存亡の危機感がDX推進の原動力――大日本印刷 金沢貴人氏デジタル変革の旗手たち(1/2 ページ)

1876年に東京・銀座で秀英舎として発足し、約150年の歴史を持つ大日本印刷(DNP)。現在、DNPグループでは、「未来のあたりまえをつくる。」というブランドステートメントを掲げ、事業戦略、財務戦略、非財務戦略を推進している。取り組みの一環として展開している、DX推進、生成AI利活用、プラットフォーム事業について、ITmediaエグゼクティブ プロデューサーの浅井英二が話を聞いた。

» 2024年01月17日 07時03分 公開

 大日本印刷(DNP)の約150年にわたる歴史は「変革」の歴史でもある。印刷事業で培ったコアバリューを生かしつつ、目下は社会課題の解決を目指している。デジタルを活用した変革は半世紀前に遡る。同社は、1970年代に汎用コンピュータを導入し、出版物などの電子化により、印刷物の需要が減少するのではないかという危機感から今で言う「デジタル変革」(DX)に着手している。まずは1970年代に、印刷用の組版をコンピュータで行う「CTS(Computerized Typesetting System)」を導入し、画像、文字、大量データ処理のノウハウを蓄積することで「情報技術の土台作り」を行っている。

大日本印刷 常務執行役員(CIO・ABセンター長/教育ビジネス本部 担当/情報システム本部 担当/情報セキュリティ委員長/技術・研究開発本部 ICT統括室 担当)金沢貴人氏

 また2001年から、印刷技術(Printing Technology)と情報技術(Information Technology)の掛け合わせにより得意先企業の課題を解決する「P&Iソリューション」を展開。さらに2015年から、得意先企業の先にある社会課題を解決するための「P&Iイノベーション」を推進。「オールDNP」の総合力を発揮することで、国内外のさまざまな企業や団体、生活者のニーズをいち早く把握、分析することで、顧客の期待を超える新しい価値を持続可能な社会に提供することを目指してきた。

DNPがDXに取り組む背景

 社員一人ひとりが主体となって社会課題を自分のこととして捉え、変革に挑戦というDNPグループのDNAを生かしたDX推進の取り組みについて、常務執行役員の金沢貴人氏に話を聞いた。

紙への印刷事業が縮小する中、新たな事業で会社をいかに成長させるか

 DX推進によりDNPグループが目指す価値創造には、大きく4つの柱がある。1つ目は、デジタルを活用した新製品・新サービスの創出、2つ目として、デジタルを活用し、既存の製品・サービスに新たな価値を付加する、3つ目は社内システムの革新とICT人材、DX人材の育成と拡充、そして4つ目は、工場のスマート化による生産性の飛躍的な向上で経営基盤を強化する。

 DX推進の背景を金沢氏は、「デジタル化が進むにつれ、既存の印刷事業が縮小していく中、別の事業で会社をいかに成長させていくかが大きな課題でした。そこで既存の印刷事業は再構築し、イメージングコミュニケーション関連や情報セキュア関連などの基盤事業を収益の柱とし、その収益を成長をけん引するエレクトロニクスの事業やメディカル・ヘルスケアのような新規事業の領域に投資をしていきます。新規事業の創出や既存事業の再構築のためには、DX推進が不可欠でした」と話す。

成長牽引事業・新規事業への集中投資と事業構造改革を推進

 DX推進の一環として2020年に、データドリブン経営の実現に向けたDX基盤の整備にも着手。グループ各社で分断された状態だったデータを、データ統合基盤に集約し、さらにデータマネジメント基盤を構築。データマネジメント基盤に蓄積したデータを、各事業部門で可視化して意思決定支援につなげている。このデータマネジメント基盤は、すでに5500人以上(2023年度)が利活用しているという。

 またDX推進にあたり、DXを実現するための組織づくり、および企業風土改革も実施。DX推進のための組織として、本社に専任の「DX推進統括組織」を設置し、関係部門と連携しながら全社でDXを推進する施策を実施している。また、最高デジタル責任者(CDO:Chief Digital Officer)を任命し、全社のDX関連の取り組みを統括している。さらにDXを推進するための人材の確保・育成にも注力している。

 金沢氏は、「DX人材を育成するとともに、再構築事業から成長牽引事業への人材の再配置とリスキリング、キャリア採用による高度専門人材の獲得などにも取り組んでいます。その一環として、全社員にDXリテラシー教育を実施し、2025年度末までに2万7500人のDX基礎人材を育成する計画です。また、自由度の高い環境でイノベーションを生み出す新規事業開発組織を設置し、果敢に挑戦しています」と話している。

印刷技術の応用、発展によるDX推進で事業領域を多方面に拡大

 DX推進により、これまでに創出した新たな価値として、古くは1981年に着手したICカードの開発が知られている。現在は社会インフラの1つと呼べるほど浸透したICカードだが、当時は本当に日本国内で浸透するのか半信半疑の状況だったという。転機となったのが、2000年代前半のクレジットカードのIC化と携帯電話向けのSIMカードだった。これに伴い「おサイフケータイ」用のソフトウェアや、「Apple Pay」対応の決済プラットフォーム開発などに事業が拡大した。

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