ビジネスルールと意思決定の自動化:ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!(2/2 ページ)
業務からデータを切り離して管理する考え方は広く普及していて、さらに最近では、業務からビジネスルールを切り離して管理する方法が注目されている。実は、ビジネスルールの多くがプロセスの中に含まれていることが分かっている。
そこで業務プロセス(フロー)との組み合わせが必要です。業務はプロセスとルールの組み合わせという冒頭のパートを思い出してください。業務を自動化するにはプロセスと意思決定を同時に自動化する必要があります。
DMNはOMG(オブジェクト・マネジメント・グループ)が標準化したものですが、この団体はITシステムへの実装方法を標準化しています。つまり図形の意味を標準化するだけではなく、そのITへの実装方法を定義していますので、システム間で互換性があります。A社のシステムで作成されたDMNモデルはB社のシステム上でも稼働できるということです。
更にビジネスプロセスモデルとして有名なBPMN(ビジネスプロセスモデルと表記法)もこのOMGが標準化したものです。同じOMGが標準化したため、BPMNとDMGのデータ構造が共通に設計されており、DMNの意思決定のアウトプットデータをBPMNが使用することが可能です。その簡単な例が次の図です。
図11の右側がDMN意思決定モデルです。左側がBPMNプロセスモデルです。DMNで融資の申請が審査され、融資の意思決定(受入、拒否)がされます。そして意思決定のアウトプットが左側のBPMNで使用されます。DMNの決定を基にビジネスプロセスが動き、「受入れ」なら融資が決定します。図11ではここまでですが、この先プロセスが自動的に動きますので融資が決定されれば振込みまで自動で進むことができるようになります。極端に言えば、条件が問題なければ融資が申請された直後に銀行口座に融資額が振込まれることまで自動化されます。保険で言えば、保険金を請求したら即刻振り込まれることが可能になる、ということです。そうなったらいいですよね。
DMNモデルにより複雑な意思決定を設計できるようになりました。その効果は計り知れません。単にビジネスルールを管理することに比べて、以下のようなメリットがあります。
- ビジネスルールを判断の文脈(意思決定)として位置付けられる
- DRDで視覚的に記述されるので、意思決定の流れが表現できる
- 再利用・保守性が意思決定構造全体として最適化ができる
- 「なぜそう判断されたのか」を明確に説明できるので、説明責任能力が極めて高い
実際のDRD(意思決定要求ダイアグラム)とビジネスプロセスモデルです。
図12のBPMN図には次の3つのGateway(分岐)があります。
- 信用調査戦略を判定する(信用調査、スルー、謝絶)
- 判定ルーティング(受諾、参照、謝絶)
- 申込みを見直す裁定(受諾、謝絶)
その分岐条件は意思決定(DMN)の結果により分岐先が決まります。
3つの意思決定(判定)要求ダイアグラムを合体したものが次の意思決定要求グラフです。
図13には次の3つの意思決定(判定)があります。
- Strategy(信用調査戦略)
- Routing(ルーティング)
- Adjudication(裁定)
そして、次の4つが入力データです。
- Requested product(要求された金融商品)
- Applicant data(申込み者データ)
- Bureau data(信用調査会社データ)
- Supporting documents(サポート書類)
実例は下記リンク先のOMG標準 DMN1.1日本語版を参照ください。DMN1.1 日本語版
グローバルではこの例がすでに実装されています。BBC2020でのプレゼンからの抜粋を紹介します。
図14は「オープンルールズ」というビジネスルールのツールを使用した意思決定サービスです。
図15はOMG標準で記載されているサンプル例そのものを「オープンルールズ」というDRMSで実装し、マイクロサービスとして提供しています。図12と図13のOMGのサンプル例そのものです。
金融サービスのみならず、意思決定の自動化はDX環境において極めて重要になります。例えばIoTではデバイスからの多くの入力データの組合わせにより自動判定が必須です。温度変化に応じてドアなどの自動開閉。ジェットエンジンの使用時間・飛行時間により月間使用量の自動算出・自動請求……枚挙にいとまがありません。
日本では保険支払いの膨大な過去データをAIに覚えこませて、保険サービスの意思決定を自動化する試みが見受けられます。しかし、グローバルではEUのGDPR(一般データ保護規則)に代表されるように、自動化された意思決定に対し個人が説明を求める権利を認めています。ですから残念ながら説明能力が不十分なAIでは対応できないようです。いずれ日本でも個人情報保護の強化が必要になるかもしれません。
最後にビジネスルール管理とDMN(意思決定モデル)との違いです。
DMN(意思決定モデル)は、「ビジネスルール管理」を超えて、「意思決定の全体像」をモデルとして扱える点が決定的に異なります。
参考文献:意思決定マネジメントのマニフェスト(日本語版V1.5)
著者プロフィール:清水千博(しみず・ちひろ)
CBAP、(株)KBマネジメント 代表取締役、前IIBA日本支部BABOK担当理事
28年間、YHP/HPにて、営業マネジャー、マーケティングマネジャー、SEマネジャー、SE教育マネジャーを歴任。グローバルシステムの導入でビジネスアナリシスの経験を積む。その後に独立し、KBマネジメント社を設立し現職。現在は、人材教育コンサルタント、研修インストラクターとして、IIBA認定ビジネスアナリシス教育プログラムの開発と提供を手掛ける。
2015年〜2022年(8年間)IIBA日本支部BABOK担当理事
「やさしくわかるBABOK」(秀和システム)(共著)。BABOKRガイドv3(日本語版)監修責任者。キンドル版「よくわかるビジネスアナリシス」(共著)BABOKガイドアジャイル拡張版v2(翻訳・出版)、ビジネスデータアナリティクス・ガイド(翻訳・出版)プロダクトオーナーシップ概論(翻訳・まもなく出版)、資格:CBAP(Certified Business Analysis Professional)(2011年)
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