ビジネスとITを“動かす”仕組み──BizOpsという選択肢

IPO前夜に効く「CorpOps」――“泥を啜る”現場の実装論(1/2 ページ)

 BizOpsが「戦略を動かし続ける装置」だとすれば、CorpOpsは「企業を動かし続ける装置」です。

 華やかな成長の裏で、販売管理やワークフロー、ガバナンスの対応といった“地味で厄介な領域”を整える人たちがいます。彼らの仕事は目立たず、泥を啜るように地道です。しかし、その実装力なくして、企業は上場という試練を越えることはできません。

 今回取り上げるのは、一般社団法人BizOps協会理事の村本氏。通信会社やメーカーからAIベンチャー、HRSaaS、経営企画まで多様な現場を経験し、上場準備やPMI統制再設計に携わってきた人物です。

 「経営の意志を仕組みに翻訳する」――その視点から生まれたのが、CorpOpsという発想です。

 IPO前夜の現場で、経営と現場の狭間に立ち、守りとスピードを両立させるために何が行われているのか。泥を啜りながらも前へ進める、仕組み設計のリアルをひもときます。

第1章 IPO前夜、“仕組み”が問われるとき――スピードと統制のあいだにある壁

 企業が急成長する過程では、まず「攻め」の構造が整備されます。営業、開発、マーケティング──成果を生み出すための動線を優先するのは自然な流れです。

 しかし、上場を目前にした段階で、必ず壁にぶつかります。「守り」の仕組みが追いつかないのです。契約や承認の権限フロー、システム上のアクセス統制.――それらは日常の業務では見過ごされがちですが、IPO準備が進むにつれて一斉に表面化します。

 内部統制や監査対応の観点から「今まで通りでは通らない」プロセスが現れ、現場は動きが止まり、経営は焦り、組織全体が一時的に硬直していきます。

 この局面で求められるのは、単なる「管理の強化」ではありません。事業成長・組織拡大のスピードを落とさずに統制を仕組みに組み込む発想です。それを可能にするのが、CorpOpsという職能です。

BizOps/CorpOpsの立ち位置

 DXやBPRでは、この壁を越えることはできません。それらは「個々の業務」を効率化する手段に過ぎず、組織全体を動かす“中間構造”の再設計には踏み込みません。

 IPO前夜に問われるのは、「会社をどう回すか」という運用構造そのものです。この“中間”を見える化し、動かす仕組みを整える――その役割を担うのが、CorpOpsです。

第2章 CorpOpsとは何か――経営の意志を仕組みに翻訳する職能

 村本氏は、自身のキャリアを振り返りながら「気づけばBizOps的な動きをしていた」と語ります。経営企画として事業部門の現場を理解し、システム構造を把握しながら、経営の意志を具体的な業務プロセスに落とし込む。その積み重ねが、いつしか「誰もやっていないのに、誰かがやらなければ回らない」領域になっていったといいます。

 経営会議で決まった方針は、スライドや数値の上では明快です。しかし、その言葉のままでは現場は動きません。承認ルートの設定、権限の移譲、データ定義の整備――それらを“運用の言語”に翻訳して初めて、会社は動き出します。

 経営と現場をつなぐこの“翻訳”こそ、CorpOpsの本質です。経営企画でも、情シスでも、管理部門でもありません。

 CorpOpsはそのあいだに立ち、経営の「意図」と現場の「手順」を接続します。単なる調整役ではなく、構造を設計する翻訳者です。どんなに正しい経営判断も、翻訳されなければ実行できません。

CorpOpsのカバー領域イメージ

 「経営企画が描く構想を、どう“現場の手順”に変えるか。そのプロセスを自分で設計できる人が少なすぎる」と村本氏が語るように、経営と現場のあいだを行き来しながら仕組みを動かす力こそ、CorpOpsの専門性といえます。

 経営の意志を読み解き、制度・権限・フローといった“構造の言語”に翻訳します。CorpOpsは上場準備で意識されがちですが、この役割を担うことで事業成長、効率化では常に必要な存在となり、大企業でこそ本当に必要な機能、「持続可能な仕組み」を形づくる中枢になります。

第3章 “線を引く”という仕事――正しさより、動く仕組みをつくる

 CorpOpsの現場で最も難しいのは、「どこに線を引くか」という判断です。統制を強めすぎれば現場は動けず、緩めすぎれば監査で止まる。この両極のあいだで、組織を動かす“ちょうどよい線”を探るのがCorpOpsの仕事です。

 村本氏は、「正しい仕組みをつくる人ではなく、“動かせる仕組み”をつくる人が必要になる」と語ります。

 制度や規定の整備は重要ですが、それだけでは会社は回りません。最も現場を止めるのは、ルールの不在ではなく、“過剰な正しさ”です。本来の意図を超えて管理が複雑化し、承認プロセスが多層化してしまうと、誰も判断できない“灰色の領域”が生まれます。

 そこにこそ、CorpOpsの出番があります。経営の意志を守りながら、運用が回る形に落とすなど、例えば、購買や契約の承認ルートを再設計する際には、法務・会計・事業部それぞれの論理を突き合わせながら、「どこを自動化し、どこを人が判断するか」という線を引きます。

 その線をどこに置くかで、組織のスピードも安全性も大きく変わります。この判断を支えるのは、構造的な思考、現場の人・業務への理解です。

 制度の目的、データの流れ、現場の心理的負荷、それらを全体として捉え、最小限の統制で最大の自由を生む設計を行う、それが、CorpOpsに求められる思考法です。

 「正しさを証明することではなく、動かすために納得できる形をつくる」と村本氏が語るように、線を引くとは、管理のための判断ではなく、前進のための設計なのです。

 CorpOpsは、統制とスピードを両立させる“現実的な正しさ”を形にする仕事といえます。

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この記事の著者

望月茉梨藻
望月茉梨藻

1990年生まれ。神奈川県在住。マニュアル制作会社での制作ディレクションを経て、2017年に株式会社ビズリーチ入社。営業基盤の再構築やSalesforce運用を担当した後、株式会社スマートドライブにて、上場前後の成長フェーズにおける事業部横断の業務設計やSaaS導入・定着支援を推進。2022年よりフリーランスとして独立し、現在は一般社団法人BizOps協会の理事を務める。BizOpsの専門性確立と普及に取り組むとともに、実務者として複数企業の業務構築・運用改善に従事。ライターとしても活動しており、ビジネス、組織論、ジェンダーといったテーマを中心に、構造的な課題への眼差しと現場感を交えた視点で発信している。

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