なぜ経営現場でドラッカーを実践できないのか――ドラッカーの“マネジメント”……誤解し矮小化する経営者たち:生き残れない経営(2/2 ページ)
経営者には真のマネジメントを実行する努力をしてほしい。そのためには自らを厳しく反省し、マネジメントの真に意味するところを学ばなくてはならない。
ドラッカーは、マネジメントには3つの役割と2つの次元があるとする。
(1)組織に特有の使命、すなわちそれぞれの目的を果たすために存在する。
(2)仕事を通じて働く人を生かす。組織こそ自己実現を図る手段である。
(3)自らの組織が社会に与える影響を処理するとともに、社会の問題の解決に貢献する。
(4)時間の要素が介在する。存続と健全さを犠牲にして、目先の利益を手にすることに価値はない。しかし未来は現在からしか到達できないので、基礎をしっかりさせなければならない。
(5)マネジメントは管理する。成果の小さな、縮小しつつある分野から、成果の大きな、増大する分野に資源を向けなければならない。そのために昨日を捨て、明日を想像しなければならない。
しかし、マネジメントは絶対かつ無条件のものではなく、果たすべき役割によって決定されるべきだとする。
以上から理解できるように、ドラッカーのマネジメントの定義は、「目的を果たす」、「人を生かす」、「社会貢献」、「未来を見据える」、「昨日を捨て、明日を創造する」、しかも「果たすべき役割」で変化するという柔軟性を主張する内容であり、まさに「戦略的」で、「人を生かし」、「能動的」に「変革」し、変化にも柔軟に対応するという包括的な意味を持つ。コッターが主張するリーダーシップの「動的に機能し」「変化に対処する」機能も併せ持つ。
こうして分析してくると分かってくることだが、世の経営者・管理者の多くは、要するにドラッカーの説くところの真の意味のマネジメントについてあまりりにも無知なのだ。彼らは、ドラッカーのマネジメントの定義を肝に銘じて、日頃実行している己のマネジメントを大いに恥じ、反省して、真のマネジメントを実行するよう努力しなければならない。
そのためには、まず自らを厳しく反省し、マネジメントの真に意味するところを厳しく学ばなければならない。
では、どのようにして学ぶか。トップはマネジメントの真の意味を、あらゆる機会を通じて経営者や管理者に知らしめ、学ばさなければならない。その手法が大事だ。馬を水場に引いてきても、水を欲さない馬は水を飲まない。馬に水を飲ませるには、運動をさせたり、炎天下に放置したりして喉を乾かすようにすればよい。
同じように、経営者・管理者に水を飲むように諭す必要があるが、諭しても飲まない場合は喉を乾かせばよいわけだ。例えば会議の席上や社員たちの面前で、「マネジメント」に対する無知さ加減を暴き、大恥をかかせる。これはひとつの方法だが、一旦恥をかけばそれを契機にドラッカーなどの経営書をひもとくとか、社外研修会を受講するとか、仲間と勉強会を開いて議論をするとかを始めるきっかけになる。その他に、喉を乾かすようにする方法はいくらでもある。
企業の教育部門も、社内研修プログラムにドラッカーの主張する真のマネジメントを習得するコースを組み込まなければならない。それらのきっかけを作るのは、トップ・経営者に他ならない。彼ら自身が、まず気づき、厳しく学ばなければならない。そこがスタートだ。トップ・経営陣がそのことに気づかない場合は、その企業は悲劇の道を歩まざるを得ない。
前掲の産業機器メーカー、エレクトロニクスメーカーのトップ・経営陣には、一刻も早く気づいて欲しいものだ。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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