「学習という快感」を刺激せよ! ――伝わるコミュニケーションの方法論:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
伝えるためには聞き手の「知っていること」(既知)と、これから伝えようとする「知らないこと」(未知)を結び付けること。
ちなみに、既知と未知をヒモづけるのを脳内マップの「ペアリング」と呼び、これ以外にも
- セグメンティング:軸で切ったうえで全体と個々の要素の関係を明らかにする
- ソーティング:一見すると何のつながりもないものの、別の観点から見た同質性を明らかにする
- グレーディング:何かと何かの順序(グレード)や位置関係を明らかにする
- クリアリング:相手が「知らないこと」、「できないこと」を分からせる
という、全5技法を、わたしの最新の著書「心をつかみ人を動かす 説明の技術」(日本実業出版社)では、実例とともに紹介しています。
もちろん、講師としてだけではなく、ビジネスの現場で難しいことを分かりやすく、分かりやすいことを面白く説明することが求められる人には参考にしてもらえるのではないでしょうか。
食欲・性欲と並ぶ「学習という快感」
そして、「どうすればモノゴトを分かりやすく説明できるのだろう?」と10年以上にわたって試行錯誤してきた結果見えてきたものがあり、それは「人間は根本的に学習を好む動物である」という確信です。
冒頭に、こちらが丁寧に教えてやっているのに反応が悪い部下の例を出しましたが、厳しいことを言えば、それは伝えかたが悪いから。詳しくは上述の著書に書きましたが、「進化心理学」という最新の理論に基づけば、何かを学ぶことは次世代に遺伝子を残すという人間の根元的な欲求に合致するものであり、食欲や性欲と同じぐらいの大きな快感をもたらすという仮説が成り立ちます。
とはいえ、現代社会が生み出したロジカルな説明、それは例えば「大事なポイントは3つです、第1に……、第2に……」のような話し方では、われわれの遺伝子に組み込まれた「学習という快感」を刺激することはできません。むしろ大事なのは、ストーリー感。イキイキと状況を描いて聞き手を巻き込み、「なるほど!」という感動をもって大事な論点を伝える……。それは例えば、原始時代の語り部が、夜ごと繰り広げるたき火のそばのお話会のようなものかもしれません。それはワクワクする体験であると同時に、部族の知恵を子供たちに伝える大事な儀式であるのですから。
これを現代に再現させるためにわたしが編み出した方法論がPARLの法則で、具体的にはProblem、Action、Result、Learningという話し方の順序です。ストーリー感の重要性が分かっても、それができるようにならなければ意味はありません。これまた属人的と誤解されがちな分野で、例えば故スティーブ・ジョブズ氏などは天才的なストーリーテラーだと奉られていますが、実際のところはその魅力を支えるのは、圧倒的な練習量だったと言われています。
ということは、ジョブズ氏の練習の背後にある考え方をPARLに法則化して、「型」から入って場数を踏めばストーリーテリングの名手になるのも夢ではありません。もちろん、ジョブズ氏クラスの天才になれるかは保証の限りではありませんが…。ただ、このPRALの法則を初めとしたストーリーテリングの技法は検証されつつあります。後進の講師を育てるために始めたわたしの認定講師制度がそれで、彼らによってストーリーテリングの嵐が日本全国に吹き荒れる未来が、わたしには見えています。
……と、本稿も最後にストーリーっぽくまとめてみましたが、正直なところストーリー感をもって語るのは最初はちょっとテレくさいものです。でも、それを乗り越えてやってみれば、聞き手が目を輝かせて話に聞き入ってくれる姿に話し手のテンションも上がるのです。
著者プロフィール:木田知廣(きだともひろ)
シンメトリー・ジャパン代表。MBA (英国London Business School)。マサチューセッツ大学MBAプログラム講師。CTI認定コーチ。
