ビジネスアナリストに必要なソフトスキルを支える人間力を向上させるためにビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!

ビジネスアナリストにはさまざまな能力が要求される。関連する知識やスキルは当然だが、それにも増して必要なのが、コミュニケーション能力、対人関係やリーダーシップなどの非技術的なソフトスキル。なぜこのスキルが必要なのだろうか。

» 2025年08月06日 07時00分 公開
[寺嶋一郎ITmedia]

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 ビジネスアナリストにはいろんな能力が要求されます。ビジネスアナリシスに関連する知識やスキルは当然ですが、通常のビジネスの基本となる戦略論や実務的な会計などの知識、そして一般的なマネージメントの知識に加えて、対象とするビジネス領域の業界知識なども必要とされます。それにも増して必要なのがソフトスキルです。ここが通常のエンジニアと大きく違うところです。

 ソフトスキルとは、技術的な専門知識や業務スキル(ハードスキル)ではなく、コミュニケーション能力、対人関係やリーダーシップなどの非技術的なスキルを指します。例えば、コミュニケーションのスキルは、IT導入を円滑に進めるために必要不可欠です。経営層に投資効果を納得してもらったり、ユーザーにシステムが変わることで最初は混乱するけれども、その目的を説明して変化を受け入れてもらうよう説得したり、システム開発者にシステムの必要性を知ってもらい、勘所を外さないようにソフトウェアを作ってもらったりと、異なる考えを持つステークホルダーと良好な関係を築き、対話を通して彼ら/彼女らに変革に納得してもらうためにはコミュニケーションスキルが必要なのです。

 今後、ますますAIが浸透していく中で、こうしたソフトスキルこそが、AIに代替できない人間としての仕事に必要なものになっていくはずです。

 こうしたソフトスキルを上達させるために必要なものは、知識でしょうか、技術力でしょうか、それともスキルなのでしょうか。そうしたものも、もちろん必要ではありますが、やはりその人が言うことに耳を傾けようと思わせる力は、その人の魅力であり人格の力ではないでしょうか。その人の人となりから、知らず知らずに伝わってくる影響力や感化力、そして指導力であるところのもの、それは人間力だと思うのです。

ソフトスキルを支えている力とは?

 そうした人間力は、もちろんすぐに、一朝一夕には獲得できるわけではありません。ではどうしたら人間力を少しでも向上させることができるのでしょうか。

 人間力は座学だけで高められるものではありません。もちろんリベラルアーツなどを学び教養をつけることもすごく大事なことでで、人間力の基礎になると思いますが、それとともに、生きていく中での大事なことが何点かあります。

 一つは内省するということ。日々内省を行い、自らの行いや思いを見つめ直し、あるべき姿へと修正していくことです。自分を客観的に見つめ、自らの向上のため心を磨いていこうとしない人に人間力の向上はありえません。そして人の意見を傾聴し、自らの感情に振り回されずに冷静に「対話」するというスキルを身につけること。さらには、心の姿勢としてポジティブで明るい考え方で生きていくこと。さまざまな試練が降りかかったとしても、それが自らの成長になると前向きに受け入れて試練を乗り越えてていくことも、非常に大事なことだと思っています。

 それ以外にも人間力を高めるさまざまな方法があり、それぞれを語っていくと話は尽きないのですが、人間力とよく似たものに、古くから「徳」と呼ばれているものがあります。「徳」とは、他者を思いやり、正義や善を体現する生き方そのものです。徳を構成するものに、「礼」、「智」、「信」、「義」、「勇」があるといわれますが、実はこうしたものを支えているのが「仁」、すなわち愛なのです。「徳」の中核には愛があり、私は人間力の基盤には愛が必要だと思っています。

人間力を高める方法

 ところで愛って、一体何なのでしょうか。愛とは、お互いに関心を持ち、尊敬し合い、助け合い、生かし合い、分かち合い、許し合うことです。そして愛の逆は、自分さえ良ければいいという相手への無関心なのです。

 愛というと恋愛を想像する人も多いでしょう。恋愛関係における愛も恋も、人を好きになることにおいて似ていますが、恋は「好きな人に何としても好かれたい」という気持ちが優先され、相手に好きになってもらえるように行動しますが、それは相手のことを思ってのことではなく、好きな人と両思いになるため、つまり、自分のためにやっていることが多いのです。相手に尽くしているように見えても、自分のためを思った自分本位の恋は多いものです。

 一方、愛は自分ではなく、相手のためを思い、相手の幸せを願っているのが恋と違うところでしょう。愛はもっと幅広いもので、恋のように瞬間的に湧き上がる気持ちではなく、時間をかけて育まれた信頼関係や深い絆があります。なので、恋が自分本位なものから、相手のことを考えるようになっていけば、恋がやがて愛に変わっていきます。しかし、自分本位な考えに捕らわれたままでは恋が恋で終わることが多いわけです。

