左脳的アプローチにより「金融商品化する」エンターテインメント(2/2 ページ)
エンタメは、ここ四半世紀の間にも、そのありようを変える大きな出来事を経て進化し続けている。そして、今、エンタメ企業としては無視できない潮流として「左脳的アプローチ」の浸透が挙げられる。
左脳的アプローチに対するファンの心理
一方で、このようなエンタメにおける左脳的なアプローチの浸透は、ファン心理を害するものになるのではないか、という疑問も浮かぶだろう。結論としては、一概にそうとはいえない。
多くのファンを獲得していけるか、はたまたファンに見限られるか。それを分かつ重要なポイントは「左脳的アプローチを使いこなせるか」である。データ分析一つとっても、それが十分な示唆を抽出できる設計になっているか、抽出された示唆からファン心理をくすぐる施策へ具体化していくか。ここにはまだ大きくクリエイティブの役割が存在している。
例えば、ファンの反応をSNSを始めとしたデジタル領域で的確にキャッチし、常に改善する「パリパリ(※「早く早く」の意)」なアップデートで、世界を席巻する韓国エンターテインメントは、まさに左脳的アプローチをクリエイティブに使いこなしている好例だ。左脳的アプローチを土台にしつつも、ファンに寄り添う体温の感じられるコンテンツに仕立て結果として、熱狂的かつ大きなファンの心を捉え、ビジネスとして成功していることは言うまでもない。
エンタメビジネス経営の新たなスタートライン
これらの変化はエンタメ企業の経営に対するインパクトも大きい。コンテンツの投資対効果が予測できるようなれば、コンテンツ・ポートフォリオの最適化にもつながってくる。
実際、筆者の支援実績でも、音楽を中心とした総合エンターテインメント自社保有コンテンツのビジネスの伸び代を推計し、早期にポテンシャルの乏しいコンテンツに投下されていた投資を止めることで、ポテンシャルのあるコンテンツへ投資をシフトできたのだ。結果として、財務の安定とビッグヒットへの投資最大化を同時に実現した。
それに加え、前述の通り、投資会社からの注目を背景にした資金流入が増加している業界である。ビジネスポテンシャルのさらなる飛躍が見込めるはずだ。
エンターテインメント企業において左脳的アプローチを使いこなす経営は、一過性のものではなく、これからの新たなスタートラインとなっていくであろう。
著者プロフィール
小野寺智史(satoshi onodera)
ローランド・ベルガー プリンシパル / 東京オフィス
慶應義塾大学環境情報学部卒業。大手通信企業、外資系コンサルティングファーム、人材開発ベンチャーを経てローランド・ベルガーに参画。
消費財、小売り、インターネットプラットフォーマー、エンターテインメントを中心とした領域において、中長期戦略策定、組織構造改革、マーケティング戦略策定、DX支援、業務改革・BPRなどの領域において豊富なコンサルティング経験を有する。大規模企業のみならず、急成長ベンチャーに対する支援実績も豊富。
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