途上国に必要なのは寄付ではなく「もの作り」――バングラデシュから始まったマザーハウスの挑戦:ITmedia エグゼクティブ勉強会リポート(2/2 ページ)
途上国を発展させるのは寄付だけではない。マザーハウスはもの作りにより、途上国から世界に通用するブランドづくりを目指している。
ストーリーテラーである店員が商品を販売
マザーハウスは、山口氏と山崎氏が2人で作った会社である。会社設立前、外資系証券会社でエコノミストをしていた山崎氏は、「山口との出会いは、山口が20歳、私が21歳のとき。大学のゼミだった。当時、私自身はバックパッカーでアジア諸国を回り、アジア金融史を研究していた」と話す。
「金融業界のど真ん中にいたのでマクロの世界にいた。一方、山口はフィールドを駆け回るミクロの世界にいた。大学時代からよく議論してぶつかりました。そんな縁もあり、最初に作った160個のバッグを、まず身内に売り、次に私のところに売りに来た。そのとき、こういうことをしたいのであれば会社を作らなければならないという話しをした」(山崎氏)。
そこで2人で出資をして、2006年にマザーハウスを設立。
「もの作りに携わるまでは、どのように作られているのか、まったく理解していなかった。これだけ情報化社会であっても、自分たちの身の回りのものが、どこで、どのように作られているか知らないことが多い。そこでマザーハウスでは、すべての工程をオープンにして、お客様ともの作りを共有している」(山崎氏)。
マザーハウスのビジネスモデルは、素材の調達から製造、販売までのほぼすべてを自分たちで行うことにこだわっている。店舗デザインやカタログなども自分たちで作っている。そして出来上がった商品は、「ストーリーテラー」と呼ばれる店員が、バッグができるまでのストーリーとともに顧客に提供している。
ディスカッションで「人、モノ、金」を考える
マザーハウスという会社を理解したところで、同社が直面した「人、モノ、金」の問題について、セミナー参加者がグループに分かれてディスカッションをおこなった。まず「人」の問題について、「宗教・文化・言語」などの違いが指摘された。
バングラデシュはイスラム教の国であり、ネパールはヒンドゥー教の国である。そのため、宗教上の制約がもの作りにもかなりの影響を及ぼしている。たとえば、ラマダンの時期になると生産性が2割下がるとか、金曜日には工場を動かせないとか、お祈りの時間が必要になるなどである。また女性の立場も難しい問題である。
「バングラデシュは、イスラム教の中でもリベラルな国であるが、女性がマネジメントとして活躍するのはまだまだ難しい国。いろいろと問題もあったが、日本人の女性が会社を設立したことに対して興味をもってくれたこともあり、好奇心旺盛な国なので、話を聞いてくれたり、協力してくれる人もいた」(山崎氏)
次に「モノ」の問題として「品質とロット」が挙げられた。もの作りにおいて、品質とロットには密接な関係がある。ロットが少ないと品質が上げにくく、高品質なものは大規模なロットに対応しにくい。山崎氏は、「バッグの品質は、半分以上が素材で決まるのだが、バングラデシュは良質なレザーが手に入る国であった」と話す。
バングラデシュには、「コルバニ・イード(犠牲祭)」というお祭りがある。この祭りは、預言者アブラハムが自分の息子をアラーに捧げる代わりに、一匹の牛を3等分して、家族、親戚、貧しい人に分け与えるというもの。この祭りにより、高品質なレザーが大量に放出されるためである。
最後に「金」の問題について山崎氏は、次のように語る。「ここ数年の急激な円安では、前職の金融業界の経験が非常に生きていると感じている。グローバルビジネスを進めるうえでは為替リスクなどを考えることは重要。将来的にはさらにグローバルに展開できる会社になりたいと考えている」
グローバルにビジネスを展開すると為替などのリスクに対処していかなければならない。その一方で、グローバルにビジネスを展開することでリスクを回避することもできる。東日本大震災のとき、一時的に日本国内の売上が急減した。この経験からグローバルにビジネスを展開する必要性を強く感じた。
山崎氏は、「マザーハウスのビジネスは、途上国を助けるビジネスだと感じている人は多い。しかし、途上国を助けるビジネスだとは一度も思ったことがない。バングラデシュやネパールから"世界に通用するブランドを作りたい"その理念の達成することを考えている会社がマザーハウスである」と話し、セミナーを終えた。
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