常識も東西南北――アイデア外交官が42年の外交を振り返る:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
国によって文化や宗教、価値観は違うもの。世界に通用する常識はない。
政治家とのつきあい
総理大臣が外遊などのときに記者団を引率する報道課長時代、多くの首相と行動をともにしている。1972年に初めて田中角栄首相と外遊したときのことを、坂本氏は、次のように語る。「本当に気さくで、出身地をきかれたので"北海道の余市です"と答えると、"余市の坂本といえば町長の親戚か?"と聞き返されたので"親父です"と答えると、町の陳情で知っていたらしく、世の中は狭いと喜ばれ、非常にかわいがってもらった」
また、大平正芳首相が外務大臣のときに、石油ショック対策を目的とした会議のために米国に同行したときのことを坂本氏は、「キッシンジャー国務長官の影響で会談が実現できなかったが、昼食会で大平外相が日本の考えを発言し主張を通した。会議の席上で真っ向から反対したら実現できなかったが、昼食会を利用した大平外相は知恵者だと感心した」と話している。
中でも印象がよかった政治家は竹下登首相だったという。坂本氏は、「竹下首相は自宅でのブリーフィング後に必ず"ごくろうさん"といって玄関まで見送りにきてくれた。玄関まで見送ってくれた首相はほかにはいなかった」と話している。
皇室外交の重要性
皇室外交について坂本氏は、次のように語る。「日本の皇室は、世界で最も長く続いており、世界中から尊敬を集めている。ぜひ積極的に推進してほしいと思っている。ただ困るのは、海外の要人から"陛下に会わせてほしい"という要望が多すぎ調整が難しいことだ。私自身は、1975年の昭和天皇の御訪米に参加したが、陛下が海外に行くとすばらしく歓迎された」と話す。
「このとき"陛下お願いがございます"と声をかけると"何でしょうと"お答えになった。"米国到着時に生テレビ(生放送)があるので、飛行機のタラップをゆっくり降りていただけませんか"とお願いするとそのとおりにしていただけた。あとで宮内庁から"陛下にお願いとは何ごとか"と叱られたが……」(坂本氏)
米国の公式行事で演説をされたとき、通常であれば2〜3回の練習だが、5〜6回と練習を繰り返された。「陛下は、"明日の演説は生テレビだからね"とお答えになった」と坂本氏。このときも「宮内庁から"生テレビ"という言葉を教えたのは坂本さんでしょう。これまで陛下のお言葉に生テレビはなかった"と叱られた」と坂本氏は笑う。
今後の日本に期待することについて坂本氏は、「初めてコロンビアに行ったときに"日本人だ"と話すと、現地の友人が"私は2人の日本人を知っている。野口英世博士と荻野久作博士だ"と話す。野口英世は黄熱病の研究で、荻野久作は、荻野式がカトリックで認められている唯一の避妊法であるためだ」と話す。
坂本氏は、「1979年はロンドンにおり、その年、マーガレット・サッチャー氏が首相になった。首相になる前に大使館に招待したら"日本料理はこんなにまずいのか?"と言い放った。今度は日本に招待したら、最後の記者会見で"日本ではすばらしい経験をした。原子力発電、コンピュータ、ジェットエンジンなど、すべて英国人が発明した。その発明を利用して製品化し経済大国を作り上げた"と捨てゼリフを残した。今後の日本には、IPS細胞や地震予知など、科学技術の発展のために貢献してほしい。そして私もサッチャーのような台詞を残したい」と期待の言葉で講演を終えた。
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