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企画書は、「今、ココ、目の前」が一番通るビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

企画が通るか通らないかは、企画がいいかどうかということとは、別の問題。企画書は、ラブレター。

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 企画は、手品です。プレゼンはある種、相手にイリュージョンを与える手品のようなものです。手品の師匠に、「手品をする時は『手品をします』と言わないですることね」と教わりました。「これからすごい手品をします」と言うと、相手が身構えてしまって、少々すごいことをしても驚きません。

 「明日、企画のプレゼンに行きます」「企画を見てください」と、言わなくていいのです。「手品」という言葉を使わないで手品をするように、「企画」という言葉を使わずに、知らないうちに企画の話をして終わっているという形が最もいいやり方になるのです。

企画書は、「今、ココ、目の前」が一番通る

 台湾に行った時、「シャーウッド台北」に泊まりました。本の台湾版のキャンペーンで行き、現地のマスコミ取材を受けていました。その時に広報担当の女性から、「中谷さん、今回のキャンペーンはいかがでしたか。ちょっと時間ありますか」と話しかけられました。

 「あと、もしお時間があるようでしたら、会った方がいい人をご紹介しておきます」と言って、目の前でメモパッドを出して、ダーッと書き出してくれました。「この人に会っておいた方がいいですね。あと、この人に会っておいた方がいいですね……」と、目の前で書いたメモを「ハイ」と渡してくれたのです。事前にプリントアウトしたものを渡してくれてもありがたいですが、カフェのテーブルでわざわざ書いてくれたことがとてもうれしかったのです。

 後で聞いたところ、広報担当の女性は、海外では出世コースとして一番エリートが行く部署で、オーナーのお孫さんだったことが分かりました。「やっぱりこの人は優秀だな」と改めて思いました。

 中には、せっかく打ち合わせしているのに、「じゃ、早速企画書をまとめてご提案します」と言う人がいます。その場でつくってしまえばいいのに、一々持ち帰ってつくられてしまうことが多いのです。

 企画を通せる人は、相手の目の前で企画書をラフに手書きします。それを企画書のたたき台ではなく、企画書1号とします。1枚しかなくても、それを写メで撮って、オリジナルを相手に渡すことが多いです。過去の経験から、これが一番早く事が進むし、企画も通るということが分かっているのです。

 ホテルのブライダル担当の人は、結婚式の披露宴をどのようにするか、お客さまと打ち合わせます。いまいちのホテルで多いのは「何名様でございますか」と聞いて、お客さまが「○名ぐらいです」と答えると、「○名様ですと、こういう座り方とこういう席の並べ方があります」と、フォーマットができ上がっているものを出します。式次第に関しては、「ケーキカットしますか」「お色直しは何回にしますか」という「あり・なし」のフォーマットに書き込んでいく形があります。

 海外のホテルのブライダルコーディネーターは、同じような打ち合わせの時にイエローペーパーを出します。日本のA4よりも少し幅が広いタイプで、けい線だけが入っている黄色いコピー用紙です。ボールペンを出して、「何名ぐらいでしょうか? テーブルの並べ方のイメージは何かありますか。例えばこういうのとか……」と、一々、手で書きます。

 フォーマットで確認するのではなく、相手が言うことをとにかくザーッとメモして、目の前で「こんなのはどうですか」「あんなのはどうですか」と、どんどん書きます。紋切型のパターンに入った「あり・なし」ではなく、ゼロベースでいろいろなものを考えられると、相談されている側もうれしいのです。

 以前、私の父親が肝臓を悪くして入院しました。毎回、お見舞いに行くと、お医者さんが説明してくれます。その時、福山雅治を先生にしたらこんな感じというイケメンの真下先生が、毎回「ご説明します」と言って、画像を見せてくれるのではなく、手で内臓の絵をざっと描いてくれます。

 「今、お父様のここはこうなっていて……」と描いて、「これ、差し上げます。何か質問ありますか」と言ってくれます。1回目、2回目ならまだ分かりますが、行くたびにそれを描いてくれるのです。電子カルテが増え、打ち込むだけになってしまうことが多い中で、目の前で絵を描いてくれるのはすごくうれしいことです。「この先生に全部任せよう」という気持ちになりました。

 企画書は目の前で書いたものが一番信用できます。企画は、料理です。オープンキッチンで目の前でつくっているものの方が信用されるのです。

著者プロフィール:中谷彰宏・作家

1959年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。博報堂勤務を経て、独立。91年、株式会社中谷彰宏事務所を設立。

【中谷塾】を主宰。セミナー、ワークショップ、オンライン講座を行う。【中谷塾】の講師は、中谷彰宏本人。参加者に直接、語りかけ質問し、気付きを促す、全員参加の体験型講義。

著作は、『「そのうち何か一緒に」を、卒業しよう。』(自由国民社)など、1080冊を超す。


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