「レッドガス」時代の羅針盤【第一章】「色分け」されたエネルギーがもたらす事業機会(2/2 ページ)
これまでエネルギーはコモディティ商品の典型例といえるものだったが、全世界的な脱炭素化の必要性から、エネルギーはその作られ方に注目が集まっている。
一方、レッド性の観点からは、調達するエネルギーが何らかのレッド資源問題を抱えていない点を明確にすることが重要になってくる。エネルギーがどの程度グリーンであるかは当然重要だが、それに加えて、エネルギー調達先の信頼性・コンプライアンス等の確認が重要になる。エネルギーの供給者は伝統的なエネルギー大手に限らず、中小・新興プレイヤーを含めて多様化し、隣接する産業から廃棄される副産CO2やH2を活用した燃料生成が進展するなど、エネルギーないしカーボンリサイクルの基幹物質としての原料も多様化が見込まれる。エネルギー調達が複雑化しているが故、エネルギーの非レッド性担保が重要性を増してきている。
エネルギーの届け方の多様化
再エネの供給方法についても、需要家のニーズを踏まえて、需要家毎に分離されていく可能性が考えられる。グリーンエネルギーを確実に調達していることをアピールしたい需要家向けには、前述の通り、直接のグリッド接続は有用だ。他方で、直接のグリッドで個別に発電所と需要家を接続していくことは、あまり効率的ではない。そのような状況に鑑みると、例えば、再エネ由来の電力のみが接続できる長距離再エネ専用送電線を、複数の企業が共同出資して整備する手法が考えられる。旧一般電気事業者が各地域内で整備する送電網とは異なり、むしろ各地域を縦断的に結ぶ幹線型の送電線を構築するイメージだ。この再エネ専用の幹線を用いて、再エネの生産地から都市圏の需要地までを長距離で輸送しつつ、そこからのラストワンマイルについても、既存のグリッドとは独立した形でエネルギーを輸送する。例えば、水素転換し、グリーン水素の形で個別輸送する方法などが考えられる。
他方で、そこまでのグリーン性の証明を必要としない需要家向けには、引き続き既存のグリッドを活用したバーチャルなグリーンエネルギーの供給が継続すると考えられる。ミニマムのグリーン性が必要な需要家にとっては、前述のような再エネ専用送電線等での輸送は、コスト高になる可能性があるためだ。
「色分け」がもたらす新たな事業機会
これらの「色分け」されたエネルギーに関する動向を踏まえると、今後、いくつかの事業機会が生まれると考えらえる。1つ目としては、既存のエネルギー企業が、顧客別により最適なエネルギーを届ける進化版の小売ビジネスである。エネルギー企業は法人/個人の需要家をより細かくセグメンテーションし、新たなマーケティング施策を打つ必要がある。過去、小売面での工夫余地が限定的であったエネルギー会社にとっては、チャレンジングな事業と言えよう。
2つ目は、エネルギーの需要側と供給側それぞれの多様化を踏まえ、両者のマッチングを行うプラットフォーム事業である。証書型やブロックチェーン型のように、グリーンエネルギー自体をバーチャルに需給マッチングさせるものだけではなく、グリーンエネルギーの輸送手段やそのキャパシティを含めて、需給をリアルにコーディネートさせていくものだ。蓄電キャパシティのマッチングを含む事業についても想定される。
3つ目は、上記とも関連するが、グリーンエネルギーの実輸送・物流ビジネスである。前述のマッチングプラットフォームによって、需要家と供給者がマッチングされたとしても、実際にエネルギーがグリーン性を担保されながら、需要家の手元にまで届けられて初めて意味がある。再エネ専用線等のインフラを管理・運用したり、需要家までのラストワンマイル輸送をに担うようなプレイヤーが今後必要になる。
4つ目は、エネルギー調達先のレッド性回避を含めた目利きビジネスだ。前述の通り、エネルギー供給者の多様化や、エネルギーないしカーボンリサイクルの基幹物質としての原料の多様化により、エネルギー調達が複雑化している。そのような中、調達先のレッド性を確認することは、より難易度が高まる。レッド性回避の観点も含めて、どんなエネルギーをどこから調達すべきかの判断を支援するビジネスの必要性が、今後高まるのではないか。
以上の通り、脱炭素化の推進や地域紛争・人道問題等の発生に伴い、エネルギーの色分けの必要性の高まりや、ニーズの分化、需給の在り方の多様化等が、今後進展する可能性がある。その結果として、エネルギーのサプライチェーンにおいては、グリーン性の推進及びレッド性回避の視点から、新しい事業機会が生まれうる。エネルギーを取り巻く事業環境は、これまでのコモディティ型ビジネスから、より多様な事業機会が存在する世界へと、大きく変貌を遂げるのではなかろうか。
著者プロフィール
渡邉諒也
ローランド・ベルガー プリンシパル
東京大学工学部卒業、東京大学大学院新領域創成科学研究科修了。米系投資銀行を経て、ローランド・ベルガーに参画。産業材、エネルギー、金融等を中心に、幅広いクライアントに対して、事業戦略、成長戦略、M&A / BDD、中計策定支援、市場参入戦略、コスト削減などのプロジェクト経験を豊富に有する。
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