DXでビジネスモデルを変革するためには業務プロセスを変革することが不可欠だ。変革にあたっては、技術導入と並行して、プロセスそのものの再設計や組織文化の変革を一体的に進めることが求められる。
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業務プロセス改革は、DX推進の基盤であり、その成功は企業がデジタル時代において競争力を維持・向上するためのカギです。DXでビジネスモデルを変革するためには業務プロセスを変革することが不可欠です。変革したビジネスモデルを実行するということは、再設計した業務プロセスを実行することに外なりません。変革にあたっては、技術導入と並行して、プロセスそのものの再設計や組織文化の変革を一体的に進めることが求められます。
APQC PCFとは? American Process and Quality Center で、業務改善/改革の国際団体です。
PCF(Process Classification Framework)は:業種別業務プロセスの分類体系で、その全体像は次の図の通りです。
特徴は共通言語となるプロセス分類で、図のように最上位プロセスとして13のカテゴリーがあります。
1、ビジョンと戦略を策定する
2、製品とサービスを開発し管理する
3、製品とサービスをマーケティングし販売する
4、物理的な製品を提供する
5、サービスを提供する
6、顧客サービスを管理する
7、人的資本を開発し管理する
8、情報技術(IT)を管理する
9、財務リソースを管理する
10、設備を取得、建設、および管理する
11、エンタープライズリスク、コンプライアンス、是正、およびレジリエンスを管理する
12、対外的な関係を管理する
13、ビジネス機能を開発し管理する
前半の6個はオペレーティングプロセスで、後半の7つはマネジメントと支援プロセスになります。これは、1985年のマイケルポーターのバリューチェーンを現代風に焼き直したものと考えれば分かりやすいと思います。
各カテゴリーの下には以下のように標準化プロセスが階層的に展開されています。
レベル1:カテゴリー (13個)
レベル2:プロセスグループ(72個)
レベル3:プロセス (319個)
レベル4:アクティビティ (1200個以上)
レベル5:タスク
例として、最初のカテゴリー「1.0ビジョンと戦略を策定する」の下のレベル2とレベル3のプロセスをご覧ください。
カテゴリー「ビジョンと戦略を策定する」(レベル1)の下には、次の4つのプロセスグループ(レベル2)があります
1.1 ビジネスコンセプトと長期ビジョンを定義する
1.2 ビジネス戦略を策定する
1.3 戦略的イニシアチブを実行し測定する
1.4 ビジネスモデルを開発し維持する
そして、レベル2「1.1 ビジネスコンセプトと長期ビジョンを定義する」の下には5つのプロセス(レベル3)があります。
1.1.1 外部環境を評価する
1.1.2 市場を調査し顧客のニーズとウォンツを決定する
1.1.3 内部環境を評価する
1.1.4 戦略的ビジョンを確立する
1.1.5 組織再編を実施する
次のレベル2「ビジネス戦略と策定する」の下には図3のように9個のプロセス(レベル3)があります。(解説省略)
そして、各プロセスはタイトルのみならず、各プロセスの中身(定義)までしっかり記述されています。
図1は全業界に共通なプロセス分類体系ですが、さらに、業界固有のプロセス体系もあります。(航空、自動車、銀行、放送、小売り、通信、損害保険など)詳細はAPQCのWebページを参照してください。
これだけ豊富な標準的なプロセス参照モデルがあるとどのようなことができるのでしょうか。冒頭にあげた、デジタル業務改革に極めて重要な役割を果たすことができます。
すなわち、DXの基盤となる業務プロセス変革を体系的に進めるための強力なツールなのです。
具体的には次の4つが挙げられます。
1、業務プロセスの「可視化」
2、業務プロセスの「標準化」
3、デジタル化の「指針」
4、プロセス再設計(リエンジニアリング)
PCFは組織全体の業務を網羅的に分類するための体系ですから、既存プロセスの全貌を把握しやすいので、企業の業務全体の鳥瞰図として最適です。
課題があるプロセス(ボトルネック)を特定しやすくなります。より上位プロセスで課題を特定し、その下位プロセスでの問題解決に有効することができます。いきなり担当者レベルのプロセスを改善してもそれが経営課題につながることはまずありえません、上位プロセスでの課題を特定することが重要です。
DXを進める際に部門や地域ごとにバラバラになっているプロセスを、標準化する必要があります。PCFは、統一されたプロセス分類を提供するため、社内のプロセス整備や共通基盤の確立に役立ちます。
日本では伝統的に現場の創意工夫による改善が主流ですが、そのままではプロセスの標準化には至らずに部分最適にとどまってしまいます。PCFを活用するとそれを打破することができます。
