専門学校教員からNECのCISOに! 「人生は筋トレ」、訓練は超難題 - NEC 淵上氏セキュリティリーダーの視座(1/3 ページ)

異色の経歴を持つNECの淵上氏。「人生は筋トレ」を信条に技術と経営の均衡を重視。自社を実験場とする「クライアントゼロ」を実践し、AI時代のID管理や訓練を通じ、水道のように誰もが意識せず安全にITを使える世界の実現を目指す。

» 2026年03月03日 08時00分 公開
[星原康一ITmedia]

 日本を代表するテクノロジー企業である日本電気(NEC)のセキュリティを統括するCISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)の淵上真一氏。氏のキャリアは、一般的な「セキュリティエリート」とは一線を画す。

 大学での専攻は地質学。建設重機のプログラマを経て、沖縄の専門学校で16年間教鞭をとったという異色の経歴の持ち主である。「人生は筋トレだと思っている。負荷がかかるからこそ成長できる」と語る淵上氏。そのタフネスな哲学と、守備範囲の広い業務内容、そしてAI時代の新たなセキュリティ戦略について話を聞いた。



淵上 真一(FUCHIGAMI Shinichi)

――日本電気(NEC)Corporate Executive CISO 兼 NECセキュリティ 取締役

淵上真一 Photo by 山田井ユウキ

 大学では地質学(自然科学)を専攻。卒業後、ベンチャー系システムインテグレータに入社し、建設重機の制御プログラム開発に従事。その後、ネットワークエンジニアを経て、人材育成の重要性を痛感し教育界へ転身。沖縄県の専門学校にて16年間教員を務め、セキュリティ学科の立ち上げや、全国での情報リテラシー指導者育成(SPREAD等)に尽力する。2018年にNECに入社し、サイバーセキュリティ人材の育成や戦略策定を推進。2024年よりNECのCISOに就任し、NECグループ全体を統括。ISC2認定主任講師として国際資格CISSP(Certified Information Systems Security Professional)を中心に人材育成活動も長年行っている。



地質学から重機制御、そして「教えるプロ」へ

――淵上さんのご経歴は非常にユニークだと聞きました。まずは、これまでのキャリアの歩みについてお聞かせください。

淵上氏: 大学時代は自然科学、具体的には地質学を専攻していました。研究の一環でコンピュータに触れたことがきっかけでITに興味を持ち、卒業後は当時社員が5名ほどしかいないベンチャー企業に入社しました。今で言う「スタートアップ」ですが、90年代の話ですから、もっと混沌とした環境でしたね。

 そこで最初に担当したのは、建設重機の制御プログラムでした。深い穴を掘るような巨大な重機を動かすための、低レイヤーのプログラミングです。その後、2000年代に入って企業のイントラネット導入が進む中でネットワークエンジニアへと転身し、約10年間エンジニアとして現場にいました。

 その後、一念発起して、専門学校の教員に転職します。

――企業システムの現場から教育者に転身したのですね。大きな決断だと思いますが、どんな理由だったのでしょうか。

淵上氏: エンジニアとして働いている中で、「この業界は慢性的に人材が不足している。しっかりとした人材を育てなければ、業界自体が立ち行かなくなる」という危機感を強く抱いたからです。状況を改善するために、まずは自分で人材を育成していくしかないと考えました。

 教員生活は沖縄の専門学校で16年間に及びました。着任当初、「学生たちが将来長く食べていけるスキルは何か」と考え、たどり着いたのが「セキュリティ」でした。当時、大学の研究室レベルで暗号技術などを扱うことはあっても、教育機関で体系的に「情報セキュリティ」を教えるカリキュラムはほとんど存在しませんでした。そこで、セキュリティを専門に学ぶ学科を一から立ち上げたのです。

基礎を教えながら、副業で現場力を鍛える

――当時はまだ「サイバーセキュリティ」という言葉も一般的ではない時代ですね。ご苦労も多かったのではないでしょうか。

淵上氏: ええ、最初は学生集めに非常に苦労しました。しかし、徐々に社会的な注目度が高まるにつれ、多くの学生が志望してくれるようになりました。

淵上真一 Photo by 山田井ユウキ

 意識していたのは、「本業で理論を教え、副業・社外活動で最新動向や一般的な肌感覚をキャッチアップする」ことです。教科書的な知識だけでは、変化の激しいこの業界では通用しません。ですから、教員を本業としながら、地元企業のコンサルティングや行政機関との連携、さらには「SPREAD(セキュリティ対策推進協議会)」などで全国を回って学校の先生方に情報リテラシーの教え方を伝える活動を積極的に行っていました。そうして得た知見を授業に還元するというサイクルを回していたのです。

――その後、NECに入社された経緯を教えてください。

淵上氏: 教員生活の最後の3年間は学校法人の経営にも携わり、自分が目指した人材育成の形にある程度のゴール感を持てました。また、元々東京出身だったこともあり、年齢的な節目で戻ろうと考え、ご縁があって2018年にNECに入社しました。

 入社当初はやはり人材育成の経験を買われ、サイバーセキュリティ人材の育成部門からスタートしましたが、徐々に実務や戦略に関わるようになり、2024年からグループ全体のCISOを任されています。

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