日本のシステム開発プロジェクトの成功率は、北米や欧州と比較すると一定の差がある。その差を生む要因のひとつが「ビジネスアナリスト(BA)」の存在だ。存在するか否かが、成果を大きく左右する。
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日本のシステム開発プロジェクトの成功率は、日経コンピューターの調査によればおよそ5割強にとどまっています。一方、北米や欧州の成熟企業では、プロジェクト成功率が6〜7割に達する事例も報告されています。数字の定義や条件は単純に比較できるものではありませんが、一定の差があるのは事実です。
その差を生む要因のひとつが「ビジネスアナリスト(BA)」の存在です。BAは単なる要件定義の担当者ではなく、戦略と現場を橋渡しし、プロジェクトの前から後まで継続的に関わる専門職です。存在するか否かが、成果を大きく左右します。
本稿では、25年以上外資系企業でBAを務めてきた経験を踏まえ、BAの役割や配置モデルを紹介し、日本企業が学べるポイントを考察します。
日本企業では、プロジェクトマネージャー(PM)やシステムエンジニア(SE)がBAの役割を兼任するケースが少なくありません。この場合、本来の業務に加えて要件定義まで担うことになり、リソースが分散してしまいます。その結果、要件定義の深さや精度が不足しがちです。
また、外部コンサルタントや開発ベンダーがBA的な役割を担うこともありますが、社外の立場ゆえに現場の文化や業務の細部を深く理解するのが難しいという制約があります。そのため「現場にとって当たり前の前提」が要件として拾われず、導入後にギャップが生じるリスクがあります。
一方、外資系企業では早くからBAの役割を独立させてきました。その背景としては、プロジェクト管理の成熟と、多様なステークホルダーを調整する役割が求められたことがあります。特に欧米企業では、経営層がIT投資を戦略的判断の一部として位置づけており、事業部門とIT部門の間を橋渡しする専門職が必要とされてきました。BAはその期待に応える形で、要件を単に文書化するのではなく、ビジネスの成果に直結する形で定義する役割を担っています。
こうした役割分担の明確化により、PMは進捗・予算管理に専念でき、開発チームは設計・実装に集中できます。そしてBAが業務要件を整理して伝えることで、ステークホルダー間の誤解や抜け漏れが減り、結果としてプロジェクト成功率の向上につながっています
外資系企業では、下記の例のようにプロジェクトに関与する役割の責任範囲を明確にしています。
経営層や事業部門との調整や投資判断の役割(例:ビジネスリレーションシップマネジメントBRM)、全体最適を設計する役割(例:ビジネスアーキテクト)が存在する場合もあります。
彼らが描いた戦略を、BAは現場に入り込み戦術へと落とし込み、課題や期待を整理します。
PMがプロジェクト管理に責任を持ち、BAは要件定義をリードし、合意形成を進めます。開発チームは設計・実装・テストを担い、現場はレビューやUATに参加します。
BAは効果測定やフィードバック整理を行い、改善サイクルを次につなげます。
ビジネスアナリスト(BA)はよく「戦略と実行の橋渡し」と表現されますが、実際にはもっと多面的です。具体的には 「戦略と現場」「現場とIT」「社内と社外(ベンダーなど)」 の間に立ち、双方の言葉や視点を翻訳・整理して、認識のずれや食い違いを減らし、合意形成を支える役割を担います。
外資系企業でもBAの配置は一様ではありません。代表的なモデルを紹介します。
ERP、営業・マーケティング、人事など、特定の事業領域を担当するモデルです。日常的に現場とコミュニケーションを取るため、現場が「当然あるべき」と思っている暗黙知や慣習的な業務を拾い上げ、要件として明文化できます。現場の文化や背景を理解しており、外部には見えにくい“ニュアンス”まで汲み取れるのが社員ならではの強みです。こうした力が、要件漏れを防ぎ、現場に即した仕組みを作る上で大きく寄与します。
Center of Excellenceに所属し、プロジェクトが立ち上がるたびに必要な領域へアサインされるモデルです。こちらも社員ですが、特定の領域に常駐していないことから、業務背景や専門用語を把握するのに時間を要する懸念があります。さらに、現場からは「仲間」というより「プロジェクト成功のためだけに来た人」と思われがちで、信頼を得るまでに時間がかかることもあります。そのため、CoE型ではBA間で知見を共有し、ドキュメントや事例を体系化する仕組みづくりが欠かせません。
ドメイン特化型とCoE型を組み合わせたり、必要に応じて外部のBAを活用するモデルです。組織の成熟度やプロジェクトの性質に応じて、柔軟に最適な形を選択します。
外資系の事例から、日本企業が取り入れるべきポイントはいくつもあります。その中でも特に重要なのは、BAを独立した役割として位置づけ、プロジェクトの質を高めることです。
・要件の可視化と合意形成:現場の声を丁寧に引き出し、曖昧なままにせず合意に落とし込む
・成果に結びつける視点:仕様書作成にとどめず、業務改善や投資効果の可視化につなげる
・継続的な伴走:プロジェクト後もBAが関わり、改善サイクルを支える。これにより、以下の効果が期待できる
・要件漏れの削減:曖昧なニーズを丁寧に可視化し、手戻りを最小化することでプロジェクトコスト抑制に寄与する
・現場定着率の向上:BAが寄り添うことで、現場を置き去りにしない取り組みが可能となり、導入後の活用が進みやすくなる
・DX投資効果の最大化:現場と経営の双方に価値をもたらし、プロジェクト成功率を高めて投資対効果を回収できる
外資系のBAは、戦略と実務を結び、変革を成功に導く「伴走者」です。これは日本企業にとって遠い理想ではなく、実現可能なモデルです。
DX推進が急務となる今、日本企業が競争力を高めるには、BAを単なる要件定義者ではなく「継続的な価値創出の役割」として組織に根付かせることが求められます。
まずは小規模や身近なプロジェクトからでも、ビジネスアナリストを専任で配置し、その効果を体感することが、やがて日本企業に大きな変革をもたらすきっかけになるはずで
ウォルト・ディズニー、マカフィー、メドトロニックなど外資系企業のIT部門において、ビジネスアナリストとして25年以上従事。Sales & Marketing領域を専門とし、特にSalesforceを活用したデータ利活用や業務改善に強みを持つ。
外資系で培った知見を基に、プロジェクトは単なるシステム導入ではなく、前後を含めた持続的な変革活動であると捉え、要件定義からソリューション評価まで幅広く実践してきた。
現在はその経験を活かし、今後の日本を担うビジネスアナリストの育成と活躍支援にも注力している。
プロズプラス代表/シニアビジネスアナリスト
IIBA日本支部 理事
Salesforceパートナー/認定ビジネスアナリスト/認定コンサルタント
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授