2、プロフェッショナルの教育設計という視点から
プロフェッショナル教育を受ければ、専門的な知識体系を習得できるが、そこに至る3段階がある。即ち「選抜」(将来有望な参加者を選ぶ)、「指導」(専門知識教育)、「正式評価」(パスすると認定資格を与える)であるが、マネジメント教育の場合は根本的に違いがある。
(1)選抜:
(a)プロフェッショナル教育とは、初心者相手である。しかし、マネジメント教育は「経験先行型」で、全くの初心者を相手にしない。
→【反論】今のMBAプログラムがそうなっているだけである。弁護士でも会計士でも建築士でも経験先行できれば、それに越したことはない。一方、マネジメント教育は初心者対象でも問題ないし、その後経験の中で再教育を重ねていくことも考えられる。
(b)ビジネススクールは、教科書の知識より多様な経験が必要であり、クラス内の多様性が学習のための必須条件で、メンバーのコンビネーションが強力である方がよい。知識体系の習得が教育の目的ではない。
→【反論】今のMBAプログラムがそうなっているだけで、現在の経営者たちが経営の知識体系を習得していないから基本的ミスを冒したり、応用問題を解けなかったりするわけである。一方、医師でも弁護士でも現場に立つと、多様な経験やチームプレーが必要な場面に遭遇するのであり、そういう面の教育がむしろ必要であろう。
(2)指導:
(a)企業リーダーやMBA卒業生のアンケート調査で「将来採用したい人材」や「現在のキャリアに役立っていること」として、個々の専門知識より、「思慮深く、意識が高く、鋭敏で、柔軟で、適応性の高いマネジャー」、あるいは「授業自体よりも学習環境を評価する」となっている。統合のスキルがマネジャーをマネジャーたらしめる能力であり、マンジメント教育がプロフェッショナル教育と同じであってはならない核心である。
→【反論】統合のスキルが必要なのは、医師でも弁護士でも全く同じである。今や、総合内科があり、チーム医療があり、開業医が多くの病を受けて立つことで医療費の削減が課題となっており、へき地の医療が総合力を要求される。むしろこの面では、プロフェッショナル教育がマネジメント教育に学ばなければならない。
(b)マネジメント教育は「万人向けの既製服」ではない。キャリアの段階で学習ニーズが異なる。マネジメント教育は、駆け出しの頃に1度だけ受けるより、キャリアを通じて何度か受けるべきものである。
→【反論】マネジメントの資格取得条件に、キャリアに応じた追教育、追テストを組み込めば済むことである。
(3)評価:
(a)職能別専門分野で高得点を取るための専門知識だけが、マネジメント教育ではない。マネジメント教育の真の役割は、対人関係にまつわるソフト面の、定義できない特性と経験にある。最高得点を取る者が、ゆくゆくは最高のビジネスリーダーになるという誤った通説がまかり通ることになり、秩序を乱す行為をし、多様性が軽視されることになる。
→【反論】ちょっと待って欲しい。医師や弁護士らは最高得点を争って、多様性を失ってもよい、あるいは彼らはそんなことに関心はないとでもいうのだろうか。既に述べてきたように、彼らこそ多様性を身につけて欲しいものだ。マネジメントに対する偏見にも通ずる。
(b)マネジメント教育に携わる者は、プロフェッショナリズムの誘惑に耐えなければならない。専門知識は、ビジネススクール・カリキュラムの重要な要素の1つだが、マネジメントの本質ではない。
→【反論】いや、専門知識はマネジメントの本質の1つである。そう捉えられていないから、今の経営のていたらくの状態が生じているのである。経営者が、経営理論をきちんと身につけず、経営倫理意識が高くないから、健全な経営の執行に支障を来たし、非常事態という応用問題にも柔軟に対応できず、右往左往するのである。
経営者をプロフェッショナルとして位置づけることは、確かに難しいと思う。しかし、現実が必要と思われるくらいに乱れているから提案せざるを得ないのである。工夫をすれば、経営者のプロフェッショナル化は不可能ではない。
著者プロフィール
増岡直二郎(ますおか なおじろう)
日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを経て現在、「nao IT研究所」代表。
その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)。
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