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日本型インダストリー4.0 における現場マネジメント視点(3/3 ページ)

日本には世界が認める強い現場があり、人を慮る文化や革新的な要素技術もある。日本の強みを生かした「日本型インダストリー4.0」を推進していく上で、必要となる現場マネジメントについて考えてみる。

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Roland Berger
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トップの果たす8つの役割

 1つ目の役割は、「全員で経営する」だ。トップは、お客様への貢献と収益の徹底した見える化を通じて、会社経営への全員参加を促さなければならない。現場を担うそれぞれの社員は、お客様に提供する製品やサービスの品揃えの充実に貢献すると自らの存在意義が確認できる。さらに、そうした製品やサービスを提供する中で、お客様の満足と会社の収益を生み出したことが見えると大きな喜びを感じる。トップはこうした1 つ1 つの成果をタイムリーに捉えながら、日々社員にゲーム感覚で楽しく仕事をさせなければならない。

 2つ目は、「見える化を突き詰める」で、その言葉の通り、妥協をしない見える化だ。良いこと、悪いことを全てを隠さない。収益の結果報告だけで満足するのではなく、全ての情報をその瞬間、瞬間のオペレーションの改善に活用する。足元では、既存製品の売上増をプロセスの連鎖に分解して、その非効率な部分を見える化する。見える化の頻度を極限まで高めつつ、現場の自律的な動きを促せば、みるみるうちに改善を果たしていくはずだ。一方、ストレッチした中長期の展望をみんなで共有すると、部門間の連携を加速できる。自らの部門に閉じていては手に負えない中長期のゴールを目の前にしたり、単独ではできないことへのチャレンジがあると自然と協力が始まる。

 3つ目は、「トップの熱を伝える」である。デジタル化した世界でも、必要なことがある。お客様と製造現場、仕入先をつなげるために、リーダーが自ら現場に行くことだ。熱は現場を語れて初めて持つことができる。デジタル化した世界だからこそ、それを伝える道具があるからこそ、より熱を持つことが重要になる。ITによる活動管理は、熱そのものを作るのになんの役にも立たない。身を削って各構成員のトップや現場を訪問、面談することで初めて得られるのだ。

 4つ目は「現場の発想を超越する」だ。これもトップにはなくてはならない視点だ。特に、デジタル化した世界では、現場の視野も広がっている。部門間の連携も広がっている。そこで、トップには現場ではどうしても難しい、より遠いもの同士をつなげる発想が大事になる。社内の全部門、材料メーカー、そしてお客様を見渡して、現時点でつながりの密度の薄いところを探す。全ての情報にアクセスできるトップだからこそ成せる技だ。異質な能力を棚卸して、それを活用すべき部門を見極めていく。 「天才が決めて、現場は従うだけ」という欧州では決して生まれることのない突然変異が期待できるのだ。

 5つ目の役割は、「能動的に外部を巻き込む」である。お客様の満足を生み出す上で、すぐに役に立つ、将来役立つパートナーのポートフォリオを常にトップが持たなくてはならない。既に強みを持つ会社が外部にいて、かつ社内で持つには時間やコストが掛かる機能は、内製に拘らず、外部活用の選択肢を必ず考える。また、工数の割にお客様への貢献が低い機能などは、スケールが効く会社や固定費の安い会社をパートナーに迎える。パートナーとしての有用性をいち早く見極めて、能動的に話し、顧客起点で主導権を握るのだ。

 6つ目は「リスクを一身に背負う」だ。失敗のリスク、情報流出のリスク、他社に出し抜かれるリスクなど、全てのリスクをトップが背負う。これは決して、単に度胸を持てばいいわけではない。一番重要なのは、社員、仕入先、取引先など全てのステークホルダーとの徹底した対話の中から、自ら取れるリスクを見分けておくことだ。そのためには、原則として腹を割って、包み隠さず話すことが大事となる。信頼関係をしっかりと持っていれば、気持ちが読めるし、相手も無理なことはしない。そもそも自社の組織能力が高ければ、模倣ができないのだ。

