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憲法改正は、本質を踏まえた「乗り降り自由」の議論が必要ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)

憲法改正の是非や方向性を判断するうえで大切なのは、国民一人ひとりがいまの憲法の本質を理解したうえで変えるべき点、残すべき点を考えること。

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憲法の本質そのものを変えられる?

 「いまの憲法は押し付けられたものだから変えるべき」、という意見があります。

 しかし、憲法改正の是非や方向性を判断するうえで大切なのは、押し付けか否か、ということではなく、いまの憲法の本質を理解したうえで、変えるべき点、残すべき点を考えることではないでしょうか。(そもそも、いまの憲法は"押し付け"だったのか?この問題を考えるには、本書と同時出版された『原典から読み解く日米交渉の舞台裏 日本国憲法はどう生まれたか』(青木高夫著)が、とても参考になります)

 もちろん、前提を疑ってみること、すなわち、「憲法の本質や三大原則はそもそも正しいのか?」と問うことも大切です。

 憲法の本質そのものの当否を考えるうえで参考になるのが、大ベストセラーとなった「国家の品格(藤原正彦。新潮社)」です。この本は、私も何度も読み返し、論理だけでなく、情緒と形も大事であることを学んだ一冊です。

 この本のなかに「自由、平等、民主主義を疑う」という章(第三章)があります。

 この章では、憲法を支える思想を痛烈に批判し、「自由の強調は“身勝手の助長”にしかつながらなかった」「"自由"という名の化け物のおかげで、日本古来の道徳や、日本人が長年のあいだに培ってきた伝統的な形というものが、傷けられてしまった」と書かれています。

 確かに、自由を強調し過ぎることは身勝手の助長につながるのかもしれません。しかし、憲法が「自由を保障する」というのは、「国家権力によって不当に制約されない」という意味であって、身勝手に何でもしてよいということではありません。しかも、憲法が保障する自由は、憲法の本質や原則(自己実現、国民主権など)に関連する重要なものに限定されています。

 ですから、いまの憲法が自由を規定していること、それ自体が日本古来の道徳などを傷つけたというのは、考え難いところです。

 「国家の品格」では、国民主権についても、「国民は永遠に成熟しない。放っておくと、民主主義すなわち主権在民が戦争を起こす」として、民主主義にも抑制を加えるべき、暴走の危険を抑制するには真のエリートが必要、と説いています。

 確かに、歴史を振り返ると、民主主義・主権在民の国が戦争を引き起こしたことがありました。独裁者として知られるヒトラーですが、もともとは、ヒトラーの率いるナチスが「総選挙」で第一党になって首相に就任したのですから、ヒトラーは民主的な憲法(ワイマール憲法)のもとで選ばれた首相といえます。ヒトラーは、政府に独裁権を与える法律(全権委任法)を議会で通過させて、ほかの政党を解散させ、強力な一党独裁体制をつくりました。その後、ヒトラーが最高主権者になり、言論・出版の自由を無視し、労働組合を禁止し、教育を支配することになったのです。

 このような歴史的事実にも照らすと、「国民主権(民主主義)に抑制を加えるべき」という考えは、そのとおりといえます。

 そのため、いまの憲法は、国民主権だから何でも決められる、ということにはなっていませんし、憲法の改正にも限界があると考えられています。真のエリートが必要であるとしても、真のエリートかどうかを見極める最終決定権は国民に留められるべきでしょう。

 そのように考えると、国民主権という前提を疑っても、国民主権そのものを否定すべき充分な根拠はなさそうです。

乗り降り自由の議論が必要

 裁判所では、重要な裁判や特に難しい裁判は、3人の裁判官の合議体で審理されます。今は、裁判員制度も導入されています。

 私が裁判官だったころ、新任研修などで、「裁判所の評議は、乗り降り自由」ということを教わりました。乗り降り自由というのは、「評議中は、相手の意見がいいと思えば、その意見に自由に乗っていいし、自分の意見から自由に降りていい」という意味です。

 判決の内容について議論するとき、3人(裁判員裁判の場合は9人)それぞれが自分の意見に固執していたのでは、評議をする意味がありません。

 憲法改正の議論も、「乗り降り自由」であることが必要です。ただし、乗るも降りるも、まずわれわれ国民一人ひとりが、憲法の本質を理解したうえで、変えるべき点、残すべき点を考えることが肝要です。そのために本書を手に取り、一読いただければ幸いです。

著者プロフィール:白川 敬裕

弁護士(東京弁護士会所属)原・白川法律事務所パートナー

東京大学法学部卒、ラサール高校卒。

大学4年在学中に司法試験に合格。最年少(当時)の24歳で裁判官に任官。民事訴訟、医療訴訟、行政訴訟、刑事訴訟等の合議事件に関わる。民事保全、民事執行、令状等も担当。2003年 弁護士に転身。著書「ビジネスの法律を学べ!」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、ビジネス法務(中央経済社)「民法改正KEYWORD」連載中、「会社の健康リスク対策は万全か」(共著。株式会社フィスメック)

NPO法人 日本融合医療研究会理事


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