アベノミクスによる金融緩和は国民の9割を不幸にする:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
目先の株高やお祭り気分に流されてはいけない。本当の意味での「景気回復」を冷静に考える必要がある。
円安になればエネルギー価格は上がります。すでに電力各社は電気料金を値上げしました。ガソリン代も高騰しています。円安になると潤う輸出産業もあるでしょうが、エネルギー価格の高騰はさまざまな産業のコストを押し上げます。もちろん庶民の生活も直撃します。
安倍総理と黒田総裁が目指しているのは「そういう社会」です。
ひとにぎりのお金持ちと一部の大企業だけが潤い、一方で庶民の暮らしは今以上に悪くなる。その格差は今とは比べものにならないほど、大きく開いていくでしょう。
それなのに、なぜ政府も、日銀も、経済界も、評論家も、経済学者もそう言わないのか。彼らは、本気で今のままで「だいじょうぶ」だと信じているのでしょうか?
もちろんすべての人が「だいじょうぶ」と信じているわけではありません。「このままではいけない」と警告する賢い人もたくさんいます。しかし、その声は、のぼせ上がった雰囲気に押されて小さくしか聞こえてきません。
「わざわざ景気に水を差すようなことを言わなくてもいいじゃないか」
「単なるヘソ曲がりだろう」
そう言われることのほうが多いようです。リフレ政策の批判派がメディアでコメントを求められることはあっても、「少数派の意見」として、「一応こういう意見もあることを付け加えました」という程度の扱いになりがちです。いくら警鐘を鳴らしても「そういう可能性もないことはない、ということですね」で終わってしまいます。
「今回の金融政策は世界的にも評価されている」
「IMF(国際通貨基金)も、FRB(連邦準備銀行)も、お墨付きを与えている」
「ノーベル賞を受賞したクルーグマン博士の説に則った政策だ」
安倍政権の金融政策を推進しようとする政府、日銀、経済学者は「権威の裏付け」を振りかざして胸を張っています。反論する相手には、小難しい数式や都合のいいところだけ切り取ったグラフを持ちだして「ほら、このとおり」と、煙に巻いているようにしか思えません。
わたしは、アベノミクスで注目されるずっと前から、いわゆる「リフレ派」と呼ばれる経済学者の主張に強い懸念を感じていました。つまり「デフレが悪い」「インフレ政策で景気を浮上させろ」「インフレターゲットこそが日本経済を救う」という主張です。
そもそも「デフレがダメ」という主張が根本的に大間違いだとわたしは考えているからです。しかし、2012年末の選挙で自民党が大勝し、安倍政権が発足して以来、リフレ派は安倍総理の下に結集し、日本を「リフレ政策」の壮大な実験場にしてしまった。4月4日、黒田総裁は、これを世界に向けて宣言したのです。
感じていた懸念は現実のものになりつつあります。
一番心配なのは、この金融政策によって最もつらい思いをするであろう、大多数の働く人、消費者たちが「この政策は正しい」と信じていること、いや、信じたいと思っていることです。その多くの人の「切実な願い」が、さらに状況を悪いほうに押しやって行く可能性が強いのです。
この本では、これまでマクロ経済学や中央銀行の金融政策なんか、まったく興味がなかったという人にもなるべく分かりやすく「今何が起きているのか」「今後何が起きる可能性があるのか」を書いていきたいと思っています。
「アベノミクス効果」とうたわれているものの正体はいったいなんなのか。「黒田ショック」で、なぜ一時的に株価が上がり、円安が加速したのか。彼らが目指す「インフレ」によって得をする人は誰なのか。安倍&黒田の「アベクロコンビ」は、どんな未来を理想としているのか。そしてなぜ、デフレは「すべての元凶」とされてきたのか。
アベノミクスの「3本の矢」は、次の3つです。
(1)金融緩和
(2)財政出動
(3)成長戦略
この本では、特に(1)の金融緩和について詳しく説明しながら、なぜ一般に信じられている「景気回復」が幻なのかを論じたいと思っています。断っておきますが、わたしはアベノミクスを全否定しているわけではありません。(3)の成長戦略については、本当に実行できればすばらしい、というものも含まれています。TPPへの参加も安倍総理の英断だったと思っています。
どうか、目先の株高やお祭り気分に流されず「アベノミクス」の本質を見極めてください。本当の意味での「景気回復」とはなんなのかを、今こそ冷静に考え直すことが何よりも大切です。
正しい知識と認識を持つことは、自分で判断する力になり、自分の資産や生活を守ることにつながります。そして、真の意味で強い日本経済を取り戻す力につながっていくはずです。この1冊が、少しでも読者のみなさんの力になることを願っています。
著者プロフィール:中原圭介(なかはら けいすけ)
経営・金融のコンサルティング会社「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー兼エコノミストとして活動。企業・金融機関への助言・提案や富裕層の資産運用コンサルティングを行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・金融教育の普及に努めている。経済や経営だけでなく、歴史や心理学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。
主な著書に『アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!』『これから世界で起こること』(東洋経済新報社)、『シェール革命後の世界勢力図』『経済予測脳で人生が変わる!』(ダイヤモンド社)、『騙されないための世界経済入門』『2015年までは通貨と株で資産を守れ!』(フォレスト出版)、『アベノミクスの不都合な真実』(角川書店)、『お金の神様』(講談社)などがある。
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