行動は直すことができるがアメリカ人はやめられない
部下が大切な顧客訪問の日にネクタイを忘れたとしましょう。上司は怒鳴りつけます。「お前はやる気がないのか!」目に見えたのはネクタイをしていないということです。やる気がないというのはあなたの解釈で、実際にやる気がない行動というのは存在しません。
「ネクタイを締めてくるべきだろう」といわれれば、部下は素直に謝れます。行動は直すことができるからです。ところがお前=やる気がないとIDのレベルを直撃することを言われた人の脳は人格攻撃と捕らえてしまい、傷つくか怒るかしてしまうのです。
会議中にガムをかむアメリカ人に対して「ガムをかむのをやめてください」といえば、行動ですから、相手はすんなりやめてくれるでしょうが、「だからアメリカ人は困るんだ」といわれても、アメリカ人はやめられません。
なので、必ず目に見えたことについて言及すること、あなたは=○○という言い方は避けたほうがいいです。特に日本語はこのあなたは=○○という表現(つまりIDを直撃する表現が非常に多い言語体系を持っています)
あなたは=意見が違う、脳はIDで理解し傷つきます。自分が否定されているように取ってしまうのです。しかし英語では“you have a different opinion. Have”(持っている)なので行動のレベルにはじめから落ちるのです。
自分が頭にきたときも無意識にIDにつなげてとっている場合があります。
「そこ、散らかっているね」と目に見えたことを言われただけですが、「わたしはだらしがない」と感じてしまう。このような受け取り方が習慣になっている人もいます。
逆に「君はだらしがないね」と言われたら、「いったい何を見てそう思われたのですか」と質問するだけでIDのレベルと切り離すことができ、行動を変えることで傷つかない方法を選ぶことができるのです。しょせん、人は目に見えることでしか、人を判断することはできないということを改めてしっかり認識しておくことも大切です。
リストラで残念ながら鬱になる人も同様です。「ボクがだめだ」と思ってしまうのではなく、リストラは経済不況という環境の問題と取ることができれば、その後の行動が変わります。
「断わられる」が「嫌われている」にすり替わる人、「頼む」が「仕事を振られただけ」となる場合、あるいは上手に褒められない、謝れないというのも同様のメカニズムが働いています。
目に見えることを常に確認して、それをきちんと伝えること。また言われたことを目に見えるレベルに変換する習慣をつけることは、コミュニケーションを飛躍的に良くし、ひいては人々のパフォーマンスやモチベーションを上げることにつながります。
著者プロフィール:田中ちひろ
株式会社ヒューマンスキル・アカデミー代表
主に日本、ヨーロッパ諸国で、英語、イタリア語、日本語の3カ国語を使い分けながら、トレーニング、コーチング、セミナー活動を展開する。
大手日本企業をはじめ、25 カ国籍、8000人のトレーニング実績をもち、NLP の世界的権威ロバート・ディルツ博士から「人とカルチャーの違いを限りなくシンプルかつエレガントに融合するトレーナー」と称される。
複数の国籍が交じり合う多様なクライアントを相手に、20 年間にわたって国際舞台の第一線で活躍 。単純な精神論など通用しない厳しい要求に、常に「結果」を出すことで こたえる。
その実務経験に裏打ちされた的確な分析、コンサル、トレーニングは、世界中のクライアントから絶賛されている。とくに、性別、世代、業種、国籍などカルチャーの違い(=思考傾向や行動パターンの違い)を考慮に入れたグローバル人材教育に力を入れる。
NATOも採用するドイツの「ID コンパス研修(思考傾向&ジョブ・モチベーションの分析システム)」 (日本唯一のパートナー)、国連で行われていたエクササイズを用いた「マ ネジメント研修」および「グローバル人材研修」、さらには毎回感動で泣き出す人が続出するキャリアアラインメント「自分軸研修」、人間の身体や脳科学を利用したストレスの解決と予防を実現した「ストレスゼロ・シリーズ研修」、などは、国籍を問わずファン が続出している。
その活動内容は、イタリアのテレビ番組、日本のラジオ番組などでも取り上げられ、メディアでも活躍。海外生活が長いがゆえ、日本の伝統文化や精神に対する愛着は人一倍深いものがある。著書に『ストレスを捨てる技術』(中経出版/文庫)がある。
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