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企業を変え、社会を進める「デジタル×サービスデザイン」という方法論(2/2 ページ)

企業の在り方と社会課題解決の双方を考えるうえで、とても有用な考え方である「サービスデザイン」とは。

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Roland Berger
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 地域の安全を守る手段として、防犯カメラは有効であるとされる。被撮影者のプライバシーを考慮した運用は前提となるが、さまざまな恩恵があるためだ。例えば、多数の映像をリアルタイムで撮影・記録できるため、犯罪の抑止も期待できる。さらには、社会的弱者の記録は、より積極的な行動サポートを可能にする。

 加古川市では、防犯カメラを「見守りカメラ」と位置付け、一定間隔で端末情報を発信する「ビーコン」の電波を受信できる「ビーコンタグ検知器」を内蔵させた。それにより、子どもや認知症患者といった行方不明となる恐れのある人の位置情報履歴を、保護者やご家族に知らせる「見守りサービス」を提供しているのだ。

 サービス提供に当たっては「市民の安全・安心」は地域社会全体での見守りによる実現が重要であると捉え、市民とのオープンミーティングを実施。行政の一方的な取り組みではなく、市民による理解を双方向で確認しながら実現するように工夫した。

 また、このような取り組みに対し、2020年10月より能動的に意見を交換するプラットフォームとして「加古川市版 Decidim」も運用している。Decdim(ディシディム)とは、市民参加型の合意形成プラットフォームであり、オンライン上で市民と行政が対話しながら社会課題の解決を図るべく活用される。カタルーニャ語の「我々で決める」に由来しているように、スペイン・バルセロナ市などの欧州を中心に幅広く利用されている。

 加古川市でも、「加古川市スマートシティ構想」を策定する際の意見収集を契機に、さまざまなテーマでの意見収集や提案検討に用いられている。

 市民との協働においては、全てをオンラインで完結させず、オフラインも融合させているのも特徴だ。オンラインで収集した意見をオフラインのワークショップで深堀りするほか、施設の愛称募集においてはオンライン投票に加えて市内各地でシールによるオフライン投票を組み合わせるといったように、市民が状況に合わせて参加できるような仕組みとしている。

 これらの施策を推進しているスマートシティ担当課長の多田功氏は、加古川市の取り組みの価値を以下のように話す。

  “スマートシティは社会全体にテクノロジーを導入することを目的とするのではなく、市民目線でどういったメリットを生み出し、社会課題を解決できるサービスを実装できるかが重要です。

 加古川市が推進しているさまざまなスマートシティ施策は、地域課題を解決するために実施してきているものです。市民参加型合意形成プラットフォーム「加古川市版Decidim」は、地域をよりよくするための意見やアイデアを集めており、さまざまな世代の方からの参加が実現できています。

 「スマートシティ=便利なまち」ではなく、便利だから幸せになるものでもありません。地域に住んでいる人たちの意見をしっかり聴きながら、一緒にまちづくりを行っていき、「市民中心のスマートシティ」の実現を目指していきたいと考えています。”

 公共機関の責務である「市民の安心・安全」は、プライバシーの問題と裏表になるため、得てして「機密データをどのように管理して、分析するか」という機能面に着目されがちだ。また、安心・安全面からよりケアすべき「社会的弱者」に対しても、法制度的な縦割りに区切って対処方法を検討するという方法論を用いるケースも少なくない。加古川市の取り組みは、社会課題を「見守り」というハイレベルなものに昇華させ、市民目線での包括的なメリット・価値を定義して施策を考えるという「サービスデザイン」を取り入れている。

 また、デジタルの力を有効に活用し、詳細なデータをタイムリーに取得したり、市民参画を基本とする双方向コミュニケーションを生かしたりもしている。これらの結果、複雑化する社会課題に対して、市民ニーズに合致し、市民自らも課題解決に参加できる仕組みを実現している点に、多くの学びがあるといえる。

サービスデザインの利用に向けて

 以上のように、企業経営、ビジネス推進、社会課題解決等さまざまな場面でサービスデザインの力を最大限に活用することが重要となる。この際には、前例踏襲の思考からの脱却や、適切な将来像の見極め及びバックキャストの発想からの打ち手の整理、多様なステークホルダーの目線からの判断など、デザインをビジネス・経営の観点から取り組むことが求められる。

 ローランド・ベルガーは、「アントレプレナーシップ」「エクセレンス」「エンパシー」の3点をコアバリューとして組織文化を築いており、ビジネス・経営目線から、多様性を生かした持続可能社会への価値創造に向けて、多数の「デザイン」実践プロジェクトを支援してきている。

 これまでの経験と知見のもと、さまざまなクライアントと共に、社会課題の解決や企業経営の変革をより一層推進していきたいと考えている。

著者プロフィール

横山 浩実(Hiromi Yokoyama)

ローランド・ベルガー プリンシパル

東京大学大学院工学研究科機械工学専攻修了。米系ITコンサルティングファーム、米系総合系コンサルティングファーム、欧系ソフトウェア会社を経て現職。

行政機関や公共機関向けサービス提供事業会社等に対し、デジタル事業戦略、風土・組織改革、標準化を通じたコスト・ビジネスモデル刷新、業務プロセス改革及びシステム導入などのプロジェクト経験を豊富に有する。

現在、デジタル庁のプロジェクトマネージャとしても勤務しており、我が国の行政サービス等のデジタル化推進の役割も担っている。


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