ビジネスアナリストは、企業のビジネス戦略とプロジェクトをつなぎ、プロジェクトの価値創造を担保する役割を果たす。今後ビジネスアナリストの存在がプロジェクトの成否を決めるのはないだろうか。
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昨今のIT訴訟の事案は大型化しているようである。日経 XTECKのIT紛争に関する記事を拾ってみると、以下の事案があげられている。
IT訴訟に至るプロジェクト失敗の要因はさまざまではあるが、上流の要件定義工程の不備が実装段階での仕様変更、テスト工程での不具合の多発に繋がるケースが多いようだ。実際、野村HDと日本IBMの事案では、“プロジェクトが頓挫するケースの大半が要件定義に起因する”(2021/7/8 Nikkei Computer)との解説がある。また、日本IBMと文化シャッターの事案では、“上流工程においての仕様の網羅性や、仕様変更要求も争点の一つ”とある。(2022.01.06 日経XTECK)
2019.09.19の日経コンピュータは、「銀行障害やERP頓挫 ITトラブル38年史」と題して、1980年代から2010年代まで、全1176件の「動かないコンピュータ」を振り返り、年代ごとの主な事例からその時代ごとの特徴を再点検している。
“開発失敗の4大要因とその割合”と題する下記の図によると、2000年代以前は、“ベンダーがソフトを開発できず”が主な失敗要因となっている。それが2000年代では“ユーザーが要件をまとめられず”に変化している。そして、2010年代にはこの割合が拡大している。
長い間システム開発の失敗事案に関わってきた筆者の知見では、かってシステム開発の主流は記録系のシステムであり、このような開発ではユーザーの要求事項の確定が比較的容易であった。しかし、昨今のDX(Digital Transformation)に称される企業変革や顧客志向を目的とするプロジェクトでは、ビジネス要求を満たす要件定義の確定が困難になっている。このことが“ユーザーが要件をまとめられない”の背景にあると考えられる。
IPA(独立行政法人情報処理推進機構)、経済産業省〜情報システム・モデル取引・契約書〜によると、ウォーターフォール型開発のプロジェクトでは、要件定義を含む超上流フェーズである企画段階は、ユーザーが主体的に行うとある。
実際IT紛争では、ユーザーの協力義務の一貫として、ユーザー主体の要件定義の役割が問われる。しかし、実際のところ、特にDX型のプロジェクトでは要件を決めきれない課題を抱えているユーザー企業は少なくない。
昨今アジャイル開発の普及に伴い、ユーザーとベンダー協業でのアジャイル開発のIT紛争の事案も増えている。アジャイル開発の頓挫の要因でも、ユーザーが要件を決められないがある。IPAによる〜アジャイル開発版情報システム・モデル取引・契約書〜には、「ユーザーの体制として、開発すべき要件の優先順位を決定するPO(プロダクトオーナー)を専任する」とあるが、こちらもなかなか浸透していない現実がある。
ビジネスアナリストは、企業のビジネス戦略とプロジェクトをつなぎ、プロジェクトの価値創造を担保する役割を果たす。ビジネス要求に照らしたソリューションの道筋を多様なステークホルダーを巻き込みながら描くのである。
ITプロジェクトの企画から要件定義の工程で、このような役割を果たすビジネスアナリストの存在がプロジェクトの成否を決めると言っても過言ではない。DXの時代、1つのプロジェクトの失敗が企業の存続を危うくすることもある。企業の発展の観点から、ビジネスアナリストの活用と育成がますます重要視されるのである。
Ph.D., MBA,PMP,
北海道大学大学院非常勤講師、東京地方裁判所 IT専門委員, IIBA日本支部理事
さまざまな業種(金融、製造、小売、卸し、石油)の多国籍企業で30年以上、プロジェクトマネジャーや、PMOマネジャーとして、主にグローバルIT開発プロジェク トに従事。
PMI日本支部の事務局長を経て、現在は(株)アスカプランニング代表取締役として、プロジェクトマネジメントや、ビジネスアナリシスのコンサルティングや研修活動を行う。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授