例えば同じ業務でも東京と大阪では担当者レベルで仕事のやり方が異なるような場合、それを統一したプロセスにしてシステム化(例えばRPA)することが可能です。そうするとRPAは1台で済みますが、異なるやり方をしているといくら改善しても、2台、3台と人数分のRPAを導入することになってしまいます。喜ぶのはRPAベンダーだけかもしれません
PCFを活用して業務プロセスを階層化して整理すれば、デジタル化すべき領域を明確にすることができます。例えば、顧客管理プロセスでCRMツールを導入する場合、PCFの「顧客サービスを管理する」カテゴリーを参照して、具体的な導入範囲を定義することができます。(図5を参照ください)
DXの効果を最大化する領域を明確にできますので、投資効果(ROI)の高いプロセスを優先的にフォーカスできます。
ビジネスモデル変革によって、PCFを基に既存プロセスをゼロベースで見直し、デジタル技術を組み込んだ新しいプロセスを設計すること(すなわちBPR:ビジネスプロセスリエンジニアリング)が可能になります。
またレベル2またはレベル3のプロセス全体(はたまたカテゴリー(業務機能)全体)をアウトソースしたり、逆にインソース(内製化)したりするときの共通言語としても活用できます。出し手の業務と受け手の業務プロセスが食い違っているとスムーズなアウトソース/インソースができません。プロセスを合わせておく必要があります。特に人事機能や経理・財務などの支援プロセスでは効果が期待できます。
さらに最近賑わせているM&A(企業買収)や事業統合をスムーズに行うためにも有効です。企業統合では、買収する側の業務プロセスに合わせる(片寄せ)が主流かもしれませんが、対等な立場で統合する場合には片寄せではうまくいかないケースがあります。感情的な不満が出て、統合作業が大幅に長引くことになりかねません。その様な場合には、PCFのような中立的なプロセス参照モデルを活用すれば両社に不満もなく、共通目標に到達しやすくなるわけです。
2000年台に大手コンピュータ・メーカーの対等合併がありました。両社はグローバルに全く同じ製品系列を市場に提供していましたので、至急サプライチェーンを統合する必要がありました。どちらかのプロセスに統合(片寄せ)すると、反対側は不満を持ちます。そこで採用されたのがサプライチェーンに特化した中立的なプロセス参照モデルでした。新たなプロセスを構築すると2〜3年かかるところを参照モデルのおかげで数カ月間でサプライチェーンが無事に完成しました。このようにプロセス参照モデルは標準プロセスを短期間で構築することが可能になります
グローバルの各部門が異なる顧客管理手法(CRM)で運用している例です。図のようにレベル5までのPCF参照モデルを活用し、統一されたプロセスを運用することができ、グローバルでCRMの効果的な運用が可能になるのではないでしょうか。
ビジネスアナリシスでの活用のメリットをまとめると以下のようになります。
1、As-Is分析で抜け漏れの発見
2、ステークホルダーの網羅と明確化
3、要件の分類と整理が容易
4、To-Be設計のベンチマークとして活用
5、その結果、標準化されたTo-Be業務設計が容易
6、(標準化の結果)成果物の再利用と他案件への横展開
PCFはビジネスアナリストにとって構造化の武器と言えます。さらに汎用性・再利用性の高い分析基盤となりますから、業務の可視化・標準化による業務改革(DX)の起点になります
話題をAIに変えましょう。最近AIの進展が速いですね。今までは生成AIが主流だったのですが、ごく最近AIエージェントの出現により、業務の多くが人間からAIに置き換わるのではないかとまで言われ始めています。そして、既にAIを業務に活用する取り組みが始まっています。しかし導入している全ての組織がうまくいっているとは言い切れないようです。「AIを導入してもうまくいかない」企業の多くがつまずいているのが、 実は「業務の標準化ができていない」 ことなのです。
なぜAI活用に業務標準化が必要なのでしょうか。
AIを業務に活用するには、AIが「何を」「どう判断し」「何を出力すべきか」を理解できる環境が必要です。
その前提になるのが標準化された業務構造です。
標準化ができていないと何が起きるのでしょうか
結果、「AIを導入したけど現場で使われない」「使っても成果が出ない」「POC止まり」という状態になってしまいます。
では、標準化があるとAIは次のように変わるのでしょうか
Before(標準化なし)
After(標準化あり)
すなわち、AI導入の前段階として「業務の可視化・標準化」が不可欠なわけです。
そこで威力を発揮するのが APQC PCF なのです。
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早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授