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企業人よ、大いに失敗しろ、むしろ成功するなかれ!? (その2)生き残れない経営(2/2 ページ)

成功から学ぶことは、失敗から学ぶよりも難しい。成功は学習を妨げるからだ。成功したのに、なぜ検証する必要があるのだということになる。しかし検証しない成功の後に待っているのは失敗である。

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成功から学び成功を続ける

 もう1つの例は、成功から賢く学んで成功を続ける企業だ。

 大手電気メーカーのF製造事業所は家電品を主要事業とするが、G取締役事業所長は常に将来の事業を念頭に置く優れた経営者だ。事業所ごとに独立採算制を採用されていたこともあり、通常の事業所長は本社に対して自分の任期中の利益をできるだけ多く報告するように努めたものだが、G事業所長は当面の利益はほどほどに確保し、将来の事業開発のために人材や資金を豊富に投入した。

 この考えは、P.F.ドラッカーの理論を地で行っている。すなわち、ドラッカーは「急激な構造変化の時代にあっては、生き残れるのは、自ら変革の担い手、チェンジリーダーとなる者だけ」であり、チェンジリーダーになるためには2つの予算が必要で、1つは事業継続のための予算で全予算の80〜90%。もう1つは未来のための予算で10〜20%。好不況に関わらず一定に保つべきとしている(P.F.ドラッカー「明日を支配するもの」ダイヤモンド社)。「明日をつくること」を、日常業務に組み込んだわけだ。

 さて、F事業所では在来の家電製品にはない新技術を導入して、情報機器やロボットを次々開発した。千三つと言われるが、数え切れないほどの失敗を繰り返しながらも事業として成功させた情報機器やロボットは数件ある。G事業所長は失敗や成功のたびに、特に成功した時には力を入れたが、開発関係者の他に管理部門からもメンバーを入れた全事業所レベルの評価会議で、失敗と成功の分析と検証を執拗に行った。

 それには手間と時間を相当要したが、G事業所長は執念を持ってこだわったようだ。執拗だったのは「金がもったいないからな」が口癖のG事業所長らしい。その姿勢が、いくつかの成功を生み続けたのだろう。

 成功から学ぶことは失敗から学ぶことより難しいのは、成功そのものが学習を妨げるからだ。成功したのに、なぜその原因を究明したり、検証したりする必要があるのだということになる。

 それはD社の例からも理解できるが、成功が学習を妨げる障害として、(1)成功が自分の戦略や才能によると思い込み、他の要因を捨象してしまうこと、(2)成功により自信過剰になることだが、その成功者に対する社内の評価や処遇が良くなることが自信過剰に拍車をかける、(3)それらのことが成功の原因追求をおろそかにさせること、が挙げられる。

 その結果、成功が自分の才能以外の偶然の出来事や外部要因によることを忘れ、自信過剰から将来の成功を楽観視する傾向に陥り、さらに原因追及をしないために旧来の欠陥があるかもしれないやり方に固執してそこから脱却できなくなる。しかも恐ろしいことに、それらの考え方が社内体質として染み付いてしまい、次の成功が遠のく結果を招く。

 F事業所は事業所長が先頭に立って、失敗、特に成功を学習することによって、それらを見事に断ち切っている。G事業所長のやり方を参考にしながら、成功の落とし穴に陥らない方法を考える。

 (1)まず、トップや経営者が「成功から学習しなければ、次に進めない」という意識を持つように自分自身を洗脳し、その上で執念を持って実行することである。そこが、出発点だ。これはトップ・経営者自身の自覚の問題なので、傍からなす術はない。それだけに、トップ・経営者の責任は重大だということを、彼ら自身が強烈に認識しないとならない。

 (2)成功・失敗いずれからも、特に成功から学習するための検証を必ず行うということを、企業文化として定着させなければならない。これには時間と根気を要する。G事業所長のやり方が、参考になる。これも、トップ・経営者の責務だ。

 (3)学習を恒常的に行う手段として、成功・失敗の検証委員会を常設すると良い。メンバーには、トップを長として企画部門や管理部門からのメンバーを常任とし、テーマごとに関係者を入れる。常設された委員会の事務局は、テーマ完了のたびに失敗のみでなく成功についても検証することをノルマと感じるはずだ。

 (4)成功を学習するためのアプローチ方法がある(冒頭引用のフランチェスカ・ジーノ準教授の理論から一部引用)。

 ・成功を検証する:成功の理由を調査することによって、成功が偶然によるもの、あるいは外部要因によるものであることが判明し、関係者は不愉快になるかもしれない。しかし、次の成功のために冷徹な検証は欠かせない。

 ・体系的に事後評価を行う:軍隊では、戦闘や軍事演習の後、結果に関わらずAAR(注1)を行い、即座に実践できる助言を引き出すことができる。このプロセスは比較的簡単といわれるので企業も取り入れるべきだ。(注1:After Action Reviewの略。 AARの参加者は重要なイベントや活動の後に集合して、a.当初目的は何だったか、b.実際に何が起きたか、c.なぜそうなったか、d.次回はどうするか、の4つのキーファクターについて議論するという難しくない手法だ)

 ・正しい時間軸を使う:行動がすぐ結果に出る場合は難しくないが、結果まで時間がかかる場合は時間軸を考慮しないと運と実力を勘違いするなど、失敗や成功の要因を誤認しかねない。

 上掲D社とF事業所のケースは典型的例かもしれないが、これらから、成功から学習する難しさ、一方成功から学習する効果的方法の一端を垣間見ることができる。

 成功を厳しく受け止めないと、次の失敗を招く。そして、成功を将来の更なる成功に結びつけるには、トップや経営者の考え方や行動にすべてがかかっている。

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。

その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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