マネジメント力を科学する
第48回:AI時代、マネジャーに求められる絶対的価値とは──1970年のアルビン・トフラーの警告が令和によみがえる(1/2 ページ)
エグゼクティブの皆さんが活躍する際に発揮するマネジメント能力にスポットを当て、「いかなるときに、どのような力が求められるか」について明らかにしていく当連載。
今回は、AIの普及で更に加速度を増す私たちの社会がうけている"未来からの衝撃"について、半世紀以上も前に未来学者の故・アルビン・トフラーが正確に予言していたことから、どう対応すれば良いのかについて学んでみます。
半世紀以上前に、「加速度的に忙しくなる毎日」を正確に予見していたアルビン・トフラー
最初に、少し長い引用となりますが以下の文章を読んでください。
「社会における加速的推進力というものが、今日、個人の普通の日常経験と相反してしまう点がある。なぜならば、変化の加速化は多くの状況の継続時間を短くするからである。これは、"雰囲気"を徹底的に変える水路を速く通過せしめることになる。ということは、変化の遅い社会での人生と比較すると、いつ、どんな時間的区分をとってみても、現在はもっと多くの状況がこの水路を流れるということなのだ。このことは人間心理における深遠な変化を意味するのだ。
というのは、われわれはともすれば、一度に一つの状況に焦点を合わせようとするが、他の膨大な量の状況がわれわれの上を通っていく、そのスピードが速いためわれわれの果たさなければならない役割の数と、われわれが選択しなければならない数が倍化して人生の全構造がますます複雑なものになってしまう。そして、これが今日、人生が息苦しいほど複雑だという感じを与える原因になっているのである。」
この文章が書かれたのは1970年、アルビン・トフラー著『未来の衝撃』の中の一節です。半世紀以上前の指摘でありながら、いまAI時代を生きる私たちの現実を、そのまま描写しているかのように感じられます。
加速社会がもたらした「断片化」という病
現代のビジネス環境は、通知と情報の奔流の中にあります。メール、チャット、オンライン会議、SNS、ダッシュボードのアラート。経営者やマネジャーは、次々と流れ込む情報に反応し続けなければならない構造に置かれています。
さらにAIの進化によって、意思決定のスピードは一層加速し、アウトプットの量と質は同時に高まりました。その結果、組織の中で先に起きているのは「高度化」ではなく「断片化」です。
本来、マネジメントとは複雑な現実を構造化し、焦点を定め、組織のエネルギーを一点に集める営みです。しかし加速環境の中では、マネジメント自身が断片化され、テーマが深まらないまま次の議題へと移っていきます。会議は増え、論点は増えますが、本質的な議論は蓄積されません。
トフラーが指摘した「継続時間の短縮」は、まさにこの現象を言い当てています。
AI時代のマネジメントは「継続時間」を設計せよ
では、AI時代のマネジメント陣は何をなすべきなのでしょうか。
私は、それは「継続時間を設計すること」だと考えています。すなわち、断片化する環境の中で、あえて1つのテーマに対する継続時間を長く確保し、深掘りできる環境を意図的につくることです。
AIは大量の情報を瞬時に処理し、選択肢を提示し、仮説を生成します。しかし、問いを深め続ける力、曖昧なまま熟考する力、複数の視点を往復しながら概念を統合する力は、人間のチームにこそ残された価値です。
そしてその価値は、「時間」を前提とします。短い会話の断片からは生まれません。同じテーマに繰り返し立ち戻り、問い直し、修正し、再定義する。そのプロセスの中で初めて、組織固有の洞察が形成されます。
「忙しさ」を美徳とする組織の危うさ
ここで重要なのは、「忙しさ」を美徳としないことです。
加速社会では役割の数も選択の数も増えます。マネジャーは多忙であることに慣れ、それを責任感の証と錯覚しがちです。しかし、テーマが深まらないままタスクだけが増えていく状態は、組織の思考力を確実に劣化させます。
AIが加速させるのは処理の速度であって、洞察の成熟ではありません。むしろ、人間側が深く考える時間を確保しなければ、組織は速く動くほど浅くなります。
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