「成熟期を迎えた新興国に積極投資すべき」――ガートナー副社長
日本企業によるアウトソーシングは果たして成功しているのか。コストの削減が先走る中、強いIT部門を作り上げるためには新興諸国と協力するなど戦略的な手段が必要不可欠だという。
オフショアリングやホスティングをはじめ、企業のIT部門におけるアウトソーシングの取り組みはもはや一般的になったといえる。一方で、日本企業の経営課題はますます多様化・複雑化し、ビジネス判断のスピードも加速している。こうした状況に、今のアウトソーシングは対応できるのだろうか。
IT調査会社のガートナー ジャパンは4月15日、CIO(最高情報責任者)やIT部門の管理職などに向けたカンファレンス「アウトソーシング サミット 2008」を開催した。同社のリサーチグループ副社長を務める山野井聡氏は、基調講演の中で「強いIT部門を作るためには、オフショアなど戦略的なアウトソーシングが不可欠だ」と考えを示した。
同社が過去に実施した調査によると、アウトソーシングの目的として企業が重視しているのは「人材不足解消」と「ITコスト削減」という(下図参照)。実際、企業の多くはコスト削減やサービスの向上、要員補充に一定の成果を挙げているが、強いIT部門の構築やイノベーション創出など、戦略的な価値を得るには至っていない。山野井氏は「コストを削減して終わりではない。次の一手につなげていないのが現状だ」と指摘した。財務面の改善はアウトソーシングの目標として「定番」であるため、既にノウハウが蓄積されており、効果が出るのは当たり前という。
では、企業はどのような施策を講じれば良いのか。山野井氏は今後影響するトレンドとして「オフショアリング」「SaaS(サービスとしてのソフトウェア)」「BPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)」の3つを挙げた。
中でも特に強調したのがオフショアリングである。日本企業の導入状況をみると、オフショアリングの金額推移は年率30%で上昇しており、2006年には2100億円に達している。オフショア先は中国とインドがそのほとんどを占めるが、発注の内訳に特徴がある。中国は組み込み式のアプリケーション開発が過半数を超える一方で、インドはERPなど業務アプリケーションの開発に強みを持つ。ただし双方とも、以前のように単にコストが安いというだけでなく、ITスキルが強化されてきている。
「(中国やインドは)ノウハウを蓄積しており成熟してきている。IT部門は新興国と積極的に組むことを検討し、積極的にIT投資する時期にきている」と山野井氏は強調した。
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