経営と現場、戦略と実行、業務とシステム。その“あいだ”を滑らかにつなぎ、組織が意図どおりに動くよう整える――こうした役割に「BizOps」という名前が与えられつつある。
「部署間の連携がうまくいかない」「システムを導入したのに、現場に活用されない」「ダッシュボードはあるけれど、意思決定に使える“情報”になっていない」――。そんな声を、現場や経営会議の場で耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
このような“誰の仕事とも言い切れない課題”に対して、組織のあちこちで奔走している人たちがいます。部門のあいだを行き来して業務のズレを整え、ツールと人をつなぎ、構想を現場で動く仕組みへと変えていく人たち。けれど多くの場合、その働きは十分に評価されていません。なぜなら、彼らの役割には、これまで“名前”がなかったからです。
近年、こうした役割に「BizOps(ビズオプス)」という名前が与えられつつあります。経営と現場、戦略と実行、業務とシステム。その“あいだ”を滑らかにつなぎ、組織が意図どおりに動くよう整える――そんな職能が、今あらためて注目されているのです。
本連載では、「BizOpsとは何か?」という基礎からスタートし、実際に企業内でBizOpsの役割を担う人たちへのインタビューを通じて、その実態と価値、組織にもたらす変化を明らかにしていきます。
まだ聞き慣れない言葉かもしれませんが、あなたの組織にもきっと、BizOps的な働きをしている人がいるはずです。
そして重要なのは、この言葉が単なる“新しい肩書き”ではないということです。
BizOpsという概念に名前が与えられたことで、組織ははじめてその役割を設計し、評価し、再現することが可能になりました。
戦略の実行を、人ではなく仕組みで回す――その第一歩としての「BizOps」を、今こそ捉え直すべき時が来ています。
多くの組織で、SFAやCRM、KPIダッシュボードといった“仕組み”の整備は進んでいます。ところが、それらが実際の意思決定や行動に結びつかないまま、「運用されない」「現場に届かない」という状況が起きています。その背景には、部門をまたぐ業務において「運用・定着に誰が責任を持つか」が曖昧になり、導入・整備をしても運用されないという構造的な問題があります。施策が部門を横断するほど、責任の所在が不明確になり、施策そのものが宙ぶらりんになります。結果として「なぜ運用されないのか」が分からないまま、次第に施策自体が忘れ去られて数千万円の費用をかけて導入したシステムがなんの役にも立たないお飾りとして会社に残ります。
一部の組織にはこの構造的な問題を解消すべく、陰ながら奔走している“つなぎ役”がいます。明確に職種として与えられた役割ではなく、しばしば“気が利く人”“最初にそこにいた人”が、仕方なく担っていることも多いでしょう。
こうした属人化された調整や現場展開の努力は、組織全体の仕組みに取り込まれることがほとんどなく、再現されないまま「なんとなく」回ってしまう、極めて脆い状態です。
構想が実行に至らない問題の本質は、こうした領域が「職能として設計されていないこと」にあります。
近年、この陰ながら奔走している“つなぎ役”に対しての名付けとして、じわじわと広がりつつあるのが”BizOps”という概念です。
2000年代頃に海外のSaaSスタートアップから生まれ、日本では2020年頃から少しずつ聞かれるようになってきました。
”BizOps”は「Business Operations」の略語です。直訳すれば「事業運営」ですが、ここでいうBizOpsは単なる運用担当や現場支援のことではありません。
BizOpsの本質は、戦略と現場、ツールと業務、情報と行動のあいだを滑らかにつなぎ、意図された構想を「動く形」に変える“構造設計”を担うことです。
例えば:
一見すると“つなぎ役”や“便利屋”に見えるこれらの仕事は、実際には「戦略を実行するための構造設計」そのものです。
PdM(プロダクトマネージャー)や営業企画、情シスなど、隣接する役割と似ている部分もありますが、BizOpsはその“あいだ”をまたぎ、全体を見渡して最適な構造をつくることに価値があります。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
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株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授