経営会議から慣性の法則を切り離す〜コーポレートガバナンス改革を超えて〜:視点(2/2 ページ)
外圧も相まって進むコーポレートガバナンス改革に比し、執行部門改革はどうか。相変わらず生産性の低い経営会議を継続していないだろうか?
驚くべきことに、これが多くの企業の経営会議の実態だ。経営会議の年間所要時間250時間の内、戦略の開発・承認に費やされる時間はわずか15%(3時間/月)との調査もある。経営会議は、執行部門の中で最も低付加価値な会議といっても過言でない。
CEO自ら「共有」「協議」「審議」を峻別
経営会議のアジェンダを経営企画部や秘書室が作成している企業は、要注意だ。残念ながら、議題はなんら優先順位付けがなされない。議案には、共有目的、協議目的、審議目的の3種あり、これを事前に峻別するのはCEOの仕事だ。(図A2参照)
共有議案は事前の資料共有を必須とし、会議での説明は制限時間を設け、簡潔を旨とする。協議・審議議案が多ければ、共有議案は経営会議のアジェンダから外す。そもそも経営会議は部門責任者の集まる場。管掌部門内の意思決定は管掌役員自らの責任において成されるべきだ。株主総会や取締役会は多数決の原則で運営されるが、経営会議での共有議案の濫造は責任の所在を曖昧にするだけだ。
協議議案は論点を明確に。賛否の分かれる問いを明示しなければ協議のしようがないし、帰納的であれ、演繹的であれ、論理的帰結であれば協議に値しない。異なる視点から議論を戦わせ、賛否の背景を理解し、対立を解消する一段上の視座を探るのが経営会議。協議が盛り上がらないとすれば、それは共有議案にすぎないか、賛否を浮き彫りにする勇気が欠如しているか、だ。
審議議案は必ず複数オプションを示す。経営は常にトレードオフ。あちらを立てれば、こちらが立たず。だからこそ、トップマネジメントがチームで意思決定する。解決すべき経営課題や実現したい経営目標に照らし、「あれも、これも」でなく、「あれか、これか」の苦渋の選択をする。これこそ経営の醍醐味(だいごみ)。代替案がないとすれば、それは経営会議マターでないか、重要な経営リスクを見落としているか、だ。
外部の“血(智)”を導入する
多くの日本企業では、役員は出世競争の最終到着点。役員昇進後に転職するケースは極めてまれだ。従い、経営会議は数十年もの間、自己流の「作法」を疑うことなく踏襲していることも珍しくない。取締役会であれば、社外取締役が新たな風や緊張感を持ち込むが、経営会議の非常識には気付く術がない。
ならばあえて、経営会議に社外メンバーを参画させてはどうか。他社の現役役員は守秘の観点から難しくとも、事業会社のトップマネジメント経験を有するプロフェッショナルであれば検討に値する。経営人材の流動性の低い日本だからこそ、執行部門改革の「触媒」として、他社の経営会議の意思決定モデルを知り、経営会議に長期伴走できる経営参謀の果たす役割は大きい。
著者プロフィール
田村誠一(Seiichi Tamura)
ローランド・ベルガー シニアパートナー
外資系コンサルティング会社において、各種戦略立案、及び、業界の枠を超えた新事業領域の創出と立上げを数多く手掛けた後、企業再生支援機構に転じ、自らの投融資先企業3社のハンズオン再生に取り組む。更に、JVCケンウッドの代表取締役副社長として、中期ビジョンの立案と遂行を主導、事業買収・売却を統括、日本電産の専務執行役員として、海外被買収事業のPMIと成長加速に取り組んだ後、ローランド・ベルガーに参画。
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