 7つ目は、「強い意思で人を選ぶ」だ。特に中間管理職の人選は組織能力の高低を大きく左右する。言うまでもなく、管理職の役割は、組織のモチベーションを高め、組織をあるべき姿に向けて自律的に邁進させることである。その際、トップは、しっかりと自らのビジョンを掲げ、短期的、中長期的に向かう姿を現場と深く議論することが重要だ。そして、各人の理解度、腹落ち度を見極めなければならない。これまでのやり方に固執して新たなやり方に踏み出せない管理者は退出してもらう。管理しかしない管理職も徹底的に排除すべきでなのである。

 最後の役割は、「褒め合うためのITを設計する」である。組織を活性化させ、組織能力を極限に高めるために、最も重要なことは、褒めのマネジメントだ。異次元の見える化で、共有される需給連鎖の状況、社内外の連携状況、将来ニーズの把握度などを活用すれば、日常に褒める理由となる事象を溢れさせることができる。その中から、個々人の成長に則した褒める内容を選択できるようにしておけば良い。ここでITは、煩雑になり覚えておけない細部やタイミングをカバーしてくれる強力なサポーターとなる。組織能力をスパイラルアップさせるための道具となるのだ。

オペレーションのグローバル化の実現に向けて

 日本企業の今後の成長の鍵は間違いなくグローバル市場だ。日本国内も最もお客様の厳しいニーズに晒される鍛錬の場ではあるものの、規模・成長性の両面においてグローバル市場に遠く及ばない。そうした中、世界各地でのオペレーション能力をどう高めていくかが日本企業にとってのチャレンジである。前述したように日本型インダストリー4.0 で何より重要なことはお客様起点である。

 よってグローバル化を進めるにあたっては、その土地、土地のお客様にしっかりと寄添わなければならない。つまり、ローカルスタッフがお客様起点の主役となるのだ。ローカルをリスペクトすることから全ては始まる。ローカルこそが、お客様の気持ちを最も理解して、お客様とのつながりの起点となることができる。また、本社から与えられたものをお客様に売るでなく、自らがお客様と接する際の主役だという自信があれば、血の通った形で誠意を持って製品やサービスを提供できる。その結果、お客様に愛される。

 一方、母国はローカルのこうした本気度に応えなければならない。一方通行でなく、母国は確かにお客様一人一人の現在の心持ちが伝わったことを示す。そして、遅滞なく対応を約束し、実践のPDCAを回すことが重要だ。そのためには、母国はしっかりとニーズを予測し、打ち手を準備しておくことが必要である。組み合わせで対応するのだ。また、誰に話せば良いかを明確にしておくことも忘れてはいけない。

 もちろん、デジタル化された世界では多数に同時に情報を伝達することはできるが、不特定多数には責任は生まれない。責任のある窓口、言い換えるとローカルとバディを組む人が母国に必要なのだ。また、日本人は言語的な障壁が高い人種だと言われている。だが、デジタル化は翻訳機能や映像、そして密度の高いコミュニケーションを与えてくれる。デジタル化によって、障壁を越えて欲しい。そして、4.0時代のマネジメントにより、お客様を慮る現場の力を世界で存分に発揮してくれることを強く望んでいる。

著者プロフィール

長島 聡(Satoshi Nagashima)

ローランド・ベルガー 日本共同代表 シニアパートナー

早稲田大学理工学研究科博士課程修了後、早稲田大学理工学部助手、各務記念材料技術研究所助手を経て、ローランド・ベルガーに参画。工学博士。

自動車、石油、化学、エネルギーなどの業界を中心として、R&D戦略、営業・マーケティング戦略、ロジスティック戦略、事業・組織戦略など数多くのプロジェクトを手がける。現場を含む関係者全員の腹に落ちる戦略の実現を信条に「地に足が着いた」コンサルティングを志向。自動車戦略チームアジア代表を務める。


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