昇進の根拠はアイマイ、明確に説明できない:生き残れない経営(2/2 ページ)
多くの企業人は人事評価や昇進の根拠を理解できない、結果を納得できないと感じたことがあるだろう。そんな時どう振る舞えばいいのか。
自分自身で自分の正すべきところを発見
さて、ビーソンが勧める、自分自身で工夫をして周囲からの評価を解読し、キャリア上の目標を達成する道を見つける手法であるが、1つは、自分の上司や同僚に意見を求めることである。2つには、以前の上司や上司の上役に問い質すことである。
さらにビーソンはご丁寧に、意見を求めて、自分に対する厳しい評価を語らせるコツまで解説している。すなわち、(1)根回しとか異議を唱えているのではなく真剣に回答を望んでいる印象を与えること、(2)根本的な要因を隠している婉曲表現に気を付けること、(3)自分を変えようとする場合の特に重要なことを1つか2つ挙げてもらうこと、などである。
しかし、そんな問いやコツなどまったく無意味である。なぜなら、(1)意見を求められた方が、求めた者の昇進できない欠点を正確に知っているか疑問であること、(2)そもそも求められた方が、企業人や管理者として必要にして十分な能力を認識しているかも疑問であること、(3)昇進できないのは、昨日や今日の結果や能力ではなく、長年の積み重ねの結果であるので、例え正しい答えを得られたとしても即効性はないこと、という理由からである。問い質さないよりマシだというに過ぎない。望むなら、実行してみることを妨げない。
では、どうすべきなのか。基本的には、自分自身で自分の正すべきところを発見し、自ら正す努力をするしかないのである。なぜなら、自分のことは自分が一番知っているからである。上記の3カテゴリーは、内容には難点があるものの、非常にうまく言い当てていると思う。それを自ら学び、自ら体得するしかないのである。
ただビーソンの「不可欠要因」は言い直しが必要で、簡潔に表現するなら(1)前向きであること、(2)創造的であること、(3)協調性があること、が必要条件であると筆者は経験上考える。通常ともすれば最重要視される「好業績」も加えてビーソンの定義は、むしろ十分条件である。実際の経営現場で行われる人事評価の基準は、基本的にこの3つである。
しかし、人事評価や昇進の現実(ホンネ)を解説しておく必要がある。理解しやすくするために敢えて箇条書きにする。
(1)冷たく言ってしまうと、筆者の考えで列挙した3不可欠要因は、ほとんどの場合人間に本来の「素質」として備わっているものである。新入社員の時から、その差が新入社員間で歴然としている。従って、往々にしてよく評価された者はいつまでもよく評価され、評価されない者はいつまでも評価されない。素質として備わっていない者は、意識をして努力し、身に付けなければならないということになる。
(2)人事評価や昇進の根拠は、ビーソン指摘のように確かに不文律である場合が多い。例えば某大手企業で、人事評価を定性的から定量的に変更し、客観性と公平性を持たせようとした。しかし管理者達が新基準に則って、例えば業績を何%上げたから何点、部下指導をどこまで実行したから何点、研究報告書や改善提案を何件提出したから何点などと評価したが、定量評価と定性評価をしていた時との結果に大差が出て、場合によって逆転した。評価者は慌てた。彼らは、従来の定性評価の結果に定量評価点を逆算して割り当てて取り繕った。ビーソン主張の直感的感情が、生き延びたのだ。それが、実態だ。
(3)実績主義適用のケースが、少なくない。好業績を上げている者は、多くの場合能力に関係なく評価がよい。たまたま好業績の部署に配置された者は幸運といえる。経営能力があると思えない好業績部門出身者が、役員に上り詰めるケースを多く見受ける。しかし能力がなく上り詰めた者は、職務を十分こなせず、周囲からも蔑まれ、気の毒ではある。
(4)上との個人的つながりで評価され、昇進するケースもたまにではあるが、見かける。しかも、大手企業に見かけるのだから驚きである。
こうして人事評価や昇進の実態をホンネで垣間見てくると、ビーソンが指摘するとおり昇進の基準を明確化していないか、していても破る企業が多いように思われる。昇進は多くの組織で “不文律”によって決められ、昇進決定は恣意的で政治的に行われ、シニア・マネジャー達が抱くあいまいな直感的感情によるものであると考えざるを得ない面がある。
ただし断っておくが、これに反して明確な昇進基準を持ち、公平・公正に人事評価が行われている企業もある。
さて、こんなホンネを語られても、企業人はどうすればよいのか迷うばかりだし、努力しても無駄ではないかとさえ思われてくるかもしれない。
しかし、努力することによって道は開ける可能性はある。前述した、昇進を決める不文律の3カテゴリー、ただし不可欠要因は修正後の内容でなければならないが、これを身に付ける。さらに望むなら主体性を出すために、自分の確固たる意見を持って自己主張をする、ただTPOは十分心得る(TPOは意外に重要である)、という努力をしてほしい。
さらに詳しくは、「社会人基礎力」を参考にしたらよいと思う。「社会人基礎力」は、経済産業省が職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力として2006年から提唱しており、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つの能力、及び12の能力要素(主体性、実行力、課題発見力、創造力、発信力、情報把握力など)から構成されている。
この「社会人基礎力」には、大学教育との関連付けがない、産業界の要請に重点が置かれていて人格的成長の視点に欠ける、実効性が実証されていないなどの批判はあるが、取り敢えずは企業人として参考にできる内容である。
努力をすれば道は開かれる可能性があるし、仮に道が開かれなくても、根拠薄弱な人事評価や昇進など世俗に煩わされることなく、仕事にやりがいが出て、楽しく取り組めるようになるはずである。それだけでも、努力をした価値はあろう。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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