セミナーで、600万円以上をドブに捨てた経験から学んだ部下マネジメント:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
コミュニケーションのテクニックは、無理に使ってもコントロール使用としていることを見破られる。善意の気持ちを持って使うことが大事。
「来た!」と思ったので、満面の笑みで「何ですか?」と答えたくなったのですが、先ほど笑顔だとお金を借りに来たと疑われたので、パソコンでのデータ入力作業を中断し、極力普通の顔で振り返りました。
「先週の進捗の報告なんですが、○○は、××まで進みました」
「たくさん進めてくれてありがとうございます。とっても助かります」
「で、今週なんですけど、△△まで進めようと思うのですが」
「はい。僕もそれでいいと思います。いやー、いつも自主的に進めてくれてとても助かります。ありがとうございます」
いつもは報告をもらっても、パソコンの画面から目を離さずに、生返事で「はい、はい」くらいしか返事をしなかったわたしが、ほほえみを浮かべ、うなづきながら相手の話を聞くと、とてもとまどった反応をされてしまいました。
先の社員と同じように、「また、週末で何か習ってきたんですかぁ?」と言われ、「なぜ、分かるんだ?」という見破られたドキドキした気持ちと、「どうして、お金と時間をかけて、より良くなろうと思っているのに嫌がられるんだろう?」という、分かってもらえない怒りの気持ちが入りまじった感情でいっぱいでした。
「なんか、すごくコントロールされているような感じがしてしまって……」と、申し訳なさそうな、ちょっとうつむいた表情で言われました。
「いやいや、全然そんなワケではないんですが」と、目が泳ぎながら苦しまぎれに否定をしてみたあと、強引な感じで話を進めていきました。
このあとわたしの気持ちはとても複雑でした。「職場のためにこんなに頑張っているのに!」という、分かってもらえない怒り。コントロールしようとしていたのを見破られた恥ずかしさ。それぞれが絡み合ったイヤな感情を味わったのです。
しかし、冷静に考えてみると、「やはり悪いのはわたしだ」と反省をしました。「人を操ってやろう!」。そう思ってしまうと、どうしてもテクニックでコントロールすることを考えてしまいます。当たり前ですが、「自分のことを操ってほしい!」と願う人はいないでしょう。人はみな、自分が動きたいから動くのであり、人からコントロールされるのは嫌なのです。
会社の上司と部下との関係だけでなく、友人関係や家族関係でも同じだと思うのですが、人は「この人が言うんだから動こう」というような信頼関係や、「この人の味方にならなってあげたい」という人柄があって初めて動いてくれるんだということが分かりました。
先ほどの、「笑顔で接する」「承認する」というコミュニケーションのテクニックは、「部下に気持ちよく働いてもらえたら」という善意の気持ちを持って使うことが大事だと思います。
でも、これらテクニックを、わたしのように相手を直接動かすためのテクニックにしてしまうと、それはきっと見破られ相手を動かすどころか、強い反発を受けてしまうのです。「テクニック」というものは、あくまでも、「相手のためになりたい」という、「優しさ」という土台があってはじめて生きてくるものなのだと思います。
著者プロフィール:齊藤 正明
ネクストスタンダード代表、人材コンサルタント / 研修講師
1976年 東京都 昭島市に生まれる。
2000年 北里大学 水産学部 卒業。バイオ系企業の研究部門に配属。
2001年 勤務先の研究所では、所長の無理な命令のため、スタッフは体調を崩したり、やる気を失い業績も雰囲気も低迷していた。そんなある日、齊藤自身もまた、理不尽な業務命令により、マグロ船に 乗せられることとなる。しかし意外にも、マグロ船で見聞 きした、漁師たちのコミュニケーション術のすばらしさに感銘を受ける。その後、研究所と他部署とのコミュニケーションの良好化を目した社内活性 プロジェクトを成功に導く。
2007年 退職。人材育成の研修や講演を行うネクストスタンダードを設立。『日本一のマグロ船に学ぶ! 職場をよりイキイキさせるコミュニケーション』などの研修が好評を博し、各地で活躍中。
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