インタビュー:緒川たまき 『サボテンの微笑み』:タイムアウト東京のオススメ(2/2 ページ)
東京の街の“ローカルエキスパート”が、仕事の合間に一息つけるスポットやイベントを紹介します。
夢想する役の魂
―緒川さんは、出演される立場でもありますね。KERA作品に描かれる緒川さんの役は、劇作家が演じ手を熟知しているからか、いつも本当に魅力的です。
稽古では、うまく役を立ち上げられていない苦しい時間や、どうにか掴めるといいなと必死で願う時間が長くて、今まさにそうなんです。共演者の皆さんの役が作品の中でどんどん良くなっていたり、この人のこの感じがピタッと(役に)はまった!と頼もしさを覚えたりする瞬間はたくさんあります。でも、いざ自分はとなると「まだ掴めてない」といつもジリジリしていて。
時々ヒントのようなものが見つかっても、次の日にはまた見失って、という繰り返し。これまでもだいたい、小屋入りする直前までそういう気分を味わっているから、今回もきっと大丈夫だよと自分を慰めてもいるのですが……。
―緒川さんが共演者の方に対して「ピタッとはまった!」と頼もしく思うように、共演者から見たら緒川さんも“はまって”いるということはないのでしょうか? どうなのでしょう……。
例えば共演者の方と稽古を重ねるたびに、キャッチボールがすごく充実しているとお互いに感じ合える時間はもちろんあります。けれども、役が持っている魂みたいなものの手触りとか質感とか量感とか、そういうものが、もっともっと自分の中にくっきりと欲しいんです。
―今、役の魂とおっしゃいましたね。例えば古典や再演なら戯曲が完成していて、全貌もある程度つかんだ状態で稽古に臨めるわけですが、戯曲がまだ最後までできていない状況で稽古する新作の場合、役の魂とはどこから来るのでしょう?
どんな戯曲であっても、稽古や本番で演じながら、自分では出せないものを役にもらっている感じがする時があるんです。そして、自分一人でホンを読み込んで人物像を思い浮かべることはあっても、基本的には声に出したり動いたりして、この人のこういうところが好き、嫌いと肌で感じるあの感覚は、共演者の方と一緒に立たないと受け取れないものです。
―結末はまだ分からなくても、途中までの稽古をする中で魂はなんとなく育っている。つまり、結末とは関係なく魂があって、ホンの続きが届くと、それに合わせて魂を持っている役が動いていくということなのでしょうか。
そんな感じがします。乱暴な言い方をすると、違う結末や違う夢想を、役が勝手にしていて、それなのに実際にはこうなっちゃった、という感覚が、演じ手の私にはあるんです。
―だとすると、それは非常にリアルな感情ですよね。思っている人生ではなかったという、ある種のショックのようなものが本当に生まれるわけで。
まさにそうなんです。さっきお話に出た『眠くなっちゃった』では、それがすごく痛くて。幸せな役は夢を見るのも幸せなら実際にたどり着くのも幸せですが、つらい結末の役の時は素敵な夢想をたくさんするから辛くなります。
―今回はどうなるのでしょう。つまり端から見たら「ああ……」という感じだとしても、本人たちは満足なのか、どうなのか。
ある種のグロテスクさはありながらも、慕っている兄と運命共同体で生きているというよりどころは揺るがないはずなので、土台のところはすごく幸せなのではないかとは思っています。今のお話で言うと、いろんなことを想像すること自体が当人たちにとっての娯楽になっていて、現実にはうまくいかなかったとしても一番大事な喜びの部分は十分に味わっている。そこがこの作品に関しては持ち味かもしれませんね。
―となると、夢想する力、想像する力のようなものを、観客も大いに感じられそうですね。
誰かが何かを楽しみにして夢物語を語っている様子ってちょっと滑稽に見えることもあるし、一方で誰もがそういう時間を過ごしたことがあると思うんですよね。後になって振り返ると、あの時あんなに舞い上がってちょっと恥ずかしいなとか、でもかわいらしいなとか、そういうところを楽しんでいただけたらうれしいです。……こうお話ししているうちに、稽古をしている今は、すごく楽しい時間なんだなと思えてきました(笑)。
著者プロフィール:タイムアウト東京 編集部
タイムアウトは、1968年にロンドンで創刊され、現在は世界333都市59カ国、14言語で展開する国際的なシティガイドです。東京版「タイムアウト東京」は、日本のヒト・モノ・コトを独自の視点で取り上げ、日英バイリンガルで世界に魅力を発信。高いブランド力とグローバルネットワークを背景に、雑誌やウェブ、ガイドマップを展開。恵比寿には「タイムアウトカフェ&ダイナー」もオープンしています。
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