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19世紀ドイツの軍事戦略家による「計画実行法」海外ベストセラーに学ぶ、もう1つのビジネス視点(3/3 ページ)

戦いの中では状況が目まぐるしく変わる。上官は目的を明確にし、指令はシンプルにすること。部下は必要な時には自主的に行動が取れるよう、常に準備を整えておく。ビジネスの世界も同様に、目的を達成できる組織づくりが望まれている。

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エグゼクティブブックサマリー
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カール・フォン・クラウゼビッツの「戦争論」

 「計画を行動に移す」ための論理的なアプローチは、フレデリック・ウィンズロー・テイラーの管理法よりも前に存在していました。それはプロイセン軍および1832年のカール・フォン・クラウゼビッツの「戦争論」にまでさかのぼります。

 陸軍士官であったフォン・クラウゼビッツは、「戦争中、物事は十分に油を差した機械のように自ら起こることはなく、実際、機械は抵抗を見せ始め、それを克服するには指導者側の人間は巨大な意志力を持つ必要がある」と記しています。

 クラウゼビッツはこの抵抗を「摩擦」と呼び、ある学者は「不明確さ、間違い、事故、技術的問題、思いがけない出来事、そして意志決定、士気および行動への影響の総体」と説明しています。この摩擦には外的と内的の両方があります。

 軍隊は人間によって構成されており、その人間が気付かない内に自身の摩擦を事象や結果に与えます。フォン・クラウゼビッツは、戦争の混乱の原因はそれ特有の摩擦にあることに気が付きました。この摩擦には3つの主な発生源があります。それは、「不完全な情報」、「不完全な情報の伝達および処理」そして「外的要因」です。このような摩擦が引き起こす結果は、足し算ではなく掛け算で大きくなっていきます。

 微妙な考え方の違いや、流れてくる情報の受け取り方の違いが少しずつ蓄積されると、それが大きな摩擦になるということを言っています。恐ろしいことは、ここではっきりと明記されているように足し算ではなく掛け算で大きくなっていくということでしょう。

軍事マニュアル「訓令戦術」から学ぶこと

 19世紀、ヘルムート・カール・ベルンハルト・グラフ・フォン・モルトケ陸軍元帥はプロイセン軍をより破壊的で実働的にするためにフォン・クラウゼビッツの考えを取り入れました。そして、「訓令戦術」という軍事マニュアルを作りました。「委託型指揮(Mission Command)」として発行された訓令戦術の基本方針は、北大西洋条約機構(NATO)や世界中の軍隊の指導に活用されています。

 フォン・モルトケは、軍の下級将校は自分の力で考え行動できなければならず、必要な時には自主的に行動が取れるよう、常に準備を整えておく必要があると主張しています。「服従は原則である。しかし、原則の前に人がいる」と記しています。

 また、陸軍士官は極めて明確なコマンドを発し、トップ指揮官たちの意図を完璧に理解していなければならないとも述べています。そして、軍事命令は最後の1人にまで伝わらなければなりません。

 さらに、フォン・モルトケは計り知れない未来について計画を立てることは避けていました。なぜなら、フォン・モルトケいわく、「戦争のさなかでは状況は極めて急速に変化し、実際問題、長期的かつ極めて詳細に考えられた命令が完全に遂行されることは稀である」からです。

 フォン・モルトケは将官達に「コマンドのレベルが高ければ高いだけ、コマンドは短く、そしてより分かりやすいものでなければならない」と教えていました。

 フォン・モルトケが提唱する基本的な方針は「最も連携できた時、より自治権を得ることができる」というものです。これは上官によるブリーフィング(概要説明)、および先の命令をきちんと理解しているか部下が上官に確認する「バックブリーフィング」によって左右されます。戦闘前に命令を発する際フォン・モルトケは、命令を1文ずつに分け、1文には明確な直接的意図を1つしか織り込みませんでした。

 フォン・モルトケにとって、70%の成功を収めた計画は許容できるものでした。柔軟性のある組織は、状況によって残りの30%にどう対処するか判断することができるからです。

 現代の組織は訓令戦術の方針を拝借し、それを実践することが出来ます。従業員はミスを犯すことを恐れてはいけませんし、また、実際、ミスを犯すことを許されていなければなりません。「方向性を持ったオポチュニズム」のシステムの中では、指揮系統の隅々まで信頼関係が築けていなければなりません。 委託型指揮法は、戦略を策定し実行するあらゆる固定モデルを拒絶するものであり、「考え、行動すること」――学び、適応すること――を求めるものです。つまり、委託型指揮とは「計画し、実行する」ではなく「実行し、適応する」ことなのです。

 つまり、情報伝達のあり方が摩擦を生むギャップをいかに減らすかにかかっているということでしょう。それに対処する方法の1つが、なるべく単純で分かりやすいものにすることです。

この本の詳細

スティーブン・バンギーは、独立コンサルタントであり、著名な歴史学者です。著書に「The Most Dangerous Enemy: A History of the Battle of Britain」があります。また、ロンドンにあるアシュリッジ戦略的経営センターのディレクターを務めています。

  • ページ数 288ページ
  • 出版社および発売日 Harvard Business Press(2004年3月初版)
  • 言語 英語
  • amazonへのリンクはこちらです。

プロフィール:鬼塚俊宏ストラテジィエレメント社長

鬼塚俊宏氏

経営コンサルタント(ビジネスモデルコンサルタント・セールスコピーライター)。経営コンサルタントとして、上場企業から個人プロフェッショナルまで、420社以上(1400案件以上)の企業経営を支援。特に集客モデルの構築とビジネスモデルプロデュースを得意とする。またセールスコピーライターという肩書も持ち、そのライティングスキルを生かしたマーケティング施策は、多くの企業を「高収益企業」へと変貌させてきた。


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