 実は、愛とは自己愛から、親子などの家庭愛、恋愛におけるパートナーへの愛、指導者としての部下への愛、そして自分に縁のない他者への愛、さらには社会や国、地球などへ向けた共同体への愛と広がっていきます。すなわち、愛とは非常に広くて深い、もっともっと根源的なものであり、だからこそ私たち人間にとって一番大事なものなのです。愛の本質は、自分と他者とが大きな共同体の一員として互いに繋がっていて、自他共に一体であるというところにあるのではと私は思っています。

 そうした愛を身につけるには、愛の実践が不可欠です。それでは愛を実践する上で大事な点を話します。

愛とは何なのか

 まずは愛とはもらうものではなく、自ら与えるものだということです。愛は待っていても、他人から与えられることはなかなかありません。ならば、まず自分から与えましょう。Give First! なのです。人に与えた愛は、その愛を与えた人でなくとも、周り巡って、どこからか必ずあなたに返ってくるものです。

 次に愛は無条件で与えるものです。あなたに〇〇してあげたのだから、それ相応のことをして返してよ、というのは「愛」ではなく「取引」です。そうした見返りを求める行為は愛とは呼びません。親が幼き子供に対して行う無償の行為こそが本物の愛なのです。

 そしてこれも非常に大事なことですが、愛は行動に移さなければ意味がないということです。心の中で愛を思っている人も多いでしょう。でもその愛はあなたが行動として表さなければ伝わりません。あなたがいくらパートナーを愛していると心で思っていても、黙っていては愛は伝わらないのです。感謝の言葉をかけるとか、心を込めたプレゼントを贈るなどの行為で伝えていかなければ、愛は相手に伝わりません。愛は行為に表すことで、はじめてその魔法のように大きな力を発揮するのです。

 さらに、先ほど恋と愛の違い話しましたが、愛とはまさに利他の行為でもあります。行動心理学の研究において、2つのグループにお金を与え、一方は自分のために、片方は他人のためにそのお金を使って何かしてあげるという実験を行ったところ、他人のためにお金を使ったグループの方が幸せを感じるというのです。仏教でも「利自即利他、利他即利自」という言葉がありますが、他人を利する「利他」の行為とは、本当は自分を利する「利自」の行為でもあるのです。愛と利他とはまさに表裏一体なのです。

 最後は愛を知恵をもって与えるということです。いたずらに愛を与えても、単なるおせっかいとなったり、逆にその人をスポイルしてしまったりすることも多々あります。何をやってあげることが、真にその人の成長や幸せに繋がるのかをよく考えて愛を与えなければなりません。

 そのためには、その人が今どんな状況にあり、本当は何を望んでいるのかということをよく観察して知る必要があります。そうした状況を瞬時に判断できるのが認識力であり、私たちは日々学ぶことで高い認識力を身につけていきたいものです。そして学んだことを実践することで、それは知恵となっていきます。知恵を使いながら、その人に一番必要な愛を与えるということが大事なのです。

愛の実践において大事なこと

 以上が愛の実践を行う上で、ぜひ心に留めておいてほしいことです。そして私たちは誰でも愛を実践することにより幸せになれるのです。ハーバード大学の75年にわたる「幸せの研究」というのを知っていますか。この研究の結論は、人が幸せになるのは、家柄、学歴、職業、家の環境、年収や老後資金の有無といったことではなく、愛のある人間関係こそが人を幸せにするということでした。周りの人のため、そしてより良い社会のために、愛を実践していけば、その結果は必ず愛溢れる人間関係となり返ってくるはずです。愛の実践こそが人を幸せにするのです。

 そして、愛の実践を促進するのは感謝の心です。朝に目が覚めて、命があるということは、ある意味で奇跡でもあります。日々生かされていることに感謝し、その報恩として愛の実践をやっていきましょう。愛の実践を重ねていくことで、確実に人間力は高まっていきます。その人間力が大きな仕事をするのです。ぜひ皆さんも愛を日々実践して、愛溢れる素晴らしいビジネスアナリストを目指してほしいと思います。

著者プロフィール:寺嶋一郎

IIBA日本支部 代表理事

1979年に積水化学工業に入社、プラント制御や生産管理システム構築等に従事。MIT留学を経て、AIビジネスを目指した社内ベンチャーの設立に参画、AIを活用した工業化住宅のシステム化に貢献する。2000年に情報システム部長に就任、IT部門の構造改革、IT基盤の高度化・標準化、グローバル展開やITガバナンスの改革等に取り組む。2016年に定年退職後、企業のIT部門強化のための様々な活動やIIBA日本支部の代表理事としてビジネスアナリシスの普及に努め現在に至る。


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