セキュリティリーダーの視座

ビジネスもセキュリティも「数字で示すしかない」 - JERA CIO兼CISO 行徳セルソ氏(2/2 ページ)

デジタル部門はビジネスへの貢献で評価される

――現在はCIO兼CISOです。ご自身の役割として、何が一番大事だとお考えですか。

行徳氏: デジタル部門はビジネスに貢献しなければいけない、ということですね。素晴らしいインフラを作り、素晴らしいデバイスを入れても、トップマネジメントは、そういうことでは評価してくれません。どれだけ会社の利益に貢献しているかで評価されるんです。

――課題はどこにあるのでしょうか。

行徳氏: テクノロジーが業務にとって、会社にとってどういう貢献をするのか。そこをつなぐブリッジが足りない、コミュニケーションが足りないと、よく部門内で話に出ています。

 ですから、しっかりビジネスを理解して、そのテクノロジーがビジネスにどういうメリットを与えるのかをベースに判断しないといけないのです。投資をしたならリターンがなければいけないということです。

 もちろん、全部の案件がそうではありません。どの案件が実際にリターンを実現するのか、何が基盤なのかを可視化して投資を考えていく。業務にも投資しないといけないし、IT自体への投資も必要です。

――貢献を数値化するのは難しくないでしょうか。

行徳氏: KGIとKPIを使います。KGIは会社にとっての利益など基本的な数字で、KPIはそのKGIにどう貢献するか。このアプローチをとっていけば、実は数値化はそんなに難しくないんですよ。

 では、なぜ数字に落とすのが難しいと感じるかというと、数字にしてしまうとうそがつけなくなるからです。JERAでも、デジタルに投資した以上、どれだけのリターンを出すかを約束しないといけない、と言っています。

Photo by 山田井ユウキ

――他部門や経営層とは、どのようにコミュニケーションを取っていますか。

行徳氏: CxOの立場として一番大事なのは、各CxOがどういう課題を抱えているかをちゃんと理解することです。そのうえで、各CxOの領域ごとに定期的な会議を設けて、今どういう案件があって、何を進めているかを共有しています。

自分で勝手に決めるのではなく、いろいろな人の意見を聞いて、何を優先するかを決めています。

アセスメントは目的ではない

――セキュリティはどのように位置づけていますか。

行徳氏: セキュリティだけを切り離しては考えていません。どうやって強化していくかは、全体のデジタル戦略の中で決めています。

 JERAの場合は、まずNISTのフレームワークでアセスメントをします。そこで強化すべき領域を明確にして、ロードマップを作成する。あとはそれに沿って進めていきます。最近はAIセキュリティも論点になりますが、これも同じで、AI戦略全体のなかで議論しています。

――アセスメントの結果は、どう使っていますか。

行徳氏: 他社がどういう対策を取っているかを見て、ベンチマークをしています。そのうえで、JERAとして何を優先するかを決め、今はそれに沿って進めている段階です。大事なのは、アセスメントすること自体が目的ではない、ということです。アセスメントは出発点であって、JERAのセキュリティが問われるのは、そこから何をするかです。

――経営層や現場には、どのように働きかけていますか。

行徳氏: 世間で大きなインシデントが起きたときは、必要に応じて、経営層に速やかに共有しています。根本原因は何だったのか、ランサムウェアなのか、脆弱性が狙われてネットワークに侵入されたのか。そこを明確に説明しなければいけない。それが業務にどういう影響を与えるのかも、CxOの皆さんと共有しています。

 経営層のセキュリティ意識を上げないことには、施策を現場に下ろしても動きません。また、現場に対しても、定期的に教育を行っています。組織全体の意識を上げないことには始まりませんから。

Photo by 山田井ユウキ

――脆弱性への対応は、どのようにしていますか。

行徳氏: 脆弱性の情報はいろいろなところから出てきますが、それが自社にとって重大かどうかは、自分たちで判断するしかありません。アセットの重要度とリスクのレベルで判断して、打ち手を考えるのです。ただ、AIの進化のスピードがすごく速いので、セキュリティ側もAIを使わざるを得ない状況になっています。これからどう展開するか、セキュリティベンダーと議論しているところです。

――やることがたくさんありますね。

行徳氏: 楽しいですよ。セキュリティも効果をしっかり目に見える形にしていかないといけない。だから、数字が大事になってくるんです。

次の世代のために、エレベーターのかごを下ろす

――デジタル戦略の全体像はどのように描いているのでしょうか。

行徳氏: 「Digital Vision 2030」 がゴールです。業務の戦略と、それを支える技術基盤、そして人とプロセス。この3つをそろえて考えるというフレームワークで進めています。

 業務については、これまではデータドリブンマネジメントと言っていたのですが、今回のキーワードはAIドリブンオペレーションです。さまざまなAIを組み合わせて実現していく、というのがJERAのAI戦略になります。

――技術の標準化を進めているとうかがいました。何のためでしょうか。

行徳氏: 人材育成のためです。使う技術がバラバラだと育てられませんからね。JERAとしてこれがコアコンピタンスだと決めれば、それに合わせて、どういう研修が必要か、どういうスキルセットが必要か定義できるんです。タイミングによって中身は変わっていきますが、フレームワークは変わりませんから、そこをベースに標準技術を決めていきます。

――個人として大切にしている考え方はありますか。

行徳氏: 2つあります。若いころから、何かをやるときには、それが自分にとってプラスになるか、知識や経験になるかを考えてきました。そして現在大切にしているのは、人材育成です。

 私自身、いろいろなトレーニングや経験のチャンスがあって、この立場になっています。これから大事なのは「send the elevator back down」です。エレベーターに乗って(周囲の協力を得て)ここまで来たんだから、次の世代のためにエレベーターはまた下ろしておかないといけません。

――今後、個人としてやっていきたいことは。

行徳氏: 私がスタッフに提供できるのは、知識と経験です。スタッフには、JERAでなくても、どこかでCIOになれるようなキャリアを支援していきたいと思っています。

 自分の部下たちが、外に行ってCIOのポジションで活躍できるというのが、一番うれしいですね。よく考えるのですが、上司は部下のためにいるんです。上司だから偉いわけではなくて、部下がいい仕事をできる環境を提供するのが上司の大事な役割なんです。

Photo by 山田井ユウキ

――最後に、エグゼクティブの読者へメッセージをお願いします。

行徳氏: デジタルへの投資は、通常のビジネス投資と同じ判断基準で考えていただきたい。特別扱いする必要はありません。社内にないスキルが外にあるなら使えばいい。ただし、お互いにメリットのある関係にすることが前提です。難しく考えなくても大丈夫。正しい数字、正しい計画を作っていきましょう。

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サイバー攻撃が高度化する今、もはや一社だけで立ち向かうことはできません。本連載では、第一線で活躍するセキュリティのキーマンの経歴や思考、現場で培った実践知を紹介し、多くの方の判断のヒントとなる視点を届けます。ITmedia エグゼクティブでは、こうした知見を起点に、組織を越えた協力や交流の場づくりも進めていきます。

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