世界のビジネスアナリシスの最新動向 〜BBC2025(Building business capability)カンファレンスより〜ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!

BBCカンファレンスに毎年参加すると、経年変化が分かる。デジタルビジネスという言葉のもとでビジネスとITは融合し、さまざまな新しい動きが生まれ、海外は着実に進化している。しかし、日本は長年あまり変化がなく、海外との差が広がってきている。

» 2025年08月27日 07時00分 公開

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BBCカンファレンスとは

 第22回はBBCカンファレンスを紹介します。

 BBC(Building Business Capability)カンファレンスとはIIBAが主催しているグローバルなカンファレンスです。2010年に米国バージニア州アレクサンドリアで第1回が開催されており、以後、毎年アメリカ国内で開催されています。コロナ禍の時期はオンライン開催でしたが、筆者は第2回カンファレンスに参加して以来、ほぼ毎年参加しています。(1度だけ仕事の都合で参加できなかった)

2010年から開催しているIIBA主催のBBC

 今年はトランプ政策の影響からか、米国以外(特にカナダ)からの参加者が例年よりも少なかったのですが、それでも数百人が参加している規模の大きなカンファレンスです。ビジネスアナリシスに関連するさまざまなトピックのセッションがあり、複数のセッションを同時に行っています。参加者は好きなセッションに参加できます。

ビジネスアナリシスに関連するさまざまなトピックのセッション

 BBCカンファレンスに毎年参加すると、経年変化が分かります。初めて参加した2011年には、日本と海外が直面している課題はそれほど違っていないと感じていました。当時はビジネス側とIT側とでギャップがあり、その橋渡しをしないとビジネスに役立つシステム開発はできないというのが中心的な課題でした。(その橋渡しをする人材がビジネスアナリストです)

 そして、デジタルビジネスという言葉のもとでビジネスとITは融合しました。その後、アジャイル、ビジネスアジリティ、プロダクトオーナーシップアナリシス、ニンブルなど新しい動きが生まれ、海外は着実に進化してきています。

 しかし、日本は長年あまり変化がありません。これは、とりもなおさず、海外と日本との差が広がってきていることを意味しています。IMDが発表している国際競争力ランキングを見ると、日本の競争力の低下傾向が裏付けられます。日本にいては、その実感があまり湧かないと思いますので、このような海外のカンファレンスに出て、海外の空気感を直に感じると、さまざまな気付きが得られるでしょう。

AI活用の動きについて

 近年の顕著な傾向は、生成AIを中心としたAI活用です。2022年秋にChatGPTブームが始まり、2023年にはその可能性が議論され、2024年には使ってみた結果をフィードバックするセッションが数多く見られ、本年はビジネスアナリシス活動への具体的適用事例と活用のヒントがまとめられた発表が多くありました。

 一例を挙げると、要求管理への適用が紹介されています。IIBAのBABOK(R)ガイドやビジネスアナリシス標準では、ビジネス要求、ステークホルダー要求、ソリューション要求と要求を分類しています。そして、それらのつながりをトレースすることで、ビジネスの目的に沿ったソリューションが提供できることを強調しています。また、同じ分類の中でも多くの要求があり、それらの要求間には相互に関連性のあるものがたくさんあります。

 これら数多くの多様な要求間の関係性を適切に管理して一貫し整合性のとれたソリューション開発とチェンジの実行ができるようにするために、要求管理ツールを使うのが海外では一般的です。

 しかし、従来はツール自体がつながりを見出してくれるわけではなく、人がつながりを付け、それらを登録することで、要求間の関連が見られるようになります。AIによって要求間のつながり(候補)を示し、それを元に作業が進められれば、人が行う要求分析作業もかなり効率化されることが期待されます。これはビジネスアジリティを高めるために有効です。

 IMDの国際競争力ランキングの中で、日本はビジネスアジリティに大きな課題を抱えていることが指摘され続けています。国際競争において、アジリティ(日本ではスピード感と言い換えた方がしっくりくるかもしれない)は大事な要素です。海外がビジネスアジリティを高めるためにどのような活動を推進しているのかを知ることも、多くの企業に役立つでしょう。次に紹介するビジネスアーキテクチャを構築し維持することも、ビジネスアジリティにとって有用です。

著者プロフィール:庄司敏浩

約14年間日本アイ・ビー・エム(株)にてSE,PMとして数々のシステム開発プロジェクトに従事後、2001年にITコーディネータとして独立し、フリーランスとして活動している。2008年にIIBA日本支部を立ち上げ、2014年まで理事を務め、2021〜2022年には幹事を務める。IIBAがアメリカで開催するBBCカンファレンスに毎年参加し、海外のビジネスアナリストと交流すると共に、日本に最新のビジネスアナリシス情報を紹介している。

BABOK(R)ガイドV2,V3(日本語版)翻訳メンバ、ビジネスアナリシス標準V1,V2貢献者

<IIBA認定資格>

CBAP (Certified Business Analysis Professional)

IIBA-AAC (Agile Analysis Certification)

IIBA-CPOA (Product Ownership Certification)

