【第1回】グローバル経営の全体像を読みとく:加速するグローバル人材戦略(3/3 ページ)
トーマス・フリードマンの言葉を借りるまでもなく、世界は“フラット”になり、あらゆる企業がグローバル競争に介入できる時代が到来した。新連載「加速するグローバル人材戦略」では、グローバル経営における人材戦略について、体系的な理論や成功企業の事例などを交えながら、将来のあるべきグローバル人材像を模索する。
グローバル組織だからこそ共有すべき価値観
次にグローバル経営における構成要素を階層別ピラミッドでみる。これは「グローバル理念、価値観」「グローバル戦略」「グローバル組織&人材マネジメント」の3階層ピラミッドである。これは上が決まらないと、下が決定できない構造であり、上位階層が下位階層の要素に指針を与える。海外の市場で実践される理念、価値観があって初めて組織としてのコミットメントが生まれる。価値観や理念を実践する手段としてグローバル戦略の階層があり、グローバル人材や組織は戦略実践のための手段として位置付ける。
ただし実際の指針策定は、必ずしも上位から順番に始まるわけではない。日本企業に多いグローバリゼーションは、海外での製造拠点の設立をきっかけに海外市場参入が始まり、時間が経ってからグローバル理念の見直しやグローバル人材開発が必要となるパターンである。
グローバル理念に関して、グローバルで事業展開する企業は、世界で通用する価値観や組織文化が必要である。これは概念的なものではなく、組織の存在意義や価値観を明文化し実践することで、グローバル組織としてのあり方を常に問い続けるものである。慣習や価値観が異なる地域にまたがるグローバル組織だからこそ、共通の理念や組織風土はより重みが増す。ただでさえ価値観が異なる地域で事業活動するのだからこそ、理念を討議し設計することが、組織としての一体感や実行力に効いてくる。
例えば、米Johnson & Johnsonの「我が信条(Credo)」や、米Googleの「10の黄金律(Ten Golden Rules)」などには明確に価値観と組織文化が存在する。これらの理念や行動規範は、浸透施策から業績評価、人材育成に至る範囲まで反映され、机上の理念にとどまらない。
フラット化時代の日本企業グローバル化における課題とは、日本的経営のグローバル化にある。それはトップダウン型の意思決定ではなく、参加型意思決定(ボトムアップ)であり、個人型経営ではなくチーム型経営である。これは次回以降、詳しく述べていきたい。
戦略実現のための組織と人材マネジメント
グローバル戦略に関して、理念や価値観を踏まえてグローバルマーケティングやほかの機能別戦略(製造、R&D機能など)のグローバル対応が必要となる。具体的に言えば、世界のどこでどのような製品を開発し、製造し、販売していくかを決定するための継続的な監視と判断が求められる。フラット化する市場においては、外部環境の変化が激しいため、変化に適応する柔軟な判断と勇気ある見直しが鍵となる。当連載では、アウトソーシングやオフショアリング、グローバル会計、情報システムなどの支援活動ではなく、経営視点からのマーケティング戦略を中心とした主要活動に絞っていく。
最後に、グローバル組織と人材マネジメントについては、グローバル戦略実現のための組織と人材マネジメントと位置付ける。ここでの論点は、グローバルとローカルの役割、人材の定義、経営幹部の育成、専門職育成、そしてそれらの人材育成マネジメントと適合した組織体制や制度である。
以上、グローバル経営の意義やフレームワークなどを簡単に紹介した。次回以降、具体的な構成要素とグローバル化の変遷について述べたい。
プロフィール
岩下仁(いわした ひとし)
バリューアソシエイツインク Value Associates Inc代表。戦略と人のグローバル化を支援する経営コンサルティングファーム。代表は、スペインIE Business School MBA取得、トリリンガルなビジネスコンサルタント。過去に大手コンサルティング会社勤務し戦略・業務案件に従事。専門領域は、海外マネジメント全般(異文化・組織コミュニケーション、組織改革、人材育成)とマーケティング全般(グローバル事業・マーケティング戦略立案、事業監査、企業価値評価、市場競合調査分析)。
現在ITmedia オルタナティブブログで“グローバリゼーションの処方箋”を執筆中。
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