管理者が自らの成長を止めるとき――“止まる”でなく“止める”自己責任だ:生き残れない経営(2/2 ページ)
管理者は自分自身の責任で成長、発展する努力をする必要がある。しかし自分がどうすべきか分からないために、向上を止めている管理者が理解すべきこととは。
管理者がマスターすべき3つの重要課題
さてヒルらは、管理者が理解した上でマスターしなければならない課題3つを提言する。以下に紹介するが、ただここで断っておかなければならない重要な前提がある。3課題は、あくまでもハウツーである。管理者が成長・発展するための実務的な手法である。管理者はそこへいきなりアプローチしても、得るものは小さい。いや、ともすれば得るものはないかもしれない。そこへアプローチする前に、管理者はマネジメントの何たるかを、リーダーシップの何たるかを、基本から学ぶことを筆者は薦める。学ぶのは、例えばドラッカー著書などを読むもよし、社外研修会に参加するもよし、そして仲間と大いに議論するのだ。その結果、基本的な知識を身につけ、そして意識を高め、その後ヒルらの手法を実践すると、ヒルらの手法を十分理解することが可能となり、一層の効果が期待できる。
管理者がマスターすべき3つの重要課題を、筆者の解釈を加えながら以下に紹介する。
1、自分自身を管理すること
自分はどんな人間か、何を考え感じているか、行動の原動力となっている信条や価値観はどんなものか、他人とどうつながっているかは、部下にとって重要であり、彼らは管理者の言動を逐一観察している。管理者に対する信頼は、a.コンピタンス(何を、どのようにすべきかを心得ている)と、b.人柄(動機が善意に基づいている)に対する信頼である。管理者が自己評価すべき点は、(1)その信頼を得ているか、(2)権限に伴う責任を重視しているか、(3)人脈・チームを重視しているか、(4)倫理観があるか、である。
2、人的ネットワークを管理すること
これには、「根回し」も含む。ヒルらが、「社内政治」として盛んにその必要性を説いているのは、実に興味深い。管理者が自己評価すべき点は、(1)自分のネットワークに含める人を体系的に把握しているか、(2)ネットワークの人と頻繁に交流し支援しているか、(3)チームを守るために、ネットワークを活用しているか、(4)チーム目標達成のためにネットワークを活用しているか、である。
3、チームを管理すること
チームを、共通の目的、目標に互いに取り組む決意を持ったグループとしてまとめる。チーム文化を構築し、個々人を尊重する。自己評価すべき点は、(1)将来的ビジョンを策定し、常に練り直しているか、(2)チームの文化、業績を定期的にフィードバックしているか、(3)部下をチームメンバーとして、理解し、管理しているか、である。
以上を、日々の仕事の中に組み込む工夫が必要である。管理者は、自らを振り返るタイミングを設定し、決めた定期的振り返りを必ず実行しなければならない。
ヒルらは、3重要課題のチェックシートを作成している。しかし、上記区分D、Eタイプの者はもちろん、Cタイプでさえ、自分に有利なチェックを入れる傾向があるだろう。そこを注意しなければならないが、これも自分自身の課題であり、誰も注意をしてくれない。
3重要課題についての自分自身に対する定期的チェックを管理者に薦めるが、E及びDタイプの一部にいるどうしようもない管理者は、対象から捨てる。今さら成長を期待しない。説得するだけ、エネルギーの無駄だからだ。Dの一部とC、Bタイプに期待する。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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