なぜコーポレートITはコスト削減率が低いのか――既存産業を再定義することでDXを推進ITmedia エグゼクティブセミナーリポート(1/2 ページ)

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、リモートワークなどの新しい働き方が進んだ一方、情報システム部門の負荷が高くなったことが、企業のDX推進を阻害する要因の一つ。この課題を解決するために立ち上げたラクスルの新規事業とは。

» 2021年12月14日 07時04分 公開
[山下竜大ITmedia]

 アイティメディアが主催するライブ配信セミナー「ITmedia DX Summit vol.10 Cloud Native Week 2021冬 既存資産を持つ一般企業のための「本気で挑むクラウドネイティブ」」が開催された。Day1の基調講演には、ラクスル 代表取締役社長CEOの松本恭攝氏が登場。「ラクスルが考える“DX”とコロナ禍を通じて生まれた新規事業、その立ち上げ方」をテーマに講演した。

仕組みを変えれば世界はもっと良くなる

ラクスル 代表取締役社長CEOの 松本恭攝氏

 2009年9月に創業したラクスルは、従業員数約400人(2021年7月末現在、海外拠点含む)。2018年5月に東京証券取引所マザーズに、2019年8月に東京証券取引所第一部に上場している。「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンに基づき、デジタル化が進んでいない伝統的な業界にインターネットを持ち込み、産業構造を変え、世の中に大きなインパクトを与えていきたいという思いで事業を展開している。

 これまで、2013年3月にネット印刷・集客支援のプラットフォーム「ラクスル」を、2015年12月に物流プラットフォーム「ハコベル」を、2020年4月に広告のプラットフォーム「ノバセル」をサービスとして提供。2021年9月には、新たにコーポレートITのサービス「ジョーシス」をリリースした。ジョーシスが誕生した背景を松本氏は、次のように語る。

 「ジョーシスは、ITデバイスとSaaSの統合管理クラウドで、コーポレートITにおける購買業務、管理業務を自動化し、楽にすることをコンセプトにスタートしました。事業が生まれた背景は、2020年4月の緊急事態宣言の発令です。コロナ禍により、主要なお客さまである飲食関連の業務がストップしたために需要が一気に減少。ラクスルも2020年5月のピーク時は売上の4割減に見舞われました。そこで業務のリモート化とコスト削減が急務でした」(松本氏)

 2020年3月26日にはほぼ100%リモートワークへの移行、そしてコストは、販管費の50%以上削減できた。主にマーケティングコストと、開発導入委託コストで実現していた。松本氏は、「マーケティングコストに関しては90〜95%削減し、損益分岐点を下げて雇用を守ることに注力しました。一方、エンジニアの業務委託コストは、3月には3000万円程度、年間では4億円程度でしたが、7月には約1000万円、3分の1以下に削減しています」と話す。

 一方、コーポレートITのコストは約15%しか削減できなかった。「なぜ、コーポレートITは削減率が低いのかを考えました」と松本氏。リモートワークの実現には、コーポレートITの支援が不可欠だが、アナログ作業が多く、自動化が進んでいないことが原因だった。例えば、PCのキッティングや物理的な故障への対応、SaaSの設定、社内システムとの連携なども、全てオンサイトの業務で、人が対応しなければならなかった。

 「コーポレートIT領域の非効率を強く感じ、この問題を解決するビジネスを立ち上げることができれば、多くのコーポレートIT担当者に喜んでもらえると考えました。そこで、自分たちが直面した課題と、お客さまが直面している問題について、いろいろな人に話を聞きました。いろいろなサーベイや調査もしました。その結果、コロナ禍の4月、5月で、新しいビジネスの立ち上げを決意しました」(松本氏)。

入社から退社までのアナログな支援業務を自動化

 2020年から続くコロナ禍により、2020年3月に24%だったリモートワーク導入企業は、2021年4月には65%まで拡大。リモートワークの普及で、PCの社外持ち出しが前提になり、調達、管理、セキュリティがオンサイトからリモート前提にシフトした。SaaSに関しても、1社平均17サービスを利用しており、さらに増加傾向にある。一方、100〜1000人の企業では、1人情シスの割合が全体の約3分の1を占めていた。

 また、2021年6月30日〜7月2日にコーポレートIT部門の600人に実施したオンラインサーベイの結果では、コーポレートIT部門は、業務に忙殺され、戦略的ITの構築に時間を割けない、ITデバイス管理はExcelが多く、SaaSは管理できていないなどの課題があった。そのため退職率が高く、引き継ぎが大きなストレスで、結果的に単純業務を中心に外部委託が増加し、人員の増加に比例してコーポレートITコストが膨れ上がる構造になっていた

 「これはラクスルの状況そのもの。この問題を解決できれば、多くの企業に喜んでもらえるという思いからジョーシスが誕生しました。ジョーシスの目的は、社員が入社して退社するまでのライフサイクルに応じて発生するアナログな支援業務を自動化し、業務コストの削減とセキュリティレベルの向上を実現することです。負担のかかる業務はジョーシスに任せ、DXを次のステージに進めることができます」(松本氏)

 ジョーシスは、ITデバイスとSaaSを管理するためのプラットフォーム、ITデバイスを調達するためのEコマース、キッティングやヘルプデスクのためのBPOという3つのサービスで構成され、アナログなコーポレートIT業務の自動化を支援する。松本氏は、「ITデバイスの市場は約5兆3000億円、国内SaaSの市場は約1兆2000億円。この2つがジョーシスの市場です」と話す。

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