ビジネスアナリシスの知識体系と技法を適用することで、いかに戦略策定から実行・評価までを統合し、企業を変革させるかについて提起する。
「ビジネスとITを繋ぐビジネスアナリシスを知ろう!」バックナンバーへ。
前編ではSDGs、ESG、CSVなどサステナビリティがなぜビジネスにおいて必要なのかと、実際に推進する上での課題を提起しました。
後編では、前回提起した課題に対し、ビジネスアナリシス(BA)の知識体系(BABOK)と技法を適用することで、いかに戦略策定から実行・評価までを統合し、経済価値(財務価値)と社会価値(非財務価値)を両立させ、企業を変革(チェンジ)させるかについて提起します。
BABOK(ビジネスアナリシス知識体系)の定義では、ビジネスアナリシス(BA)とは、「ニーズを定義し、ステークホルダーに価値を提供するソリューションを推奨することにより、エンタープライズにチェンジを引き起こすことを可能にする専門活動」です。
そしてビジネスアナリストの役割を意訳しますと、「関係者の困りごとや希望を把握し、関係者間の言葉を通訳し、専門家と連携しながら関係者の課題解決策を考え、組織の変革(チェンジ)を支え、価値提供を実現する専門家」です。
本稿後編では、前編で示した停滞の論点に対し、BABOKの知識体系と技法を適用して、戦略策定から実行・評価までを統合し、経済価値(財務価値)と社会価値(非財務価値)を両立させる道筋を提示します。
BABOKにおいてビジネスアナリシスの核となる考え方であるビジネスアナリシス・コア・コンセプト・モデル(BACCM)は、チェンジ/ニーズ/ソリューション/ステークホルダー/価値/コンテクストの6要素で構成されます。
これは、SDGsが重視する全体性と整合しており、ばらばらの取組を1つの意図に束ねる拠り所になります。
SDGsの事業は、社内都合ではなく社会課題という外部のニーズを起点に据えるアウトサイド・インの姿勢が不可欠です。そのうえで、影響を受ける・影響を与えるステークホルダー(顧客、従業員、サプライヤー、地域、投資家、行政など)を明確化し、利害や期待、関与度を整理します。
さらに、規制や市場、コスト・技術・人材といった前提条件(コンテクスト)を可視化し、意思決定の前提をそろえます。
SDGsは国連での採択文書名が「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」である通り、本質的にトランスフォーメーションであり、品質・安全・人権・気候対応などへの考え方の変化を伴います。
ビジネスアナリストは、経済価値と社会価値を同時に向上させるCSV(「経済価値」と「社会価値」の共有価値創造)を前提に価値の定義を具体化し、利害の異なるステークホルダー間で合意を形成します。
プロセス・組織・データ・IT・調達・教育などを適切に組み合わせ、実行可能な計画に落とし込みます。BACCMを土台に「なぜ」「何を」「どうやって」を一貫した論理で結び、取り組みの分断や“やったふり”の開示から脱却します。
BAは、前編で提起したSDG Compassの壁(壁1〜壁5)すべてに対して体系的な対応策を提供します。
以上を踏まえ、次章では、財務価値と社会価値を同一の設計図で運用するための枠組みとして、デュアル・ノーススターモデルと拡張版BSCを示します。これにより、ここで整理した部門間の不整合(壁4)を、目標設計と運用ルールの両面から体系的にほぐす方法をご説明します。
本章では、財務価値と社会価値を同時に高めるための設計枠組みとして、デュアル・ノーススターモデルと拡張版バランススコアカード(BSC)を用います。
まずデュアル・ノーススターモデルです。
企業の戦略目標を「財務」と「社会インパクト」と2つの北極星として同時に掲げ、両者の関係を1本の因果の鎖として可視化します。
財務側は売上・原価・ROIC・FCF等、社会側はScope1/2/3の原単位や安全・人権・地域価値等を想定し、定義・算式・対象範囲・ベースライン年・データ源・集計頻度・責任者を明確にします。
ここでのポイントは、2つの目標系を並置するだけではなく、プロセス上の手段目標(例:歩留まり改善、保全計画、教育)と社会的結果(例:排出原単位、安全度、人権配慮)が財務にどう貢献するかを前もって設計し、稟議・予算・評価・調達の各運用と同じ用語・同じ算式で接続することです。
次に拡張版BSCです。従来の「学習・成長」「内部プロセス」「顧客」「財務」に「社会的インパクト」を加えた五視点で、目標とKPIを一枚の戦略マップに整理します。
各視点のKPIは、対象範囲/算式/ベースライン年/データ源/集計頻度/責任者を仕様化し、定義変更は版管理で履歴化します。
さらに、通過基準や最低基準を設定し、逸脱時の是正の起点を明確にします。
こうして作成したマップと指標群は、稟議フォームのKPI影響欄、予算配分の加点・減点ロジック、管理職評価・役員報酬への反映、RFP・契約条項での最低基準と是正要求など、日常運用の接続点へ落とし込みます。
これにより、部門ごとの判断が同一の設計図で動くため、2章で整理した目標不整合による摩擦(=壁4の論点)は、設計面と運用面の両方から緩和されます。
最後に、拡張版BSCで定義した指標は、年次比較可能であることが肝要です。定義や対象範囲を変更する場合は、承認プロセス・適用日・理由を記録して、後続の評価・報告・是正に支障が出ないようにします。これにより、報告=改善のインプットとなり、次章の実行・評価の運用に自然につながります。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「ITmedia エグゼクティブは、上場企業および上場相当企業の課長職以上を対象とした無料の会員制サービスを中心に、経営者やリーダー層向けにさまざまな情報を発信しています。
入会いただくとメールマガジンの購読、経営に役立つ旬なテーマで開催しているセミナー、勉強会にも参加いただけます。
ぜひこの機会にお申し込みください。
入会希望の方は必要事項を記入の上申請ください。審査の上登録させていただきます。
【入会条件】上場企業および上場相当企業の課長職以上
早稲田大学商学学術院教授
早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授
株式会社CEAFOM 代表取締役社長
株式会社プロシード 代表取締役
明治学院大学 経済学部准教授