検索
連載

「無理の構造」――理不尽なのは世の中ではなくわれわれの思考であるビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

「なぜあの人だけが……?」「なぜ私だけが……?」世の中は理不尽なことだらけです。ではなぜ私たちはそう感じるのでしょうか? そもそも「理」というのは世の中がそうなっているという「摂理」のはずです。そうであるにもかかわらず、理不尽なことがあふれているとすれば、それは逆に私たちが「理」と思っていることが実はそうでないと考える方が自然です。ではなぜそのようなことが起きるのでしょうか? それは私たちが「本来非対称なものを対称だと錯覚している」ことからきているというのが本書の仮説です。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

 このような対称性の錯覚が「なんで分かってくれないんだ!」というコミュニケーション上の理不尽さにつながったり、「なぜ自分だけ割りを食うんだ」という公平性に関する理不尽な思いにつながったりしていると考えられます。

 そもそもここでいう「公平性」というのも錯覚です。そもそも「公平性」という言葉ほど自分勝手に使われる言葉もありません。この言葉はあたかも「地球上の全員に同等」というような印象を与えがちで、使っている人もそのような文脈で使うことが多いですが、大抵の場合のこの「公平性」というのは「その人にとって有利な」定義であることが多いのです。

 例えば教育の公平性ひとつとっても「すべての人に同じ教育が施される」ことを公平だと捉える人もいれば「能力に応じた機会が与えられる」ことが公平だと捉える人もいます。これらは基本的に相容れないものですから、そもそも「誰もが認める公平性」など存在しないのに、あたかもそれが存在するように「勘違い」する人が多いので「理不尽」がいつまでたってもなくならないのです。

 これは政府の補助金や会社のボーナスの配分に関する議論も全く同じ構図です。「公平」を叫ぶ人はそれがあくまでも「自分の都合にとっての公平」なのに、それを自覚しないで正義の代表のように振る舞う分「たちが悪い」のです。

「理不尽さ」に対処するために

 ここまで話してきたような「対称性の錯覚」が他にも理不尽さの原因になっています。

例えば

■「時間的不可逆性」の錯覚

  • 「散らかる」のは自然に進行するが、「片付ける」のは覚悟が必要。
  • 組織は性善説から自然に性悪説になっていくが、逆は自然には起こらない。
  • 1つの組織の中での人材は時間とともに「個性的な少数の人材」から「多数の平均的な人材」に変わっていく

■「ストックの非対称性」

  • 組織や社会のルールは自然に増えていくことはあっても減っていくことはない
  • 製品機能は簡単に増えていくのに減らすのは容易ではない

といったようなことです。

 これらの状況に対処して、「理不尽さ」に対処するために必要なこととして大きく2つ挙げてげておきます。

 1つ目はこのような「理不尽さ」の構図は「世の中が間違っている」のではなくて(勝手に都合の良い解釈をしている)自分の頭の中のほうがおかしいという自覚をもつことです。例えば「不公平」に関する憤りです。世の中公平である「わけがない」のですから、多少の「不公平」があろうが、そもそもそういうものだと納得(あきらめ?)すれば、いくらかはストレスが軽減できるのではないでしょうか?

 2つ目として、このような非対称性を理解した上でさまざまな状況に対処することが重要です。例えば、「自慢や愚痴」は「自分では言いたくてたまらないが他人からは聞きたくない」という「法則」を逆手にとれば、だからこそこの2つを聞くことが重要(誰も聞きたがらないから熱心に聞くと聞き上手だと思われる)で、この2つを極力言わないようにすれば感じの良い人だと思われます。

 また、ルールや規則はふやすのは簡単だが減らすのは至難の技であることを自覚していれば、増やす時には必要以上に慎重になり、減らす時には必要以上に大胆になり、なおかつそのリスクを取った人を過分に評価するといった施策を打てます。

 「無理」というのは、もともと「理なんてものがない」からそういうことになるのです。

著者プロフィール:細谷 功(ほそや いさお)

ビジネスコンサルタント。株式会社クニエ コンサルティングフェロー。東京大学工学部卒業。東芝を経てアーンスト&ヤング・コンサルティングに入社。製品開発、マーケティング、営業、生産等の領域の戦略策定、業務改革プランの策定・実行・定着化、プロジェクト管理を手がける。著書に『地頭力』(東洋経済新報社)などがある。


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る