自著の推しポイント
誰もあなたを育ててくれない時代 ――成長を諦めないリーダーが実践する5つの自己点検
最後に「耳の痛い指摘」をもらったのは、いつですか
この記事を読んでくださっているあなたに、1つ質問をさせてください。
最後に誰かから、本気で耳の痛いフィードバックをもらったのは、いつでしょうか。
新入社員には研修があります。若手には指導係がつきます。課長には部長がいて、部長には役員がいる。ところが役職が上がるにつれて、あなたの仕事の進め方を横で見て、その場で直してくれる人は静かに減っていきます。経営層になれば、ほぼゼロです。株主も社外役員も結果は問いますが、あなたの思考の癖や判断の偏りを毎日指摘してはくれません。
つまり「誰も育ててくれない」という状況の最先端にいるのは、実は若手ではなく、現場で結果を出せるようになった上司や課長職以上のほうなのです。
にもかかわらず、育成の議論はいつも「どう部下を育てるか」に向かいます。私はここを逆から考えました。育てる側が自分を育てられていない組織で、育成制度だけが機能することはありません。
その考えをまとめたのが『自分で自分を育てる戦略書』(かんき出版)という一冊です。
月450時間超の現場に、私を育ててくれる人はいなかった
私は美術大学の建築学科を中退し、大手スーパーゼネコンにご縁をいただきました。配属されたのは竣工直後の東京ミッドタウンです。月の労働時間が450時間を超えることもある環境で、現場監督として動いていました。
そこには、新人を丁寧に育てる余裕を持った人など、誰もいませんでした。誰も教えてくれない。誰も褒めてくれない。誰も直してくれない。それでも、図面と職人の背中を見て、自分で自分に課題を出し、自分で採点するしかありませんでした。
私が「育成」というテーマを、精神論ではなく手順の問題として考えるようになったのは、この経験が原点です。
その後、独立して株式会社日本デザインを創業し、スクール事業を通じて延べ5万人以上、プロデュースしたスクールも含めると、数十万人の方の学習に関わってきました。そこで見えたことは、はっきりしています。
伸びる人と伸びない人を分けるのは、能力でも意欲でもありません。「いま自分に何が起きているのかを、自分で点検できるかどうか」です。
かつてのPDCAは、組織を前提にした仕組みでした。Check(評価)は上司がやってくれた。ところが今は、その上司自身がプレイングマネジャーで手が回らず、リモートで働く姿は見えず、若手は転職も副業も視野に入れて動いています。誰もCheckをくれない。ならば、自分で自分にCheckを回す仕組みを自作するしかない。本書はその一点を、5つの型として体系化したものです。
「頑張る」を、設計に置き換える
5つの型を、ごく簡単にご紹介します。
①自問の型(セルフ鼻へし折り)――自分の現在地を、都合よく見積もらない。能力の低い領域ほど自己評価が甘くなるのは、人間の一般的な傾向です。ここを崩さないと、その後の努力の方向が全部ずれます。
②解剖の型(セルフ丸裸)――やりたいこと・できること・求められていることを分けて書き出し、重なりを探す。強みと弱みを、感想ではなく事実で並べる作業です。
③強制の型(セルフ四面楚歌)――意志ではなく環境で縛る。私自身、この本ともう一冊を、あえて同じ日に別々の出版社から刊行しました。逃げられない締め切りを二重に置いたわけです。
④回復の型(セルフ不死鳥)――失敗しない技術ではなく、失敗から戻る速度を上げる技術。折れない人ではなく、折れてから起き上がる手順を持っている人が続きます。
⑤反復の型(セルフ自動操縦)――習慣化とは、やる気の話ではなく、意思決定の回数をゼロに近づける設計です。
経営に携わる方なら、③と⑤には既視感があるはずです。人の行動を変えるのは、呼びかけよりも仕組みだからです。組織に対して当たり前にやっている設計を、自分自身に対してはほとんど誰もやっていない。本書がやっているのは、それだけのことです。
「昔から言われていること」と「いま確かめられていること」は違う
本書で私がいちばん時間をかけたのは、原稿を書く作業ではなく、削る作業でした。
執筆当初、私は「意志力は使うと消耗する」という有名な理論を、章の柱の1つに据えていました。しかし調べ直すと、この説は大規模な再現実験で支持されなくなっていました。そこで、その章は柱ごと差し替えました。代わりに据えたのが「if-thenプランニング」――「もしAが起きたらBをする」と事前に条件と行動を決めておく手法で、90を超える研究のメタ分析で効果が確認されているものです。
引用したくなる有名な逸話も、因果関係の証明としては使わず、問いかけの材料に留めました。
経営判断も同じだと思っています。長く語られてきたから正しいのではなく、いま検証に耐えるから使える。自分を育てるという、最も感情的になりやすいテーマだからこそ、ここは譲れませんでした。エビデンスを重視される読者の方には、この一点をいちばん見ていただきたいと思っています。
読み終えたあと、部下に渡せる本にしたかった
本書は、読んで感心して終わる本ではなく、開いて手を動かす本として作りました。各型に自己点検の問いとワークがついています。期初、評価面談の前、異動や昇格のタイミングで、何度でも開き直せる構成です。
そしてもう1つ。この本は「渡せる」ようにしたつもりです。
部下育成でいちばん難しいのは、答えを教えることではなく、自分で問いを立てられる状態にすることです。上司が答えを与え続ける限り、その人は上司の限界を超えられません。1on1で伝える言葉に困ったとき、この5つの型は共通言語として使えます。
読後に目指してほしいゴールは、1つだけです。「成長したいけれど、頑張り方がわからない」という状態が、「次にやることが見えている」に変わること。 そして、あなたの下に、放っておいても伸びていく人が増えていくことです。
特に読んでいただきたいのは、部下育成の時間を確保できないまま数字を追っている部長職の方、次を任せたい候補者がいるのに育成の言葉を持てていない経営層の方、そして――誰からもフィードバックをもらえなくなった、経営者ご自身です。
ワインは、作り手がどんな土地で何を考えて造ったのかを1つ知るだけで、味わいが変わります。本も同じだと思っています。この本は、誰も育ててくれない現場に放り込まれた人間が、そこで生き延びるために身につけた方法を、20年かけて言語化したものです。そこを知ってから読んでいただけたら、たぶん一段、深く使えます。
もし手に取っていただけたら、ぜひ1カ所だけ、ご自身に当てはめて書き込んでみてください。読むだけで終わらせない1冊として、お役に立てればうれしく思います。
著者プロフィール:大坪 拓摩
株式会社日本デザイン 代表取締役 建設会社の現場監督を経て、未経験からデザイン業界へ転身。フリーランスデザイナーとして活動した後、「スキルによって人生の選択肢を広げられる社会をつくりたい」という思いから株式会社日本デザインを創業。
現在は、未経験者向けデザインスクールを中心に教育事業を展開し、多くの受講生のキャリアチェンジを支援。人材育成や組織づくりにも力を入れ、給与の現金手渡しや社長直筆の手紙、親も参加する入社式など、効率だけではなく人とのつながりを大切にする独自の企業文化を実践している。
自身の経験をもとに、一人ひとりの可能性を広げ、「日本人の生き方・働き方をより良くする」ことを理念に、教育を通じた社会課題の解決に取り組んでいる。
著書に『自分で自分を育てる戦略書 成長したいけど、頑張り方がわかりません。』(かんき出版)、『なぜ、3分で売れるのか? セールストークより大切な時間の使い方』(ダイヤモンド社)など。
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