IIBA-CCA (Cybersecurity Analysis Certification)


ビジネスアーキテクチャの動きについて

 ビジネスアーキテクチャについても、本カンファレンスで毎年複数のプレゼンテーションがある主要なトピックの一つです。今年は、BBCの長年のステアリングコミッティのメンバでもあるロジャー・バールトン氏の講演、米国ミシガン州の退職者向けのサービスを行っているNPO(MERS:Municipal Employees’ Retirement System)におけるビジネスアーキテクチャを用いたプロジェクト推進のケーススタディ、BIZBoK(R)(Business Architecture Body of Knowledge)を提供しているビジネスアーキテクチャギルド関係者からの詳細なモデリング方法の説明、ビジネスアーキテクトのスキルセットに関しての紹介など、さまざまなプレゼンテーションがありました。

 MERSのケーススタディでは、オンプレミスのCRMシステムをクラウドに移行するというケースに基づき、組織で初めてビジネスアーキテクチャを導入するケースが紹介されました。ビジネスアーキテクチャの成熟度モデルのレベル1(ほぼ何も行われていない状態)からレベル2(一部チームでのビジネスアーキテクチャ活動の導入)への取り組みになります。その中で実施した重要な活動は、(1)ビジネス用語を整理する、(2)ハイレベルなビジネスプロセスを定義する、(3)ビジネスプロセスに紐づくケイパビリティを特定する、(4)プロセスの優先順位をペインとゲインからつけ、投資の優先順位を特定する、であることが紹介されました。

 ビジネスアーキテクチャ・コンソーシアムからのプレゼンテーションでは、有名なザックマンのEAオントロジーを参照しながら、ビジネスアーキテクチャの中には、ビジネスドメインとオペレーションドメインがあり、前者にはエンタープライズ(戦略レベル)とビジネス(ビジネスイノベーション/デザイン)、後者にはオペレーションズ(プロセス改善)とシステムデザイン(システム要求)のレイヤーの活動があると示されています。

 シニアなビジネスアーキテクトは、エンタープライズレベルからビジネス、オペレーションズまでを主たる活動とし、エッセンシャルなビジネスアーキテクトは、オペレーションズとシステムデザインを主たる活動としており、オペレーションズ領域は、両レベルのビジネスアーキテクトのスキルがオーバーラップする領域としての説明が行われていました。そしてビジネスアーキテクトのレベル別のスキルセットについての紹介も行われ、さまざまな質疑がなされていました。

 ロジャー・バールトン氏の講演では、企業内の活動については、目的と手段の連鎖で活動がなされていることが説明され、こうした活動を支えるビジネスアーキテクチャのフレームワークが紹介されています(日本語訳版の図表をここでは紹介します)。

ビジネスアーキテクチャのフレームワーク

 ビジネス定義→ビジネスデザイン→ビジネス構築→ビジネス運営の大きな4つのフェーズの中で、イテレーティブに行われる詳細アクティビティによって構成されています。ビジネス定義領域が戦略およびビジネスモデルを扱っており、プロジェクトなどのイニシアチブから見ると、Whyを示しています。それをビジネスアーキテクチャとしてWhatを具体化するのがビジネスデザインです。

 ここでビジネスのオペレーティングモデルとしての将来像が描かれ、次のビジネス構築フェーズで、実際のプロジェクトやロードマップが策定され、実行されていきます。紙面の都合で詳細を説明できませんが、日本語訳版(ロジャー・バールトン著、塩田宏治・庄司敏浩・濱井和夫訳「ビジネスアーキテクチャ」Technics Publications)が発売されていますので、関心ある方は、ぜひ手に取ってみてください。

著者プロフィール:塩田宏治

株式会社クリエビジョン代表取締役 

IIBA認定CBAP(R) (Certified Business Analysis Professional)

IIBA認定CPOA (Certificate in Product Ownership Analysis)

Open Group認定TOGAF(R) Enterprise Architecture Practitioner (TOGAF(R)10)

Open Group認定TOGAF(R) Business Architecture Foundation

米国PMI認定PgMP(R)(Program Management Professional)

米国PMI認定PMP(R)(Project Management Professional)

Scaled Agile認定SAFe(R) SPC(SAFe(R) Practice Consultant)

【略歴】

  • NTTデータ、ソニーを経て、独立。プロジェクトはモノを作るだけの活動ではなく顧客とビジネスの価値を生み出すチェンジ活動であるという信念のもと、プログラムマネジメント、ビジネスアナリシス、ビジネスアーキテクチャやエンタープライズアーキテクチャ、エンタープライズアジャイルなどの専門領域の経験と知識・スキルを活用し、顧客のビジネスおよび組織のトランスフォーメーション活動を支援し続けています。
  • IIBA日本支部理事
  • Iasa日本支部アドバイザリーボード
  • 経済産業省 ビジネスアーキテクチャ人材の育成に関するタスクフォース 委員
  • 北海道大学非常勤講師

(株)クリエビジョンのサイトからビジネスアナリシスに関連する情報を発信しています

https://www.crea-v.com/

https://note.com/crea_vision


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