「当たり前」「思い込み」を正しく疑えるか 大事なものは暗闇の中にあるかもしれない:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
問題や課題が顕在化したときそれまでの仕組みを根本的に壊す勇気が持てず、現状に修正を加えることから始めようと思いがちである。しかしここから企業の競争優位が生まれるだろうか。
過去の成功が未来の成功の妨げになっていないか
そこで獣医さんが横たわった犬の口に水の入ったボールを近づけると、狂ったように飲むではありませんか! それを見た獣医さんは、「もしかしたら」と背骨のあたりの確認を始めました。そこで分かったのは、「背骨に椎間板ヘルニアが出ている可能性が高い……」。
つまりこの犬は、内臓に問題があって水を飲まなかったのではなく、背中が痛くてかがみ込むことが困難なため、水を飲むことができなかった、ということです。
「水を飲まない」=「内臓に問題がある」「内科的に体の具合が悪い」という思い込みが、背中に椎間板ヘルニアがあるという問題の発見を遅らせてしまったわけです。それに気がつくことができず、内疾患の治療ばかりしていたら、本当の原因をどんどん悪化させていったことでしょう。
今回、「破壊と創造の人事」の中でも引用しましたが、私が事あるごとに思い出すようにしている寓話があります。
ジョン・W・ボーウドロウ教授が、2007年の「HR Technology」のクロージング講演で「人事部門がデータを活用できていないと言われるのは、「量」の問題ではなく、経営・マネジメントが求めていることに応えられていないという「質」の問題である」と指摘したときに、引用したものです。
夜歩いていると、ある人が街灯の下で、一生懸命何かを探している様子だった。そこで、「何を探しているのですか? 」と聞いてみた。するとその人は、「家のカギを落としたのです」と言う。それは大変だと思い、手伝うことにした。2人で目を皿のようにして探したけれど、まったく見つからない。そこで、「本当にここで落としたのですか? 」と聞いてみた。すると、「いえ、ここではないのですが、街灯が当たっているのはここだけですから、ここを探しているのです」と……。
この寓話はあまりにナンセンスで笑い話にもならないと思ったかもしれませんが、人事部門のデータ活用に限らず、通常の行動でも気がつかないうちに光が当たっているところばかりを見ていて他の暗闇に光を当てる努力をしていないのではないか、と常に振り返るようにしています。
大事なものは暗闇の中にあるらしいとなんとなく気がついているのに、「手に入れやすい」「分かりやすい」「一般的にそう言われている」といった理由から、光の当たっている部分だけを探っていないか? 「大切なものは、暗闇のなかにあるかもしれないじゃないか」という視点が必要ではないか? その暗闇に光を当てる努力をするべきではないか、と。
ここまでは、仕事術ということで、参考にしてもらえれば幸いです。最後に、そんな考え方を持ちながら、今年の6月に出版した本についての説明を少し。
これまで、日本企業は、モノ・カネの分野に科学的な考え方を取り入れ、グローバル化を果たし、多様化にも対応してきました。しかし、残念ながらヒトの分野はまだまだ「勘と経験」に頼り、グローバル化・多様化は他国から遅れをとっていることは否めません。逆に考えればヒトの分野で抜きんでることが、企業の競争優位性を上げる可能性が高いということです。企業の人事に直接関わっていない人でも企業で働くかぎり、何らかの形での「人材のマネジメント」からは逃れられません。企業の経営に興味がある、関わっているという人には必ず何らかにヒントがあると思います。是非、ご一読ください。
著者プロフィール:大島由起子
インフォテクノスコンサルティング株式会社セールス・マーケティング事業部 本部長
早稲田大学大学院修了・モナッシュ大学大学院修了。大学卒業後、株式会社リクルートに入社。人事部採用担当、経営企画室、「就職ジャーナル」編集部を経て、フリーランスの編集者及びライターとして独立。その後渡豪、モナッシュ大学大学院終了後、Hewlett-Packard Australia LtdのAsia Pacific Contract Centreにて、アジア地域の契約業務に携わる。HPとコンパックの合併時に、日本における契約システム統合のリーダーを務めた。2004年よりITCに参加。人事情報システムの企画・導入に関わり、人材マネジメントにおけるIT活用推進のサポートを行う。
著書:「破壊と創造の人事」(楠田祐・共著) ディスカヴァー・トゥエンティワン連載:日経ヒューマンキャピタルオンライン「走る列車の車窓から 〜システム屋から見る「ヒトゴト」の世界〜」
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