アフターコロナに急展開するASEAN食品Eコマース:飛躍(2/2 ページ)
新型コロナウイルスが猛威を振るい、外出自粛を余儀なくされた期間、世界各地で食品Eコマースが伸長した。
いわば、リアルなディストリビューターが担っている機能をオンラインで置き換えようというビジネスである。商店がBukalapakのアプリで商品を注文すると、頼んだものは同日中に届く。納期や価格透明性で小規模ディストリビューターに勝るため、商店にとってBukalapakを使うメリットは大きい。
メーカー側にとっても、特に伝統的小売に対する流通でBukalapakで流通させるメリットは大きい。伝統的小売との取引では、個別配送や代金回収リスクが悩みの種ゆえにディストリビューターに任すことが多い。その場合、ディストリビューターによって小売との取引や流通の状況をブラックボックス化される傾向も強い。
しかし、Bukalapakのようなプラットフォームができればディストリビューターは不要となる。メーカーもどの小売にどれだけ何が流通できたがよりクリアに見えるようになる。こういったモデルが普及していけば、フラグメントで非効率性が大きく残るリアルディストリビューターの世界は一気にディスラプトされるはずだ。
2、3 オンラインデリバリーの躍進
3つ目の可能性は、買い物代行に代表されるオンラインデリバリーの席巻を挙げる。前提として、オンラインデリバリーは一般的なEコマースとはビジネスモデルが異なる。Amazonや楽天は、多数の商店をオンライン上に集めたモール型サイトだ。
一方、オンラインデリバリーでは、リアルな小売店舗であるスーパーやコンビニまでは食品が実際に流通される。そこを拠点に消費者にデリバリーされるというモデルだ。サプライチェーンの観点で両者は異なる形態であり、ゆえにオンラインデリバリーはEコマースと異なるビジネスと捉えられる。だが、消費者にとってみればネット上で注文をして自宅まで届けてくれるという様式は変わらない。
そして、東南アジアではEコマースではなく、オンラインデリバリーが食品配達チャネルのスタンダードになるという見方も強い。その背景には東南アジアで広く浸透したライドヘイリングプロバイダーの存在がある。
東南アジアはライドヘイリングの車両(バイク含む)の地理的密度、ならびに消費者当たり台数が世界でも屈指の高い水準にある。密に張り巡らされた車両網によって、短時間でのデリバリーが可能になっている。
Eコマースにはこの短時間デリバリーは難しい。鮮度が重要で、かつ「今日の夕食の食材の注文」という使い方も踏まえると、オンラインデリバリーがEコマースよりも浸透していく可能性が高いというわけだ。実際、GrabやGo-Jekは、新型コロナウイルスによってライドヘイリングが細った今、オンラインデリバリーを収益の柱とも考えている。また、ライドヘイリングプロバイダーだけでなく、セブンイレブンなど、小売自体もオンラインデリバリーに本格展開を見せ始めている。
2、4 食品D2Cの本格化
食品Eコマース(上記のオンラインデリバリー含む)の浸透率が大きく上がっていくと何が起こるだろうか。端的に言えば、食品メーカー側の流通戦略が変わるだろう。当たり前のことであるが、Eコマース化率が上がればメーカー側も流通戦略の中でEコマースをより重視するようになる。
リアル店舗に対する流通とEコマースでの流通の大きな違いのひとつはディストリビューター(中間流通事業者)の必要性だ。リアルな小売店舗に卸す場合には、小売と強い関係性を持ち、物理的にも近くてフォローに飛んでいけるディストリビューターが重宝される。
だが、Eコマースの流通ではそのような役割は求められない。極端な話、食品の流通構造はシンプルに「メーカー→Eコマース→消費者」という、いわゆるD2C構造に帰着するのではないか。
もちろん、D2Cになるとデリバーは小ロット多配送となるため、物流効率は落ちる。現在、食品D2Cとして世界でトレンドとなっているのが、健康食品など、カテゴリーが限られいてるのもその背景がある。
だが、前述の通り、東南アジアには密に張られたライドヘイリングのドライバー網がある。ここがより進化し、小ロット多配送に対応できれば、食品D2Cはよりマス向けの一般食品にも展開されるだろう。仮にこのような流通構造が実現すれば、非常にマグニチュードの大きいビジネス変革となる。
3、ASEAN食品Eコマースがもたらす周辺産業へのインパクト
最後のD2Cモデルで触れたが、食品Eコマースが進んでいけば、それは食品業界にとどまらず多くの産業にとってインパクトがもたらされるはずだ。
まずは、小売の在り方は変わるだろう。オンラインデリバリーが普及するのであれば、リアル店舗はオンラインデリバリーの集荷拠点として効率的な店舗配置であったり、フォーマットが期待されるようになる。
物流はより高度なデリバリーオペレーションが求められる。より多くの配送先に対して、より短い時間でデリバリーするには、人的オペレーションの効率化では到底追い付かない。テレマティクス(車載器)を用いたデリバリープランの最適化、そして状況に応じた柔軟な修正指示をAIで自動で出す仕組みが必要になる。
また、小口配送の増加は、車両販売の構成比にも影響をもたらす。都市部を小回りよく動ける冷蔵冷凍機能付きピックアップトラックの需要が更に高まるだろう。だが、それでも東南アジアの入り組んだ小道を効率的に回るのには限界があるかもしれない。そうなると世界でも実証実験が進むドローン配送が、東南アジアで真っ先に完全実用化される可能性も否定できない。
当然ながら、これらには仮説の域を超えないものもある。だが、食品Eコマースは間違いなく東南アジアで伸長し、周辺産業にも影響をもたらすはずだ。この変化にうまく乗ることが、ニューノーマルにおけるひとつの成功要諦になるはずだ。
著者プロフィール
福田稔
パートナー(東京オフィス 消費財・小売りチームリーダー)
慶應義塾大学商学部卒、欧州IESEビジネススクール経営学修士(MBA)、米国ノース ウェスタン大学ケロッグビジネススクールMBA exchange program修了。株式会社電通国際情報サービスにてシステムデザインやソフトウェア企画に従事した後、2007年に ローランド・ベルガー参画。
消費財、小売り、ファッション、化粧品、インターネットサービスなどのライフスタイル領域を中心に、グローバル戦略、デジタル戦略、新興国参入戦略、ビジョン策定などさまざまなコンサルティングを手掛ける。
PEファンドの支援を通じた消費財・小売り企業に対する投資・再生支援実績は業界 トップクラス。シタテル株式会社社外取締役、株式会社IMCF社外取締役、LYRA VENTURESのアドバイザーを務めるなど、業界の革新を促すスタートアップ企業に対する支援も行っている。
著者プロフィール
下村健一
ローランド・ベルガー シニアプロジェクトマネージャー(バンコクオフィス在籍 )
一橋大学社会学部卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経てローランド・ベル ガーに参画。アパレル、外食、食品、ホスピタリティサービスなどの消費財やサービス、ならびに自動車を中心に幅広いクライアントにおいて、海外事業戦略、M&A 戦略、長期ビジョンなどの立案・実行を数多く支援。また、上記業界において、PEファンドに対するデューデリジェンスや投資後バリューアップの支援経験も豊富。
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