BizOpsとは何か? 構想と現場をつなぐ、事業成長の“実行装置”ビジネスとITを“動かす”仕組み──BizOpsという選択肢(2/2 ページ)

» 2025年07月08日 07時07分 公開
[望月茉梨藻ITmedia]
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第3章:なぜ今、BizOpsが求められているのか

 ここ数年、企業におけるSaaSやクラウドツールの導入は加速しました。多くの企業がDXの旗印のもとSaaSやクラウドを導入していますが、「成果につながらない」「現場に根づかない」といった課題感は依然として解消されていません。

 なぜでしょうか?

 それは、「ツールを入れること」「戦略を描くこと」には投資がされても、それを“日常の業務”として根づかせる構造が整っていないからです。

 サイロ化した業務、分断された情報、属人化した調整役。これらが放置されることで、戦略は絵に描いた餅になり、成果は出ないまま疲弊だけが残ります。

 BizOpsは、その“断絶”をつなぎ直す役割です。戦略を現場に届け、現場の声を経営にフィードバックしながら、構想が実行に至る構造をデザインする。単なる導入支援でもなく、属人対応でもなく、仕組みで戦略を動かす――それがBizOpsの本質的な価値です。

第4章:名前がついたことで、変革は動き出す

 「なんでも屋」と揶揄(やゆ)されることもあるBizOps。しかし、その実態はまったく異なります。

 BizOpsの仕事は、断片的なタスク処理ではなく、「組織の目的達成に向けて構想を実行するための構造設計」です。目の前の課題を“点”で解決するのではなく、再現性ある仕組みとして“面”で最適化していくのが特徴です。

 PdMや情シス、営業企画、BPRなどと重なる部分もありますが、BizOpsの特徴は“あいだ”に立つこと、そして現場定着まで含めて実行設計することです。

  • 営業企画:営業部門に閉じた戦術設計が多い
  • 情シス:ツール運用・管理が主眼
  • BPR:一過性の改善にとどまりがち

それぞれの職能は、起点となる視点や設計対象のスコープによって役割が異なります。営業企画は業務起点かつ部門内最適に寄った戦術支援が中心で、情シスはシステム起点での運用管理が主な役割。BPRは業務起点で全体最適を志向し、定着のコミットまでは担わないケースもあります。一方BizOpsは、“業務とシステムのあいだ”に立ちながら、構造設計と全体最適を担う点において、独自の職能として位置づけられます。

 BizOpsは、これらの領域を横断的に接続し、組織全体の“戦略実行構造”を最適化する役割を担います。

 そして、この役割に「BizOps」という名前が与えられたことが、組織における大きな変化をもたらします。

 名前があることで、初めて職能としての設計が可能になります。評価の軸を定め、育成の基準が生まれ、チームとして役割を組織内に位置づけることができます。

 これまで“なんとなく”動いていたつなぎ役を、「再現性ある機能」に変える。その鍵が、BizOpsという名前なのです。

 属人化の頑張りではなく、仕組みによる実行が可能になる――それは、戦略を“動くもの”として回していくための、組織変革の起点となります。

 BizOpsという言葉は少しずつ広まりつつありますが、その実態をリアルに語る記事は、まだまだ多くありません。 概念を知識として理解するだけでなく、実際に現場で何が起きているのか──その“生の姿”に触れることではじめて、BizOpsの本質と成功の鍵が見えてきます。 現場で本当に何が起きているのか、どういう工夫がなされているのか。 今後の連載では、さまざまな企業の事例を通じて、BizOpsという職能のリアルを掘り下げていきます。

次回予告「LayerX社に見るBizOpsのリアル」

 次回は、バクラクシリーズを展開するLayerX社でのBizOps実装に迫ります。経営と現場、構想と実行、部門間の接続。それらをどのように設計・定着させているのか。戦略が動き出す“裏側の仕組み”に焦点をあて、リアルな実践事例をお届けします。

著者プロフィール:望月 茉梨藻(もちづき まりも)

1990年生まれ。神奈川県在住。マニュアル制作会社での制作ディレクションを経て、2017年に株式会社ビズリーチ入社。営業基盤の再構築やSalesforce運用を担当した後、株式会社スマートドライブにて、上場前後の成長フェーズにおける事業部横断の業務設計やSaaS導入・定着支援を推進。2022年よりフリーランスとして独立し、現在は一般社団法人BizOps協会の理事を務める。BizOpsの専門性確立と普及に取り組むとともに、実務者として複数企業の業務構築・運用改善に従事。ライターとしても活動しており、ビジネス、組織論、ジェンダーといったテーマを中心に、構造的な課題への眼差しと現場感を交えた視点で発信している。


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