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捨てる事業と新規事業に無関心な無能経営者生き残れない経営(3/3 ページ)

「捨てる決断」をした近年の快挙は、Appleだ。2001年、従来のOSを捨て、新OS「OS X(オーエステン)」に切り替えた。その後のiPadの成功が、Appleの「捨てる決断」の正しさを証明している。

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 もう一つ、今この閉塞期にこそ大いに学ぶべき好例がある。リコーの「新規事業に開発費25%」である(’11.1.25.日本経済新聞)。昔の経験だが、通常の企業には見られないほど、製品の開発や製造に、営業の意見を取り入れるリコーの姿勢に感銘を受けたことを鮮明に覚えている。今回の新規事業への重点シフトも、企業の触覚が鋭い一つの現れだろう。

 リコーが将来の利益成長が見えにくい複写機などの事務機器部門に代わる新たな収益源として、プロジェクター・企業向け経営コンサルティング事業など新規事業の育成を急ぎ、新規事業の売上高を、現在の15%から2015年には25%程度に引き上げる計画だ。そのために研究開発費の約25%(従来比数%アップ)、研究開発部門の人員の約25%(従来は数%)を、新規事業に割く。

 以上垣間見てきた経営現場の実態をまさに戒め、かつ裏付けるP.F.ドラッカーの格好にして、極めて具体的な主張がある(上掲書)。

 「今日のような乱気流の時代にあっては、変化は常態である」「急激な構造変化の時代にあっては、生き残れるのは、自ら変革の担い手、チェンジリーダーとなる者だけである」「チェンジリーダーとなるために必要とされる条件の第一が、変化を可能にするための仕組みとしての廃棄である」そして「廃棄」のときとして、(1) 製品などの寿命が、まだ数年はあると思われるような状況になったとき、(2) 製品などが、償却済みを理由として維持される状況に到ったとき、(3) 昔ながらの製品などが,これから成功させるべき製品などを邪魔するようになったとき、とする。廃棄決断のタイミングが、如何に大切かが分かる。

 さらに、「廃棄は、体系的な作業として行う必要がある」として、あるサービス受注会社が、毎月第一月曜の午前中、全従業員で自社活動のすべてについて廃棄をするための点検会議を開いて成功している例を挙げている。そして、チェンジリーダーになるためには2つの予算が必要であるとする。1つは事業継続のための予算で全予算の80〜90%、もう1つは未来のための予算で10〜20%、好不況に関わらず一定に保つべきとしている。

 「廃棄」と「明日をつくること」を、日常業務の中に組み込んでいるのである。世の中の多くの経営者に心してもらいたい、優れた着想である。 

著者プロフィール

増岡直二郎(ますおか なおじろう)

日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。



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