしなかったのは、現場で見てきた停滞が、足し算の振る舞いをしないからです。

 分子から考えると、縦割りだけがきつい組織でも、システムが新しければ部門ごとに順番に移行していけます。古いシステムだけが残っている組織も、部門の壁が薄ければ一気に巻き取れるでしょう。どちらも、意外と何とかなるかもしれません。厄介なのは両方がそろったときで、古いシステムが複数の部門にまたがって絡み合い、それを外す決定を誰がするのかが決まらないまま、摩擦は跳ね上がります。

 数字で見ると、縦割りとレガシーがともに2の組織の分子は2×2で4、ともに4の組織では4×4で16です。足し算なら4と8で2倍の差にすぎないものが、掛け算では4倍の差になります。現場の体感に近いのは、後者なんです。

 分母はその裏返しで、危機感だけが高い組織では、不安は共有されていても誰が旗を振るのかが決まりません。変革意志を持つ人だけがいる組織では、その人が一人で空回りします。危機感が5でも変革意志が1なら、分母は5にしかなりません。どちらも3の組織なら、9です。片方が極端に高いより、両方がそこそこそろっている方が、荷物は動くのではないでしょうか。

 実は物理における「摩擦」も、掛け算でできています。物理の教科書では、動き出す直前の最大静止摩擦力も、動き出した後の動摩擦力も、それぞれの摩擦係数と、荷物が床に押し付けられる力(垂直抗力)の積として説明されています。水平な床なら、荷物の重さが2倍になれば、摩擦も2倍になります。組織の重さと床の滑りにくさが掛け合わさって効く、という点で、この比喩はかなり理にかなっているかと。

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変革の停滞を打ち破る!社内を円滑に動かす「組織摩擦」の公式

技術を伴う変革や移行が予算や技術の問題ではなく、「組織の摩擦」によって停滞している企業は少なくありません。本連載では、250社以上の実装を支援してきた筆者が、この目に見えない停滞要因を「組織摩擦係数」として可視化し、変革を阻む壁を打ち破るための具体的なアプローチを全5回にわたって解説します。

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