これからはAIとビジネスアナリシスの時代ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!

ビジネスを熟知した上で、その価値を上げるために、ITやデジタルをどう使うかを考えること、それこそがビジネスアナリストの仕事である。

» 2026年03月10日 07時08分 公開
[寺嶋一郎ITmedia]

「ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!」バックナンバーへ。


 個人的な話で恐縮なのですが、今から40年ほど前米国のMITに会社から留学させてもらったことがありました。その時はちょうどAIの第2次ブームで専門家システム(Expert System)と呼ばれるシステムが脚光を浴びていました。留学以前はアセンブラーで化学プラントなどを制御するプログラムなどを書いていた私にとって、ルールを記述することで問題を解決する専門家システムはあたかも魔法のようにも思えて夢中になり勉強したのを覚えています。

 ただその当時も人間が話す言語の理解や生成は、いわゆる常識(Common Sense)なるものを全てルール化するのは不可能だとされ「知識獲得のボトルネック」により無理であるといわれていたのです。今のディープラーニングの原型となるニューラルネットの研究もありましたが、コンピューターの性能不足でほとんど使い物になりませんでした。

 ところがコンピューターパワーとインターネットによるデータ量の飛躍的な増大により、ChatGPTに代表されるLLMが、コンピューターが人間のように会話ができるようにしたのです。まさに驚愕(きょうがく)の出来事でした。AIがここまで進化するとは、正直思いもしなかったからです。これからAIは世界を大きく変えていくことは間違いないでしょう。

 生成AIもそうですが、特に最近のAIエージェントの出現には目を見張るものがあります。ITの分野はこうしたAIエージェントが、自律的にシステムの開発やテスト、ドキュメント作成などをどんどん自動化していくのは間違いありません。

 もちろんAIはパーフェクトではないので、腕のいいエンジニアは必要なのですが、重要なのは多くのエンジニアを抱える必要性がなくなることです。優秀なエンジニアがいれば、AIと協働することでシステム実装の生産性は格段に上がります。

 それに従い、人間が行うべきITに関する仕事は、さらに上流にシフトしていくはずです。(図1参照)

図1:システム開発の自動化と今後の人間の担当領域

 それが何を意味するのかは明白です。そしてIT業界の多重下請け構造は音を立てて崩れていき、ITはSIベンダーに頼らなくともユーザー企業による内製化が加速するでしょう。少数の優秀なエンジニアがいればSIベンダーに頼らなくともAIの力を借りて実装ができるからです。

 とすれば、何の目的で、どういった価値を作り出すために、どんな仕組みのITがビジネスに必要になるのかを考えることこそが一番大事になるはずです。ビジネスを熟知した上で、その価値を上げるために、ITやデジタルをどう使っていくかをきちんと考えること、それこそがビジネスアナリスト(BA)の仕事です。そして、本来ITを活用する企業の社員がやるべき仕事ではないかと思います。

 現時点でも欧米企業のIT部門では、プロジェクトマネージャー(PM)の何倍もの人数のビジネスアナリストがいるといいます。そうしたビジネスアナリストは、セールス、マーケティング、物流、人事などビジネスの各領域を担当しながら、それぞれの領域でビジネスの価値を上げるためにどうするべきかを常時考えているのです。

 そしてビジネスの人たちに寄り添いながら、その本質的なニーズを引き出し、変革のためのITプロジェクトを提案し、ビジネスの責任者の承認を経て、プロジェクトマネージャーをアサインしてプロジェクトをスタートさせます。

 ビジネスアナリストは経営とIT部門、そしてビジネス部門とIT部門やベンダーの間に入って互いの通訳の役割を果たしながら、コミュニケーションを円滑にし、ITへの要件を明確にします。アサインされたプロジェクトマネージャーはビジネスアナリストが作成した要件定義に従い、外注などを使いながらその実装を行うという形で仕事を進めるわけです。

 ビジネスアナリストはビジネスに責任を持ち、プロジェクトマネージャーはプロジェクトに責任を持つという形で互いにタッグを組みITの導入を行うわけです。具体的にビジネスアナリストがいる場合とそうでない場合のIT導入における違いを図で示してみました。(図2参照)

