話題の著者に聞いた“ベストセラーの原点”
「穴」著者 小山田浩子さん(2/2 ページ)
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
いつかは妊娠・出産も小説に
――小山田さんが小説を書こうと思ったきっかけがありましたら教えていただければと思います。
小山田: 小さい時から本が好きで、当時はいつか小説家になれたらいいなと思っていました。現実的に考えるようになったのは、夫に「書けるんじゃないの?」と勧められたことでしょうか。
――小山田さんの方から書きたいといったわけではなく。
小山田: そうですね。夫は元々、私が勤めていた編集プロダクションの先輩だったんですよ。私が新人だった頃、書いた記事に赤を入れてもらった時に「文章が記事向きじゃない」と言われたことがあったんです。「こういう文章を書くのであれば小説の方がいいんじゃないか」って。今考えると皮肉だったと思うんですけど(笑)。それを私はいいように受け取って「小説なら書けるのかな」と勘違いしてしまったのがきっかけですね。
――そして、最初に書いた作品で新人賞を受賞とはすごいですね。
小山田: 実は受賞した「工場」と並行して短いものをもう一本書いていて、地元の新聞社の文学賞に応募したんですけど、それは一次審査も通らずに落ちてしまいました。
――別の作品とはいえ、同じ人が書いたのに賞を取ったり一次審査で落ちたりといったことがあるんですね。
小山田: そうみたいです。その作品はちょっとだけ自信があって、一次審査くらいは何とか通ってくれないかなという気持ちで応募したんですけど、ダメでしたね。そんなに何千通も応募がある賞ではないので期待していたのですが(笑)。ただ、受賞した作品はすばらしかったので、然るべき結果だったと思っています。
――作風に影響を受けた作家さんはいらっしゃいますか?
小山田: たくさん好きな作家さんがおられるので、自覚しているかどうかに関わらずどの方からも影響は受けていると思います。しいて言うなら、バルガス・リョサが好きで、特に「緑の家」には影響を受けていると思います。時制が混濁したり、話が前後しながら進んでいくのですが、「こういう書き方もありなんだな」と知ることができました。それによって「工場」が書けたというのはあります。おこがましいお話ですが。
――「緑の家」も、もともとは2つのお話だったものを1つに繋ぎあわせてできたそうですから、確かに小山田さんの手法と共通点がありますね。
小山田: そうかもしれません。別々のものを繋ぎあわせることで、本人の意図していなかった効果が出ているのがおもしろいですよね。
――小さい頃からかなり本を読まれてきたかと思いますが、好みに変化はありましたか?
小山田: 子どもの頃に読んでいたものを今でも読みますから、好みは変わっていないと思います。小学生の時に読んだ「吾輩は猫である」がすごくおもしろくて、笑いながら読んだ記憶があるのですが、今も大好きです。「吾輩は猫である」も読むし「かいけつゾロリ」も読むというところは今も変わってないですね。
――では「ズッコケ三人組」シリーズなども。
小山田: 読んでいました。作者の那須正幹さんが広島のご出身だということもあって、馴染み深い作品です。近所にズッコケ三人組の像がありますよ。
――一人で本を読んで過ごすことの多い子ども時代だったのでしょうか。
小山田: そうですね。友達とみんなで遊ぶ方ではなかったです。育ったところが田舎なので、一人で庭で虫を取ったり葉っぱをむしったりしているか、本を読んでいるかという感じでしたね。
――それだけあって「穴」でも、草むらなど自然の描写が生き生きしていましたね。
小山田: 田舎なのでそのあたりは割と日常風景なんですよ。ただ、人よりも動物や植物をきちんと描写したいなと思っていて、そういうところには時間を割いています。
――人生で影響を受けた本がありましたら、3冊ほどご紹介いただければと思います。
小山田: これまでに名前が挙がった「吾輩は猫である」と「緑の家」は入りますね。あと1冊は東海林さだおさんの「タコの丸かじり」にします。「丸かじり」シリーズは中学生くらいの頃から好きで、今でも新刊が出るとすぐに買っています。
淡々とした文体で、ふざけているわけではないのですが、トータルで見ると笑えるんです。いつかはああいうおもしろい文章を書けたらなと思います。
――最後に、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
小山田: 私事なのですけども、昨年はじめて妊娠と出産を経験しました。「穴」において夏の草の匂いなどをがんばって書いたように、いつかは妊娠や出産についてもうまく小説にできたらなと思っています。完成したあかつきには読んでいただけたらうれしいです。
取材後記
作品の執筆エピソードや、ご自身のユニークな小説の書き方、好きな本など、たくさんのことを語っていただきました。
小山田さんの新刊「穴」には、表題作で芥川賞受賞作の「穴」のほかに「いたちなく」、「ゆきの宿」の短編2作も収録。こちらもすばらしいので、「穴」だけで終わりにせず、ぜひ最後まで読んでみてください。
(インタビュー・記事/山田洋介)
著者プロフィール
小山田浩子
1983年広島県生まれ。2010年「工場」で新潮新人賞受賞。2013年、初の著書『工場」が第26回三島由紀夫賞候補となる。同書で第30回織田作之助賞受賞。「穴」で第150回芥川龍之介賞受賞。
関連キーワード
芥川賞・直木賞 | 工場 | 妊娠 | 出産 | インタビュー
Copyright(c) OTOBANK Inc. All Rights Reserved.
話題の著者に聞いた“ベストセラーの原点”
関連記事
ITmedia エグゼクティブのご案内
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。 勉強会のスケジュールはこちら
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入して申請ください。審査のうえ登録させていただきます。
- 入会条件:
- 上場企業および上場相当企業の課長職以上
※入会は無料です
エグゼクティブコンテンツ
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「CISOは1人の経営者たれ」――ログの先の人を思う、LayerX CISO 星氏
-
2
「人間洗濯機」が高齢者施設に 福祉の現場に万博技術導入 人手不足解消や産業成長に期待
-
3
高島屋・村田善郎社長 挑戦続けるアバンギャルドな百貨店 ベトナムや新型SCに重点投資 My Vision
-
4
なぜコーポレートITはコスト削減率が低いのか――既存産業を再定義することでDXを推進
-
5
ITmedia エグゼクティブ勉強会スケジュール
-
6
森ビルが挑む、DXを通じた「ヒルズライフ」の充実とコア領域の内製化
-
7
どの区立中からも通えるオンライン将棋部発足 休日はリアル、プロ級も指導 東京都大田区
-
8
第52回:「管理」する時代は終わった──AI時代、マネジャーに残された本当の仕事とは?
-
9
本田技研工業のDXはボトムアップとトップダウンで“Hondaらしく推進”
-
10
公共交通インフラの使命を軸に、事業継続への攻めと守りを大胆に実行する - JAL 鈴木氏
ITmedia エグゼクティブ SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaエグゼクティブをフォロー