生き残れない経営
企業の人材教育はテクニックに走り過ぎ、かつ言い訳が多い、肝心なことを忘れている(3/3 ページ)
「人材を育てる」企業風土を定着させる
さて、いくつかの例から「豊穣な土壌」とは何を意味するかが分かってくると思う。「人材を育てる」、「人を教育する」という企業風土を定着させるということである。
肥沃(ひよく)な土とは、化学的にはいろいろ説明があろうが、一般常識からいって有機分を多く含んだ「黒い土」であり、土壌のどこを掘っても黒い土が現われる。
まさにそのように、企業の中のどこを探ってみても「教育」という概念が現われる。例えていえば、経営者、管理者たちの指先を切ってみても、「教育」という血が流れ出るという風土を作らなければならない。そのためにはどうするか。
(1)まず何よりも、トップの考え方、姿勢、方針である。トップが「会社の発展は、社員の成長に支えられる」、あるいは「企業の成果は、人材の質に左右される」という考え方を持ち、それを方針に打ち出し、行動に現わすことが大前提となる。そして、「人材教育」を企業風土として定着させることに腐心すべきである。
(2)次に、企業として求め、作り上げる目標の社員像や能力レベルを明確にし、開示することである。経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」は、1つの参考になろう。
(3)そして、人と人との信頼関係を重要視することである。そのためには人間関係を大切にする雰囲気をつくる、さらにそのためにはコミュニケーションが最重要であることを認識し、経営者、管理者が実践をして範を示すべきである。上掲例のように、大学卒と高卒新入社員の関係、上司あるいは先輩と社員の結びつきなどを、教育部門が段取りをして制度化したり、インフォーマルな勉強会を幹部がバックアップしたりすることにより、人間関係の重要性が認識され、コミュニケーションが活性化し、信頼関係が生まれる。
(4)以上の結果、企業の中で日常的にそこらじゅうに「人材教育」が当たり前に存在し、ルーチンワークの中で上司が部下を、先輩が後輩を常に教育する、常に範を垂れるという風土を作り上げることである。いや、結果的に自然に出来上がっているはずである。
このように企業の土壌を豊穣にしておけば、即ち「人材教育」が企業風土として定着し、全社で当然のものと認識されていれば、人材教育のテクニックは難なく受け入れられる。
ここで、もう1つ異なる視点からの議論がある。人材教育の困難さの原因を他に転嫁して、関係者は責任逃れをしていないか。要するに、言い訳が多い。
産業能率大の調査(「人材開発担当者に聞いた現場の人材教育の状況」2011.1.31.~ 2.4.)によれば、「現場の人材教育の環境」で回答率が最も高かったのは、「マネジャーのメンバーを指導する時間が不足」「メンバー・新人を指導する人材が不足」がいずれも72.2%、また「学習する風土を醸成する上での課題」で回答率が高かったのは、「メンバーが学習や能力開発の必要性を理解する」60.9%、「人事・人材開発部門が現場の人材開発の状況を把握する」55.9%、「現場マネジャーがメンバーに対する学習の動機づけの仕方を身につける」55.5%である。
しかし、教育の時間や人材が足りないとか、必要性の理解や状況把握が必要だなどというのは言い訳で、上記に示したようにトップ方針と教育部門始め関係者の心がけで、人材教育を企業風土として根付かせれば、状況は大きく進展するものである。
一方、東京商工会議所の「中小企業の人材育成における特徴的な取り組みに関する調査」(2010.3.1.~ 3.12.)によると、人材育成方針を作成している企業は、顕彰受賞企業始め高レベルの企業が対象であるにもかかわらず50%という程度で、改善の余地が大いにある。
人材教育は、テクニックを論じたり、教育のための時間や人材不足を嘆いたりする以前に、教育のための土壌を肥沃にすることからまず始めるべきである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
生き残れない経営
この記事の著者
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
富士通、新方式の量子コンピューター試作機を世界初開発 ダイヤモンドで計算精度を向上
-
2
「複雑さにあらがう“設計者たち”」――マネーフォワードに学ぶBizOpsの実践構造
-
3
AI画像認識で検査効率化、技能継承やロボ自律制御にも活用へ 東芝総合研究所の落合誠所長
-
4
セキュリティは「使えてなんぼ」 認証との偶然の出会いから22年 - NTTデータ 星野氏
-
5
ポップなネオンを探す
-
6
鷹は、自らの爪・羽根・くちばしを折ることで、生まれ変わる
-
7
戦略を実行する第2ステップ―組織の成功循環モデルを知り、リーダーシップを強化する
-
8
会計思考が組織を変える――全社員がBS、PLを理解した風船会計メソッドとは
-
9
第53回:なぜ、日本企業では「考えるマネジャー」が育たないのか──AI時代、「言われたことは得意だが、課題抽出や提案は苦手」な組織から脱する方法
-
10
ゴルフダイジェスト・オンライン 大日健COO
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー