「疑う」からはじめる。激変の時代を生き抜く思考・行動の源泉:ビジネス著者が語る、リーダーの仕事術(2/2 ページ)
リモートワークの定着化など、働き方が大きく変化するなか、管理職の在り方もこれまで通りとはいかなくなっている。転換の時代に通用するマネジメントの本質とは。
セールスの成績が良かったから営業部長に昇進する。マーケティングで能力を発揮したからマーケティング部長になったりする。つまり、現場で結果を出した人への名誉として、マネジャーの肩書は与えられています。
しかも、多くの企業では給与の階層が役職の昇降格と一致しています。このため、一定以上の給料を払うためには、役職につけることがマストになってしまっているのです。
マネジャーの資質とは「全体が見えている」こと
プレイヤーとして成果を出したことを根拠にマネジャーとしての役職を与える。これは経営上、最悪のリソース配置です。
なぜなら、プレイヤーとしては優れていても、マネジメントの適性がない者が「○○部長」や「○○マネジャー」といった立場につくと、チームがむちゃくちゃになるからです。しかも、当の本人たちは名プレイヤーだった成功体験があるので、部下やチームメンバーに対して「おまえらなんでできないの?」などと言い出しかねません。
僕も若いころから、いろいろな上司を見てきました。そのとき、なにを「デキる」「デキない」の判断基準にしていたかというと、「全体が見えているかどうか」です。これができていないマネジャーは、思いのほかたくさんいます。
チームのいまの状態や向かう先といった全体像が見えていないと、細かいミスばかりが気になってしまいます。すると、すぐに「誰がしくじったか」を追及する一方で保身を図ります。
もっと悪いのが、部下と競争するマネジャー。絶対にマネジャーになってはダメなタイプです。部下の能力を認めなかったり、それに嫉妬したりするマネジャーは、マネジメントに100%向いていません。相手を認めたくないがために、必死に競争しようとするからです。
凡庸な選手がメジャーリーグ屈指の名監督に
メジャーリーグの名将トミー・ラソーダの話をしましょう。かつて野茂英雄投手が活躍したとき、ドジャースを率いていた監督です。
監督としての成績は地区優勝8回、リーグ優勝4回、ワールドシリーズ優勝2回。もう文句なしのピカピカです。
けれども現役時代、ピッチャーとしてメジャーリーグに在籍していたときのラソーダは、なんと1勝もしていません。にもかかわらず、彼は監督としてメジャーの殿堂入りを果たしました。つまり、選手としての能力と監督としての力量はまったく別物だったということです。
「背中の名前のためにプレーするのではなく、胸の名前のためにプレーしろ」
ラソーダ監督の有名な言葉です。メジャーリーグでは、背中には選手個人の名前、胸にはチームの名前が入るのが一般的です。彼は選手に対して「チームの勝利に貢献すること」を求めていたということ。マネジャー(監督)としてリソースを最適に配置し、最高の結果が得られるようにチーム全体を見事に統率したのです。
二流監督ならいざ知らず、名監督は自分の思い付きやわがままで人を動かすことなどしません。ましてや、自分の成功体験を押しつけることなど論外でしょう。なぜなら、プレイヤーとしての実績は、マネジメントとまったく関係がないからです。
これから必要とされる資質は「未来志向」
「過去の成功体験だけで判断すると、マネジメントは100%失敗する」
僕はそう考えています。もし過去に成功体験があるのなら、まず、その成功体験を疑うことからはじめてください。
時間の本質は、前にしか進まないという「不可逆性」にあります。あなたが好むと好まざるとにかかわらず、世の中は必ず変化していきます。この変化を受け入れられるかどうか、変化に対応できるかどうかが、これからの時代に大切なマインドとなります。
本書では、いま目の前にある仕事の本質を自分の頭でとことん考え、「別のもっといいやり方やアイデアがあるのではないか」と疑いながら、価値を創造していくためのヒントをたくさん紹介しました。新型コロナウイルスの出現以降、仕事の前提条件が変わり、僕たちはこれまで以上に「当たり前」を疑い、新たな価値をつくっていく必要があります。マネジメントにおいても、さまざまな思い込みが、じつにたくさん存在しています。本書を読んで、そんな思い込みを疑い、いい方向に変えていくきっかけにしてもらえればと思います。
著者プロフィール:澤 円(さわ まどか)
株式会社圓窓代表取締役。
1969年、千葉県に生まれる。立教大学経済学部卒業後、生命保険会社のIT子会社を経て1997年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に入社。
情報コンサルタント、プリセールスSE、競合対策専門営業チームマネージャー、クラウドプラットフォーム営業本部長などを歴任し、2011年にマイクロソフトテクノロジーセンターセンター長に就任。業務執行役員を経て、2020年に退社。
2006年には、世界中のマイクロソフト社員のなかで卓越した社員にのみビル・ゲイツ氏が授与する「Chairman's Award」受賞した。
現在は、自身の法人の代表を務めながら、琉球大学客員教授、武蔵野大学客員教員の他にも、スタートアップ企業の顧問やNPOのメンター、またはセミナー・講演活動を行うなど幅広く活躍中。2021年3月より、日立製作所の「Lumada Innovation Evangelist」としての活動も開始。
著書に『マイクロソフト伝説マネジャーの世界No.1プレゼン術』(ダイヤモンド社)、『個人力 やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』(プレジデント社)、伊藤羊一氏との共著に『未来を創るプレゼン 最高の「表現力」と「伝え方」』(プレジデント社)。監修に『Study Hack! 最速で「本当に使えるビジネススキル」を手に入れる』(KADOKAWA)などがある。
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