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日本におけるオープンイノベーション成功のための3つの要件(2/2 ページ)

企業を取り巻く競争環境が激しさを増す中で、自社のリソースだけを使ってイノベーションを起こし、顧客価値を創造することはますます困難になっている。こうした中「オープンイノベーション」は企業にとって必須の戦略となっている。

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Roland Berger
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先進事例2:Sony

 Sonyの取組みとしては、アクセラレーションプログラムである「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」と、CVCの「Sony Innovation Fund(SIF)」を取り上げたい。

 2014年のSSAPの立ち上げ当初は、社内発のスタートアップを支援するプログラムであったが、2019年からは社外にもプログラムを開放し、社内外のスタートアップの事業拡大を支援している。これまでに同プログラムを通じて、100件以上の事業化検証に加えて、18件の事業が創出されるなど、国内注目のアクセラレーションプログラムの1つとなっている。

 一方、SIFは2016年に組成され、人工知能やロボット分野を中心とした研究開発スタートアップへの投資を行っている。これまでに約6,000社のスクリーニングや2,000社以上の投資候補企業と接触し、投資実績も約60社と日本のCVCとしては異例のスピードで投資を実施。さらに今年に入って、SIFの3号ファンドを組成しており、その合計運用総額は600億円を超える国内最大規模のCVCである。

 以下同様に、同社の取組みから、3つの成功要件について述べたい。

トップマネジメントのコミットメント

 SAAPの立ち上げに際しては、SAAPを主管する担当部門を社長直轄の組織として発足。これにより、従来の事業部間のあつれきといった組織問題を回避することができ、意思決定の迅速化につながった。さらに、SAAP設立当時の社長である平井氏自身が新規事業を生み出したいという強い意志を持っていたことがSAAPの成功に欠かせない要因となっている。

既存事業とのシナジーを意識した目的の明確化

 SIFの組成にあたっては「事業戦略を支える直接的、間接的なアセットの早期獲得」を明確なミッションとして掲げることで、Sony社内のエンジニアを巻き込みながら既存事業とのひも付きを重視したスタートアップとの連携を実現している。

外部提携の仕組み構築

 外部連携の仕組みについては上述のSAAPやSIFに加えて、スタートアップ向けのビジネスコンテスト「Startup Switch」など幅広い仕組みを構築している。

 なおSAAPでは、アイデアの事業化に際して、品質管理・調達・知財・法務といった起業家だけではカバーできない一方で企業運営にあたっては必須の領域に関する専門家を社内外から集めたプラットフォームを構築しており、大企業ならではのリソースを活用できる仕組みもある。

 また、事業検証のためのリアルな市場として、クラウドファンディングやEコマース機能を兼ね備えたWebサイト「First Flight」を提供するなど、他のアクセラレーションプログラムにはない起業家支援の仕組みを持つことが優位性の構築につながっている。

3つの要件に加えて、オープンイノベーション担当者のコミットメントも重要

 上段では、アンケート調査を基に抽出した3つの要件から、先進事例を見てきたが、今回のアンケート調査では見えてこなかった要素として、オープンイノベーション担当者自身のコミットメントも成功要件として加えたい。

 一般的に大企業では、定期的な人事ローテーションや、オープンイノベーション担当部門と事業部門との分断により、スタートアップとの協業関係が長続きしないという課題があった。今回先進事例として挙げた2社においては、こうした課題に対する対策も徹底されている。

 例えばKDDIでは、スタートアップ等の外部企業との提携・投資を行った後も、事業部門に丸投げしてしまうのではなく、外部企業とのカウンターとなっていたメンバー自身も一緒に事業部門に異動して共創を継続することで、空中分解を防いでいる。

 こうした担当者のコミットメントも、成功に必要不可欠な要件と言えるだろう。

  • 他の業務との兼務ではなく、専従業務としてオープンイノベーションに取り組む
  • 協力や理解を得るために事業部門に対して粘り強くコミュニケーションを取る
  • 提携や投資に至った取組みには事業化まで責任をもって担当する

まとめ

 ここまで、日本のオープンイノベーションの現状や成功の要諦を論じてきた。過去は失敗が伝えられることも多かったオープンイノベーションにも成果が出始めており、アクセラレーションプログラムの運営やCVC投資など、その取り組み自体も多様化している。このような背景から日本においても、エコシステムが成熟しつつあり、今後さらにその成果が期待される。

 逆に言えば、自社に閉じた事業開発に拘り、オープンイノベーションから距離を取っている企業には、価値創造においてオープンイノベーションに取り組んでいる企業との差が大きく開くリスクがあるということだ。

 では、具体的にオープンイノベーション行うためには何から始めればいいのか。まずは取組みの大前提として、上述したアンケート調査で失敗要因として挙げられている、「トップのコミットメント/予算獲得」「社内の起業家精神」を補完する必要がある。

 前者については、時間はかかるかもしれないが正攻法としてトップとのコミュニケーションを続け、オープンイノベーションの必要性を理解してもらうことが第一歩となる。必要に応じて、ベンチャーキャピタルや外部のコンサルタントを通じてトップコミットメントの重要性を伝えるのも有効だろう。さらに経営者にとっては、自分の後任者として、他社との事業開発経験がありオープンイノベーションへの理解が深い人を選任するなども考えられる。

 後者については、そうした起業家精神を外部から補完する仕組みを構築する必要があるが、そうした仕組みづくりそのものを外部パートナーの協力を得て進めていくこともオープンイノベーションの1つである。一方で、中長期的な視点で見た場合には、社内から起業家精神の高い人材を生み出すことも重要であり、そのためには失敗を許容し、チャレンジを応援する企業文化の醸成が必要になる。社内のビジネスコンテストなども有効だが、小さく始められることとしては、組織を超えた社内コミュニケーション機会を意図的に作ることや、個人の意見を発信できるような社内SNSを活用することも、企業文化づくりに寄与する取組みである。

 こうした下地が整えば、さらに具体的なオープンイノベーションの取組みを進めていくことになるが、アンケート調査や先行企業の事例を見ると、成果を生むためには、アクセラレーションプログラムの運営やCVC・VCへの投資実行などが有効であるように見える。ただ、こうした先行企業では、2000年代序盤から段階を追ってその取組みを拡大してきており、アンケート調査から見ても一足飛びに取組みを行っているケースは少ない。

 まずは、外部企業との積極的な接触やネットワークコミュニティの形成から始め、そこから社内リソースの外部解放や共創環境の提供など、中長期的な施策として徐々に取組みを拡大していくことが重要となるのではないだろうか。


オープンイノベーションの取り組みステップ

著者プロフィール

中野大亮(Daisuke Nakano)

ローランド・ベルガー パートナー / 東京オフィス

東京大学法学部卒業。米系戦略コンサルティングファームを経て現職。産業材、鉄道・航空、総合商社等を中心に幅広いクライアントに対し、事業戦略、成長戦略、M&A/PMI等のプロジェクト経験を豊富に有する。昨今では、未来構想・長期ビジョン、新規事業量産、PoC、スタートアップ連携といったテーマに数多く取り組んでいる。


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