米国系コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにて活躍した後、新たな知見を求め、1999年、EU統合のまっただ中にある欧州へと旅立つ。ビジネス留学先のロンドンにおいて、異なる価値観を持つ人々をマネジメントする機会を得るがその難しさの洗礼を受け、コミュニケーションの変革を迫られる。
これをきっかけに、異文化組織マネジメントの権威、ロンドン・ビジネススクールの故スマントラ・ゴシャールに師事し、「論理的なコミュニケーション」への考察を深め、実践していく(2001年MBAを取得)。
その後、株式会社グロービスにて社会認知型大学院の立ち上げプロジェクトをゼロからリードし、苦闘の末に「グロービス経営大学院」の前身のプログラム、GDBAを2003年4月に開校させる。これにより、同社において毎年1回与えられる「プレジデント・アワード」(社長賞)を受賞。
2006年、シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、代表に就任。
論理とともに心理的なコミュニケーションの秘訣を伝授するセミナーは、参加者から圧倒的な支持を受けている。講師の育成においても、「説明の技術」をコアにした認定講師制度は、多くの成功者を輩出している。
著書に、『これなら買える! 投資信託 物語で学ぶ賢い投信の選び方』(ダイヤモンド社)、『ほんとうに使える論理思考の技術』(中経出版)、『心をつかみ人を動かす 説明の技術』(日本実業出版社)がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- リーダーならもっと数字で考えなきゃ! ――51のフレーズで学ぶマネジメントの鉄則
- 現場のマネジャーに贈る! 行動科学マネジメントの教科書
- パーソナル・リーダーシップで仕事を進めろ! 〜9つのビジネス筋トレ
- 成功のトリセツ
- 求められるセルフマネジメント! 挫けない行動がリーダーを強くする
- リーダーシップ3.0――カリスマから支援者へ
- トラブルを防ぐ! パート・アルバイト雇用の法律Q&A
- お金のお片づけで今年はスッキリ「毎日○×チェックするだけ なぜかお金が貯まる手帳術」
- 仕事の生産性を高めるエクセル&ワード術
- 「豆と油で生まれ変わる! からだキレイダイエット」は哲学的な本なのである
- 急増する管理職になれない40代
- 不況をチャンスに変える! 「儲け」を生み出す「すごい仕掛け」とは
- 日進月歩のIT――どこまで知っておくべきか
- 経営者たるもの、経済の流れを正しく認識すると同時に、家電メーカーの失敗に大いに学ぶ必要がある
- 今の時代に求められる、リーダーに必要なメンタリティ
- 営業マンは疑う事を覚えなさい
- 悪用厳禁! マグロ船の船長が、船員に命がけの仕事をさせる秘伝の技術
- 入社10年目の羅針盤
- 仕事で悩むのは当然。でも考え方ひとつで「スッキリ仕事術」
- 1万人の失敗談から分かった夫婦の法則、1万人が出した答え「結婚は技術である」
- 仕事は6勝4敗でいい
- いま「反論する技術」が求められている。それは「違う立場の」の人と、感情ではなく、冷静に意見交換できる力
- 誰でもロジカルに話せる! 魔法の方程式
- 今嫌われても、将来感謝される上司になれ
- MBA社長は仕事をシンプルに考える――できない部下を「できる人」に
- 「出る杭」活躍必須の激変環境
- 日本人の流儀――百年塾の目指すもの
- 「逆から考える」――限られた時間内に最大のアウトプットを出すためのヒント
- もっと部下には数字で考えさせなきゃ!――部下を「黒字社員」に変える方法
- カリスマは声を武器にする!
- 経営者は、世界経済が厳しい時こそ、若い人材の育成に力を入れるべきである!
- どの業界でも生き残ることができる「自立」したビジネスマンを目指せ!
- 成功企業が密かに取り組む事前期待のマネジメント
- スキルは増やすな、呼び覚ませ
- 世界で勝負できる人、できない人──自分に負けないことから始めよう!
- 「実践するドラッカー〔事業編〕」――42年ぶりに顧客が増えた
- メタボもうつも、食べて防ぐ――タフなビジネスマンの食事の秘訣
- ビジネスパーソンよ、大志を抱け