プロダクトオーナーの役割にアナリシス活動を取り入れて、適切な要求を選別できるようにするためにプロダクトオーナーが実践すべきこと、そして、プロダクトオーナーを支える組織やステークホルダーが実践すべきことをPOA(プロダクトオーナーシップ・アナリシス)という概念で整理している。POAフレームワークの7つの領域とは。
近年はVUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性)の時代といわれているように、先行きが不透明で、将来の予測が困難な状況となっています。このような時代には、ビジネスとして何を実行したら成功するのか、どのような製品・サービスを提供したら消費者にうけるのか、事前に判断することが難しくなっています。この時代背景の変化を受け、IIBAは、プロジェクト中心(Project-centric)からプロダクト中心(Project-centric)へ移り変わることを提唱しています。
プロジェクトは、定められた期日までに何らかの独自の成果物を完成させることが主眼です。しかし、完成させるべき成果物を事前に定義できない状況では、成果物を完成させることを目的として計画を立案し、計画どおりに進めていけばビジネスに役立つような製品・サービスができあがるということは、期待できません。
そのため、製品・サービスを提供して顧客からのフィードバックを受け、そのフィードバックを反映して改善した製品・サービスを提供し、さらにフィードバックを受けるサイクルを繰り返さないと、真に顧客のニーズに合った製品・サービスを見極めることは困難となっています。
そして、いったんニーズに合ったものを提供できたとしても、顧客のニーズは移り変わります。そこで、変わりゆくニーズに合わせ、より良い製品・サービスを提供し続ける発想にシフトすることを提唱しています。
完成したものを大幅に変更することが困難な建築物などでは、このような取り組みは困難です。しかしソフトウェアは容易に変更できますから、ソフトウェアを利用したデジタルビジネスを推進する際には、このような発想が有効なのです。
デジタルの仕組みを活用して製品・サービスを構築する際に、製品・サービスに顧客のニーズを適切に反映していく必要があります。ニーズは潜在していることが多く、必ずしも他者が明確に把握できるように表現されてはいません。しかし、求められていることを明確に表現しないと、それを製品・サービスの設計者に伝えることは困難です。
ニーズに基づいて対応すべきことを明確に表現したものが「要求」になります。ビジネスアナリシス活動は、ニーズに基づいて要求を明らかにし、要求を反映したソリューション(製品・サービス等)案を考え、推奨する活動です。
そして、顧客に提供する製品・サービスに含めるべき要求を、誰が責任をもって決定するかがビジネスにおいては重要になります。人によってニーズや要求は異なりますから、誰かが責任をもって対応すべき要求を決めないと、必ずしも方向性の合っていない要求に翻弄されて、整合性のとれた製品・サービスの提供は困難となるでしょう。
海外では、そこにプロダクトオーナーという役割が必要だと認識されています。プロダクトオーナーは、アジャイルソフトウェア開発の手法であるスクラム(SCRUM)で定義された役割ですが、今ではスクラムに限定されず、製品・サービスをアジャイル的に作り提供する活動で必要な役割と認知されてきています。
つまり、製品・サービスに反映すべき要求はどれかを決めるのがプロダクトオーナーの役割なのですが、要求を選別する際には提供する製品・サービスの価値を最大化することに注力すべきなので、通常、プロダクトオーナーは価値を最大化することに責任があるとされています。
このような役割を果たすことをプロダクトオーナーシップと呼んでいます。IIBAは、製品・サービスの価値を最大化するために、プロダクトオーナーは、スクラムで定義された役割以上の役割を果たす必要があると主張しています。
それでは、プロダクトオーナーに任命された人が、価値を最大化する要求はどれかを適切に判別できるのでしょうか。要求を実現したことによって生じる価値を理解できていないと、この判断は難しいでしょう。
要求を実現したことによって、どれだけの価値が生まれるかを判断することは、決して容易なことではありません。そこに、ビジネスアナリシスの活動が必要となるのです。
ビジネスアナリシスでは、ニーズを基に要求を明確にし、ソリューション案を考案します。その際に、価値を最大化する要求を見極めるために必要なアナリシス活動を行います。どの要求を取り入れたら最大の価値が創造できるかを見極めることは、しっかりとしたアナリシスを行わないと困難です。
IIBAは、プロダクトオーナーの役割にアナリシス活動を取り入れて、適切な(価値を最大化する)要求を選別できるようにすることを提唱しています。そして、そのためにプロダクトオーナーが実践すべきこと、そして、プロダクトオーナーを支える組織やステークホルダーが実践すべきことをPOA(プロダクトオーナーシップ・アナリシス)という概念で整理しています。
IIBAが発行している「プロダクトオーナーシップ概論(Introduction to Product Ownership Analysis)」では、POAフレームワークの7つの領域を定義しています。
※組織は、プロダクトの成功やチームの成功をサポートする必要がある。
※人を知ることに注力する。
(注)カスタマー・インティマシー:顧客と親密な関係を築き、関係を強固にすることで顧客を囲い込み、長期の安定した良好な関係を築いて戦略的優位性を構築する考え方。
※デリバリー・チームだけではなく、顧客やステークホルダーを含めてチームと考える。全員が同じ方向を向いて優れた製品・サービスを作るために貢献する。
※組織のプロダクト戦略に沿ってチームは日々の作業を行う。(プロダクト戦略とチームの作業とを結び付ける。)
※適切なプロダクトを適切な人に適切なだけ提供する。(素早く、頻繁に)
※自分たちが行っていることが正しいかを顧客に教えてもらう。
※プロダクトオーナーは、「価値を最大化できたか」によって評価される。
さらに詳細を知りたい場合は、こちらMultilanguage ResourcesよりPDF版が無料でダウンロード可能です。
約14年間日本アイ・ビー・エム(株)にてSE,PMとして数々のシステム開発プロジェクトに従事後、2001年にITコーディネータとして独立し、フリーランスとして活動している。2008年にIIBA日本支部を立ち上げ、2014年まで理事を務め、2021〜2022年には幹事を務める。IIBAがアメリカで開催するBBCカンファレンスに毎年参加し、海外のビジネスアナリストと交流すると共に、日本に最新のビジネスアナリシス情報を紹介している。
BABOKRガイドV2,V3(日本語版)翻訳メンバー、プロダクトオーナーシップ概論監訳者
<IIBA認定資格>
CBAP (Certified Business Analysis Professional)
IIBA-AAC (Agile Analysis Certification)
IIBA-CPOA (Product Ownership Certification)
IIBA-CCA (Cybersecurity Analysis Certification)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授