図2:プロジェクトフェーズのBAの存在による違い

 もちろんビジネスアナリストが活躍するのはITの分野だけではありません。一口に「ビジネスアナリスト」と言ってもその範囲は広いもので、これまで述べてきた社内でのITの導入で活躍する「ビジネスシステムアナリスト」から、業務プロセス改善を行う「ファンクショナルビジネスアナリスト」、ソフトウェアプロダクトやサービスの価値向上のための改善を行う「プロダクトアナリスト」、データ分析に強みを持つ「ビジネスインテリジェンスアナリスト」などのさまざまな領域においてそれぞれの役割を持つビジネスアナリストが存在するのです。

 日本企業においてもIT部門だけではなく、事業部門でもビジネスアナリストが活躍するようになり、そうなれば、ぜひ本社にもビジネスの全体最適を考える人たちの部署を作ってほしいものです。

 日本は特に製造業がそうですが、現場での改善活動がどんどん生産性を向上させてきたので、本社の管理層は改善を現場に任せっきりで、誰も業務プロセスや全体のビジネス構造を把握していないのではないでしょうか。高度成長の大量生産の時代であればいざ知らず、VUCAの今の時代は、変化に対応すべくビジネスのEndTo Endのアーキテクチャを分析し、どこにボトルネックがあるのか、常に全体最適を追求していかなければなりません。

 それこそがIPAが一昨年に打ち出したDX推進スキル標準(DSS-P)の5つの「人材類型」の1つである「ビジネスアーキテクト」の仕事です。ビジネスの構造(アーキテクチャ)をさまざまな視点から可視化して分析し、ビジネスの全体最適のために何をすべきかを考えるのです。まさに日本企業の経営戦略部や経営企画部が本来やるべき仕事ではないでしょうか。

 そしてAIが進化すると、ビジネスを行うすべての分野でAIが活用されるようになります。AIはパターン化された業務を驚くべきスピードと正確さで自動化していくでしょう。ルーチンワークだけではなく、会社の会計や法務といった専門的な仕事にも大きな変革をもたらすはずです。

 専門的な仕事の全てがAIによって完全に代替されるわけではないにせよ、AIと協働することで、生産性と提供価値が飛躍的に高まっていくことは間違いないでしょう。

 だだこうしたAIの活用において、留意しなければいけないのは、現状の業務の分析をきちんとやらなければならないということです。少し前にRPA(Robotic Process Automation)がブームになりましたが、RPAを闇雲に導入して、野良ロボットを大量に作り出し苦労した轍(てつ)を踏まないようにしなければなりません。

 だからこそ、業務がどんなプロセスで行われて、どこの部分を自動化するのか、どうやってAIと協働するのかを描く必要があります。すなわち現状の業務プロセスを可視化し、AIを活用したあるべき業務を再定義することが必要なのです。こうしたことを行うのも、ビジネスアナリストやビジネスアーキテクトの仕事です。このように業務の再定義はAIが進化するにつれ、常に継続して行われなければなりません。だからこそ、会社全体でビジネスアナリストの仕事が今後ますます必要になるのです。

 この連載を締めくくるにあたり、「これからはAIとビジネスアナリシスの時代だ!」と言っておきます。AIが進化しても人間の仕事としてAIが代替できないもの、それこそがビジネスアナリストの仕事です。

 そしてAIが進化すればすればするほど、ますますビジネスアナリシスが重要になってくるわけです。海外では100万人を優に超えるビジネスアナリストが活躍しているというのに、日本でのビジネスアナリシスの認知度があまりにも低いのは残念でたまりません。そしてそれがITの活用やDXで海外に遅れをとっている大きな原因だと思うのです。今回の連載を通じて、読者の皆さんに、ぜひビジネスアナリシスの大切さを認識してもらえれば幸いです。

著者プロフィール:寺嶋一郎

IIBA日本支部 代表理事

1979年に積水化学工業に入社、プラント制御や生産管理システム構築等に従事。MIT留学を経て、AIビジネスを目指した社内ベンチャーの設立に参画、AIを活用した工業化住宅のシステム化に貢献する。2000年に情報システム部長に就任、IT部門の構造改革、IT基盤の高度化・標準化、グローバル展開やITガバナンスの改革等に取り組む。2016年に定年退職後、企業のIT部門強化のための様々な活動やIIBA日本支部の代表理事としてビジネスアナリシスの普及に努め現在に至る。


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