情報銀行第二弾認定企業のJ.Scoreも同様に、趣味・嗜好やライフスタイル、思考・行動特性にかかわる個人データを収集。AIが指数化した信用力(「AIスコア」(400〜1,000点))に応じて貸付利率や極度額を設定する個人向け無担保融資サービス「AIスコア・レンディング」を提供する。2017年9月のサービス開始からおおよそ2年、昨年11月末時点で登録ユーザー数は100万人を超え、NTTドコモ、LINE Credit、ヤフーなども同サービスに参入を果たした。
個人データ利活用主権のパラダイム転換
一方、個人データ利活用は目新しい話ではない。購買履歴に基づくクロスセルやアップセルは、Webでもリアルでも長年行われてきた。更に、Tポイントや Pontaに代表される企業横断型共通ポイントプログラムは、数千万人会員の月間数億件に及び購買履歴を蓄積・分析。各会員の趣味・嗜好やライフスタイルまでも高確度で推測できるという。店舗や商品ごとにくくれば、店舗特性(どんな顧客が来店しているのか)や商品特性(どんな顧客が購入しているのか)すら浮き彫りにできる。
ではなぜ今「情報銀行」なのか。膨大な個人データが収集 ・蓄積される「データ駆動型社会」が背景にある。 EUのGDPR(General Data Protection Regulation)、 英国 “midata”、米国“Smart Disclosure”。 いずれも、個人データの利活用主権を企業から生活者に取り戻そうとする動きだ。とはいえ、膨大な個人データを生活者自らが管理することは容易でない。生活者に代わって個人データを管理し、生活者に代わって個人データを第三者(他の事業者)に提供する情報銀行の存在意義の一つはここにある。
個人データ駆動型「推測ゼロ」社会
効用は、データ主権論の回復だけでなく、実利にも及ぶ。これまで、企業は生活者の直接許諾がない限り、匿名加工情報を基にニーズを推測、「当たらずとも遠からず」な商品・サービスを提供するしかなかった。かくして、世の中は「70点の最大公約数」で溢れかえる。プロファイリングされた「自分ではない自分」に、見当違いなレコメンデーションが届けられる一方で、もっとお金を払ってでも欲しいモノにはなかなか出会えない。
情報銀行は、この「推測の無駄」の対抗馬だ。情報銀行は、企業を推測競争から解放し、パーソナライズド・サービス競争に突入させる。勝者には情報銀行経由でさらなる個人データが提供され、敗者には遮断される。中途半端なプロファイリングに基づくマーケティングは排除され、優勝劣敗が進むだろう。
埋もれた消費者余剰の顕在化
パーソナライゼーションは、財やその提供形態にとどまらない。近年、エンターテインメント業界や旅行業界といったキャパシティ事業を中心に、需給状況に応じて価格を刻々見直す「ダイナミック ・プライシング(DP)」 の導入が盛んだが、情報銀行は、あらゆる業界の「パーソナライズド・プライシング(PP)」 をもたらす。DPが一物多価なら、PPは多物多価(一物一価が消費機会ごとに個別に存在する状態)。埋もれた消費者余剰が顕在化し、価値交換される。総人口減少社会を迎える日本にとって、付加価値総額(GDP)向上をもたらす数少ない好機だ。(図A2参照)
金融機関や情報通信企業にとどまらず、電力・化学・旅行など、各業界の大手企業が参入を表明する情報銀行。その事業経済性はまだ不透明だが、企業間のπ(パイ)の奪い合いに終止する限り、早晩行き詰まるだろう。いかにして消費者余剰の顕在化につながる価値を第三者に提供できるか。真の勝負はこれからだ。
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
ローランド・ベルガー シニアパートナー
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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